2022/9/22
公演レポ
本作が誕生した現地・アメリカでは「ハリー・ポッター」の売上をも超えるというベストセラー小説「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」シリーズ(2005~2009年・全5巻)の第1作「盗まれた雷撃 パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」を原作とするミュージカルが日本初上陸。2010年には映画化、次いで2014年にはオフ・ブロードウェイにて公演を果たし、アメリカ全土を興奮の渦に巻き込んだ話題作だ。日本で最初にパーシー・ジャクソンを演じるのは、2018年からニューヨークの演劇学校に留学した岡本圭人。岡本にとってミュージカル出演において初主演を務めることになる。
「子どものころに留学していたイギリスで愛読していたのがこの冒険小説でした。とても好きでワクワクしていたからこそ、いざ自分がパーシー・ジャクソンを演じることに初めは強い不安とプレッシャーしかありませんでした」と岡本。その気持ちはわかる気がする。共感する人も多いだろう。圧し潰されそうなプレッシャーを見事に跳ね除けられた理由は、信頼できるスタッフや共演者たちと作り上げる稽古場にあった。「みんなで話し合いながら稽古を積んでいくうちに、僕の中にパーシーの勇気や強さが生まれました。途中から、僕自身がパーシーになってきたんです」(岡本)。
自信と不安を同居させた岡本のパフォーマンスは、その言葉の通りに物語のパーシー・ジャクソンとシンクロしていく。舞台上に登場した時から視線を客席の隅々に行き渡らせ、思いがけず目が合ってドキドキしてしまう。
物語の舞台は、タイトル通りのギリシャ神話だ、いや、現代のアメリカと太古の神話がシンクロするパラレルワールドとでも呼ぶべきか? 岡本演じるパーシーは、オリンポスの三大最高神の一柱・ポセイドンと人間のハーフ。この物語では「デミゴッド」と呼ばれる半神半人であり、幼少のころから“他人とは違う変わり者”と見なされ指を刺され、停学と転校を繰り返してきた。傷つき開き直るパーシーだが、すべてはデミゴッドの生まれに理由があった。知恵の女神アテナの娘のアナベス(小南満佑子)と、サテュロス(上半身が人間、下半身がヤギ)のグローバー(木内健人)とともに冒険へと出発する。
セリフの端々に出てくる名前は確かにギリシャ神話の神々だが、目の前のステージで繰り広げられるのはダンサブルなナンバーに彩られる歌と軽快なダンス、若い体にはちきれんばかりの希望と絶望を抱えたティーンエイジャーたち。本作では舞台裏に生バンドが潜んでいる。その場で生み出される演奏はなんとも新鮮で、わかりやすい歌詞の歌は後々まで頭に残って口ずさんでしまいそうだ。
パーシーやアナベスと同じ境遇にあるルークを演じる水田航生は、「顔にも心にも傷を持つ男です」と自己紹介。友好的な顔の裏に一物を感じさせる。ゲネプロ後の会見では「題名に“盗まれた雷撃”とありますから、観にいらしたお客様の心も盗みます!」とアピールし、パーシーの母・サリーを演じる壮一帆に「それ、考え抜いたコメントでしょ(笑)!」とツッコまれる一幕も。
このミュージカル版は映画とは異なる展開も多く、新たな物語にハラハラドキドキは必然だ。とはいえ、羽のついたスニーカーや、ペンが化ける剣、眼を見た者を石に変えるメデューサの頭など、パーシー物語になくてはならないアイテムは健在。演劇ならではのギミック(仕掛け)や創造性への刺激もめくるめくので、存分に心を開放して自由な発想力をぜひ試してほしい。
「良い意味で(?)崇高な神々のチープ感がいっぱい。はっきり言ってB級ミュージカルなので、気兼ねなく笑ってほしい」と水田。それぞれに濃いキャラクターを構築するまで、悩むより、笑って試すために稽古場ではアドリブをどんどんぶち込んだとか。岡本も、「どうやったらペンが剣になるのか、どうやったら宮原(浩暢)さんがケンタウロス(下半身が馬)になれるのか、みんなで意見を出し合ってクリエイトしたんです」と証言。
その発言を引き継ぎ、「僕の半分馬(ケンタウロス)をもっと笑って楽しんでもらえるように演じたいですね」と宮原。そして小南は、「これまでおしとやかな籠の中の小鳥のような役が多かったので、アナベスはこれまでとは違うわたしを見ていただけます。でも、もともとの性格がこっちに近いので(笑)、素のわたしでアナベスの時もあるんです」と意味深発言。一方、壮は、「パーシーの母のサリー役は押し殺した部分もあるけれど、そのほかの役を演じる際にかなり発散しています(笑)。ぜひ様々なキャラクターを楽しんで」とアピールした。たった12人のミニマムなカンパニーが産み出す壮大な神々(と、人間)の物語。まさにマジカルである。
昨日までとはまるで違う今日の冒険。未来まではわからないけど、いま冒険に出発することはわかる。そんなフレーズが浮かんでくる。神とはいえ、あるいは半分神とはいえ、完璧じゃないから自分を見つけていきたいのだ。これは神話なのか? 手に触れられるリアルワールドなのか? どうか物語に参加して自分の限界を突破するほどの冒険を楽しんでほしい!
取材・文:丸古玲子
撮影:岡千里
「盗まれた雷撃 パーシー・ジャクソン ミュージカル」
■原作
Rick Riordan
■楽曲
Rob Rokicki
■脚本
Joe Tracz
■翻訳・訳詞・演出
荻田浩一
■出演
岡本圭人 小南満佑子 水田航生
木内健人 菜々香 小野妃香里 村井成仁 Ema 横山賀三 小原和彦
宮原浩暢(LE VELVETS) 壮一帆
|日時|2022/10/09(日)~2022/10/10(月・祝)≪全3回≫
|会場|京都劇場
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