2022/9/30
インタビュー
――向田邦子さんの傑作『阿修羅のごとく』に出演が決まったときのお気持ちを教えてください。
「子どもの頃から向田邦子作品が大好きだったのでとても嬉しかったです。1979年のドラマは、12、13歳の頃に観て、鮮明にすべて覚えているぐらい衝撃的でした。その作品に出演できるなんて、『生きていてよかった!』という気持ちです。当時のドラマでは綱子役を、よく共演させていただいた尊敬する加藤治子さんが演じられていて、同じ役を演じられるのは光栄です。加藤さんが綱子を演じた年齢と、今の私がほぼ同い年というのもご縁を感じます。」
――向田邦子さんについての印象は?
「私は1982年にデビューしたのですが、向田さんは1981年に(飛行機事故で)他界されて、お会いしたことはないんです。でも向田さんといつもタッグを組んでいた演出家の久世光彦さんと、デビューして間もなくお仕事をしているので、運命のいたずらがなければ向田さんとも出会えていたかもしれないと、勝手に悔しい気持ちになります。向田さんはドラマの他に、エッセイや料理のレシピ本など色々な本を出されていて、使われていた器の写真、おしゃれなお洋服なども拝見してきました。向田さんのレシピでお料理を作っては、近づいた気持ちになるなど、ずっと憧れている方です。」
――執筆家としても活躍されている小泉さんから見た、向田さんの文章やセリフの魅力は?
「向田さんの書かれるものは、もともと成熟した世界だと感じていたのですが、演じてみると余計にそれを感じます。きれいな言葉が多いですが、リアリティーのあるドキッとするようなセリフや展開があって。今でこそ世界的にフェミニズムの考えが浸透していますが、昭和のこの頃はやはり男と女は別ものだというテーマで描かれていることが多かったように思います。その中で、男と女のどちらにも加担せず、女は女として、男は男として“そのまま”書ける向田さんのような成熟した作家は、なかなかいないのではないでしょうか。」
――今回は原作のセリフはほぼそのままに、倉持裕さんがシーンと登場人物を大幅にカットし、四姉妹のバトルに焦点を当てて脚本化されたそうですね。
「『阿修羅のごとく』はドラマでいうと7本分あるのですが、倉持さんがその7本分のセリフのいいところを厳選し、別のキャラクターに言わせるなど色々と工夫しながら、きちんと行き着くところに行き着くように書いてくださっています。ドラマだと例えば手や顔のアップだけで感情を伝えることができますが、舞台ではそういうカット割りはできないですし、向田さんの細かなディテール、視覚的なものを“レス”にするという面白い挑戦となっています。演劇でしかできない挑戦の舞台を、今みんなで楽しんで作っているところです。」
――センターステージでの芝居となるのも見どころですね。
「私自身はセンターステージの舞台は3本目なので、大変さも面白さもなんとなく理解はしていますが、向田邦子の世界をセンターステージで見せるという発想はなかなか出ないですよね。この案を出されたのは演出の木野花さん。木野さんはご自身も俳優をされているので、ちょっとでも手を抜くとバレるんですよ(笑)。そしてエネルギッシュに教えてくださる。肉体的には部活のように疲れるお芝居なのですが、風通しのいい稽古場で精神的にはとても健康な状態です。」
――6人だけのキャストとなりますが、共演経験の多い方が揃っているようですね。
「小林(聡美)さんとは17歳のときに初めてお会いして以来、たくさんの映画やドラマ、舞台で共演してきました。安藤玉恵さんとは『あまちゃん』や映画『毎日かあさん』で共演しましたし、夏帆さんとはドラマ『監獄のお姫さま』で、姫の夏帆さんを守るおばさんの役をやりました。男性陣は岩井(秀人)さんとは初めてですが、山崎(一)さんとも共演したことがあり、皆さん気心が知れています。」
――登場する四姉妹は、70歳の父に愛人がいるらしいと気づいて集まるなか、それぞれも諸問題を抱えていてぶつかり合う姿が描かれています。小泉さんが演じられるのは、奔放に生きようとする長女の綱子ですが、共感するところはありますか。
「私自身は三姉妹の末っ子なので、長女の気持ちってあまり考えたことはなかったのですが、『自分の人生は自分で責任とるわ』みたいな、サバサバとしたところは共通点かな。また、違う人生を歩んでいる四姉妹ですが、きっと向田邦子さんの中にはこの4人が混在していたと思うので、私の中にもこの4人の細胞が、少しずつ生きているような気がします。」
――作中では色々な家族の形が描かれていますが、特に感じることは?
「大人になった姉妹の関係性のリアルさを感じます。姉妹や兄弟って、やはり他には代えられない存在。私は長女の姉をすでに亡くしているのですが、長女を見送るときそう感じました。私にとって生まれたときから自分のことを知ってくれている存在は、親以外には姉妹だけなんですよ。たくさんの思い出があり、友達や親とも違う特別な関係。そこを向田さんはすごくうまく書かれているなと思います。喧嘩をしても、必ず元に戻れるという自信のもとに存在している関係性は、演じていてすごく楽しいです。」
――タイトルにもなっている“阿修羅”ですが、どのように捉えながら稽古をされていますか?
「結局これは、女たちの感情のせめぎあいみたいなことに関して、最後に男たちが言う言葉なんですよね。だから女たちはそれに対して無自覚だと思うので、あまり“阿修羅”というのを意識せず、一人の女性の感情として演技をしていくと、そこに辿り着くのかなと思っています。」
――小泉さんは今年デビュー40周年を迎えられましたが、女優として、そして演劇に対して、今どのようなビジョンをお持ちですか。
「若い頃はたくさんビジョンを持っていたのですが、今は自分自身にはそんなにビジョンは持っていないんです(笑)。40周年の節目というのも、ずっと応援して下さっているファンの方と、一度きちんとそういう機会を作りたいと思っただけで…。これからもやった方がいいと思うことを、やっていくだけです。演劇に関しては、私も制作やプロデュースをしているので、コロナ禍となり大変な中でも演劇界の皆さんが踏ん張って制作しているのを実感しています。制作側とお客様の相思相愛の関係があるなかで、私もその一人でありたいと切実に思っています。」
――最後に兵庫公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。
「兵庫公演に行けると決まったとき、とても嬉しかったです。こちらの劇場(兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール)は、とても近代的な建物ですよね。ステージの上にも客席を配置するという、あまり見たことのない面白い演出になっているので、たくさんの方に来ていただき、感想を聞きたいです。ぜひ『#(ハッシュタグ)阿修羅のごとく兵庫』でお願いします!」
取材・文=小野寺亜紀
写真=引地信彦
モチロンプロデュース「阿修羅のごとく」
■作
向田邦子
■脚色
倉持裕
■演出
木野花
■出演
小泉今日子 小林聡美 安藤玉恵 夏帆 ・
岩井秀人 山崎 一
|日時|2022/10/08(土)~2022/10/10(月・祝)≪全4回≫
|会場|兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
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