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パルコ・プロデュース2022『凍える』観劇レポート

2022/10/15

公演レポ

パルコ・プロデュース2022 『凍える』

連続殺人犯と彼に娘を殺された母親、精神科医の3人が交差する舞台「凍える FROZEN」が東京・渋谷のPARCO劇場で開幕中だ。罪や孤独、心の傷など様々な問題を描いた、ずっしりと見ごたえのあるストレートプレイだ。
 同作はイギリスの戯曲家ブライオニー・レイヴァリーが手掛け、1998年に同国で初演。2004年にアメリカ・ニューヨークで上演され、同年のトニー賞演劇作品賞などにノミネートされた注目作だ。10歳の少女ローナが行方不明になり、それから20年後、連続殺人犯で小児性愛者のラルフが逮捕される。精神科医のアニータとローナの母ナンシーはラルフと面会し対峙していく。
 今回、演出を担うのは、「演劇は時代を映す鏡」だと言い、常に骨太な作品をこの世に送り出し、問題提起してきた栗山民也。舞台には、窓の少ない黒く閉ざされた壁に、まるで十字架のようにクロスした道が白く浮かび上がっている。
 「さよならニューヨーク」とタイトルが表れ、アニータ役の鈴木杏が登場し、モノローグが始まる。時折、彼女は地べたで泣いてもがいたり、カバンの中に顔を入れて叫んだりする。その精神科医らしからぬ姿に、アニータが何かとてつもない闇を抱えていることが分かる。
 続いて、ナンシー役の長野里美が「裏庭の風景」という題で語り始める。夫や思春期の長女との関係に悩みつつも、ガーデニングを愛する平凡な主婦の幸せそうな日常だ。しかし、ナンシーは次女のローナが家に帰って来ないことに気づく。

そして、ラルフに扮する坂本昌行がのっそりと現れる。うらぶれた様子で、一見、ちゃんと話しているように聞こえるが、内容は支離滅裂。その支離滅裂の中にも時々、真実が混じるが、どこまでが本当で嘘か分からない。「大丈夫、こわくない。こんにちは、こんにちは、こんにちは」と何回も繰り返し、小児性愛者の不気味さを見せる。
 タイトル付きの3人のそれぞれのモノローグが続き、観客は引き込まれ、ローナに何が起こったのかを理解していく。「あんなにも大切に育ててきたのに」と絶叫するナンシー。日頃、ニュースで見る様々な事件を思い出し、胸が痛い。
 20年後、犯罪者の研究のため、アニータは逮捕されたラルフと接見する。ハッとさせられるのは、彼女が、ラルフのようなきわめて悪質な性犯罪者は、大脳の前頭前野の機能障害によって理性や良心が「凍りついたように固まっている」と説明するシーンだ。「悪意による犯罪を罪とするなら、疾病による犯罪は症状である」ともアニータはいう。症状で殺人が許されるわけではない。しかし、脳が凍り付いているラルフのような犯罪者に対して、社会はどうするべきなのか。改めて考えさせられた。

ローナを失って、時と心が凍り付いていたナンシーは、長女の助 言でラルフとの面会を希望しアニータへ話し3人がクロスしていく。
頭脳明晰だが何かを背負い心が凍ったアニータを鈴木が、絶望の淵にいながらも怒りや悲しみから解放されようと前進するナンシーを長野が、実は幼少期に虐待されていてその孤独と悲しみが浮き彫りになるラルフを坂本が、あまりにもリアルに見せ、3人の力が拮抗し合う。特に最初は、坂本がシリアルキラーという難役をどう演じるかに注目していたが、物語が進むにつれ、息を吸い、言葉をはくラルフそのものの動向を息を詰めて見るばかり。坂本という個人は消えたかのようだ。「演じちゃうと面白くない」と彼に言ったという栗山の手腕でもあろう。
 ナンシーはラルフを許すことができるのか?ナンシーがアニータに言うラストのセリフは十字架のようなセットも相まって、私たち観客にも言っているように感じた。多かれ少なかれ、人は誰でも何らかの罪や罪悪感を背負って生きている。罪とは?裁きとは、許しとはーー?それらの思考を私たちは凍らせてはいけない。そう問いかけられている気がした。

取材・文:米満ゆう子
撮影:細野晋司

パルコ・プロデュース2022
『凍える』

■作
ブライオニー・レイヴァリー
■翻訳
平川大作
■演出
栗山民也

■出演
坂本昌行 長野里美 / 鈴木 杏

兵庫公演

|日時|2022/11/03(木・祝)~2022/11/06(日)≪全5回≫
|会場|兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
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