2022/9/30
公演レポ
『阿修羅のごとく』は、数々の話題作ドラマを生み出し、昭和を代表する脚本家で、今なお多くのファンを持つ向田邦子氏の代表作。演出は、人間の内面を丁寧かつ大胆に表現する演出家木野花。脚色を担当するのは、名作のリライトを手掛けたら右に出るものはいない実力を持つ劇作家・演出家の倉持裕。 出演は女優・歌手だけでなくプロデューサーを務めるなど、幅広く創作活動を続けている小泉今日子。数々の映画やドラマに出演し、多くの著書も執筆している小林聡美。映画監督、舞台演出家など、多くのクリエイターに絶大な信頼を得ており、その巧みな演技で人々を魅了する安藤玉恵。女優だけでなく自身で写真集を企画するなどクリエイティブセンスにたける夏帆。そして男性キャストには岩井秀人、山崎一が出演。それぞれの四姉妹の恋人や夫、不倫相手の2役を演じ分ける。 センターステージ形式の舞台という、逃げ場のない凝縮した空間で“阿修羅のごとく”闘う四姉妹の姿を是非配信でお楽しみください。
向田邦子の代表作を倉持裕が脚色、木野花が演出。出演は小泉今日子、小林聡美、安藤玉恵、夏帆、岩井秀人、山崎一。この布陣なら、たとえ別の演目だったとしても絶対に観たいと思うだろう。
けれど、ごめんなさい! 向田脚本の大ファンで、ドラマ『阿修羅のごとく』を何度も観てきた身としては、観るのが怖い気持ちもほんの少しだけあったことを白状します。
結論からいうと、それは杞憂に終わった。原作をよく知っていても面白いし、向田作品未体験者も楽しめる、絶妙なところをついた作品になっていた。
舞台は1979年。家族のなかで父親の存在がまだ大きかった「ザ・昭和」な時代。70歳になる父に愛人がいるらしいことがわかり、4人の姉妹は、母に知られずにどう対処するべきかと胸を痛める。
長女・綱子(小泉今日子)は50歳目前の未亡人、次女・巻子(小林聡美)は2人の子供を持つ専業主婦、三女・滝子(安藤玉恵)は図書館司書をしている30歳独身。四女・咲子(夏帆)は喫茶店でアルバイトをしながら、住む場所すら家族に秘密にしている。
母を気遣う気持ちは同じだが、姉妹の置かれる立場は異なり少々複雑。家庭のある男性と恋仲にある者、パートナーの浮気を疑う者、恋に理想を抱く者もいれば、達観している者もある。そうして、彼女たちの恋愛模様が次第に浮き彫りになっていく。
さすがは向田邦子、人間の描きかたが多層的。阿修羅像のごとく、対峙する相手によってそれぞれ違う顔が見えてくる。
本舞台では人物、つまり俳優とセリフを見せることに徹しており、セットや照明、音楽もミニマム。
土俵に見立てたセンターステージは、ときにリングとなり、太鼓やゴング、三味線やフラメンコギターがかき鳴らされ、姉vs妹、妻vs夫、妻vs愛人、恋の駆け引きから、腐れ縁の痴話喧嘩、疑いや裏切り等々、あらゆる格闘が繰り広げられるのだ。
この「闘い」に焦点を当てた演出が素晴らしい。カーンという合図のもと、取っ組み合いのきょうだい喧嘩が始まって以降、滑稽さと切なさが忙しなく入り乱れるスピーディな展開に、目が釘付けになった。
出てくる人物がとにかく全員魅力的。
小泉今日子の綱子は、酸いも甘いも噛み分けた大人の色気を醸し出しながら、脱ぎ散らかした衣服を足で隠すようなおおらかな一面も見せ、小林聡美は、揉め事をまるくおさめようと、自分の言いたいことを飲み込む巻子のもどかしさを、全身で表現。普段はクールなのに、急に爆発するあたりもリアル。
安藤玉恵の滝子は、潔癖症で父の不義理を許せない一方で、自身に芽生えた恋心に動揺する様がなんとも愛らしかったし、夏帆は、姉たちにコンプレックスを抱く咲子の、気丈にふるまいながらも不安を抱える内面を繊細に表していた。
男性陣はそれぞれ重要な2役を演じ、大奮闘。
話下手な興信所の勝又と、荒々しい新人ボクサーの陣内を岩井秀人。本作のために作ったのだろう、その筋肉に驚いたし、ラブシーンもたっぷり。
山崎一は冷静沈着な巻子の夫の鷹男と、綱子の恋人のすっとぼけた貞治を演じ、振れ幅の大きさにさすがと思わされた。
同じ人物が演じているから二重に面白さを感じる場面もあって、これこそ舞台の醍醐味。
ちなみに、女性陣も全員2役演じており、小林と安藤のもうひとつの役はおかしみしかないので注目である。
配信では複数のカメラが設置され、客席から後ろ向きにしか見えない人物の表情もおさえられている。本作は四姉妹のかしましい関係が楽しく、巧妙な会話劇であり、リアクションや言外にあふれる表情も重要なポイント。
たとえば、頭のほうで、滝子は男っ気がないことを咲子から揶揄されるが、咲子の奥に座り、2人の喧嘩の様子を見守る綱子の表情が秀逸だった。
間違い電話を受けたあとの巻子、バトルのあとの豊子(小林聡美)の横綱歩き、滝子のたどたどしいラブシーン、咲子のひとりラーメン……細かいお芝居も見どころ満載。見るたびに発見があるので、配信ではアーカイブで繰り返し鑑賞することをおすすめしたい。
阿修羅とは、インドの民間信仰上の神様で怒りや争いのシンボル。登場人物たちは誰かと闘っているが、一番やっかいな相手は、母として妻として恋人として「こうありたい」「こうあるべき」と、無意識のうちに立場にしばられた、理想の自分なのかもしれない。
向田邦子の名作を、想像力を最大限に使った(父親さえ登場しない!)舞台ならではの表現で、見事に本質を貫いた。たった6人で演じるのはそれこそ闘いだったろう。最高のキャストのナイス・ファイトを同時代に観られたことは幸せ以外の何ものでもない。
文:黒瀬朋子
撮影:阿部章仁
【配信日時】2022年10月8日(土)17:00
【販売期間】2022年9月30日(金)10:00〜10月11日(火)20:00まで
【配信チケット料金】4,000円(税込)
【チケット取り扱い】チケットぴあ https://w.pia.jp/t/ashura/
【アーカイブについて】
生配信終了後、10月11日(火)23:59までアーカイブ配信をご覧いただけます。
チケットを購入された方は、ご購入から上記日程まで何度でもご視聴いただけます。
※チケットの販売は10月11日(火)20:00までとなりますのでご注意ください。
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・ご視聴に関するお問合せ(平日 10:00-18:00) 電話:017-718-3572 メール:event@linkst.jp
※公演日当日の問合せ対応は該当公演(土日祝含む)の終演後 1 時間程度で終了とさせていただきます。
モチロンプロデュース「阿修羅のごとく」
■作
向田邦子
■脚色
倉持裕
■演出
木野花
■出演
小泉今日子 小林聡美 安藤玉恵 夏帆 ・
岩井秀人 山崎 一
|日時|2022/10/08(土)~2022/10/10(月・祝)≪全4回≫
|会場|兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
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