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ブロードウェイミュージカル「ピピン」観劇レポート

2022/9/9

取材レポ

ブロードウェイミュージカル「ピピン」

幕が開けば、そこはサーカスとミュージカルが溶け合った妖しくてまぶしい魔法の世界――。若き王子ピピンが自分探しをする物語を描いたブロードウェイミュージカル「ピピン」が、3年振りに戻ってきた。

ピピンを様々な世界へ導くリーディングプレイヤー役のCrystal Kay(クリスタル・ケイ)が、「Join us さぁここへおいで♪」と「Magic to Do(魔法のひととき)」を歌い出す。初演ではミュージカル初挑戦ながら、見事、読売演劇大賞優秀女優賞を受賞したクリスタル・ケイ。前回はいい意味で力が入り、それがパワフルなリーディングプレイヤーの役柄にもつながっていたのだが、今回は打って変わって堂に入り貫禄がある。張りと艶のある伸びやかな歌声とセクシーなダンスで観客を瞬く間に魅了していく。クリスタル・ケイも「前回に比べ、今回はお客さんの目を見て〝Join us〟と勧誘する余裕ができた」と話していた。

 そして、リーディングプレイヤーが率いるサーカス一座が勢揃いする。シルク・ドゥ・ソレイユ出身のアーティストが手掛けた、目を見張るようなアクロバットやマジックが次々と展開。子どものころ初めてサーカスを観た時のような、ゾクッと鳥肌の立つ感覚とワクワク感が蘇る。リーディングプレイヤーも空中ブランコに乗り、逆さづりになって開脚するなどの技を見せてくれる。

続いて、森崎ウィン演じるピピンが登場。何不自由ない一国の王子が、人生に生きる実感がほしいと「Corner of the Sky(僕の居場所)」を歌い、憂いを帯びた声で観客を引き付ける。森崎のピピンは若さと無邪気さにあふれ、彼が笑うだけで、こちらもほほ笑んでしまう陽だまりのようなキュートな王子だ。初演でピピンを演じた城田優から役を引き継ぐのは「プレッシャーが大きい」と話していた森崎だが、そこは微塵も感じさせない。クリスタル・ケイと同様、歌とダンスに加え、アクロバットやマジックもこなさなければいけない難役を楽しんでいるように見える。この作品は演技の最中でも、ほかのキャストによるアクロバットやマジックが同時進行するシーンがあり、観客は一瞬たりとも舞台から目が離せない。観るところが多すぎて、目がいくつあっても足りないぐらいだ。

「ピピン」は1972年にミュージカル界の鬼才、ボブ・フォッシーが演出と振付を担い、ブロードウェイで初演。フォッシー・スタイルと呼ばれるダンスは日本でも人気の「シカゴ」でおなじみだ。2013年にブロードウェイで再演された新演出版の日本語版が今作で、そのフォッシー・スタイルがふんだんに楽しめる。
 ピピンが戦争に行くシーンでは、リーディングプレイヤーが「Glory 栄光」を歌い、そこで彼女が3人で見せるダンスにも注目だ。一見、コミカルだが、実はカルト集団の指導者だったチャールズ・マンソンをモデルにし、リーディングプレイヤーが人々を操っている姿が表現されている。3人の振付が戦場で倒れた兵士の動きと一緒だったりとシュールだ。戦争を含め、この世を動かしている得体の知れないものが、風刺たっぷりに描かれている。

また、初演でピピンの祖母バーサを演じた中尾ミエと前田美波里がダブルキャストで続投。「No Time at All(あっという間に)」では、70歳を超える二人が空中ブランコに乗り「さぁ、楽しもうよ、残りの時間を大切に、季節は変わっていく♪」と歌い、ピピンと観客を励ましてくれる。二人の鍛え抜かれた肉体美や歌声、凄まじいアクロバットに目頭が熱くなる。「私の年齢でもこんなことが出来るんだと、ぜひ舞台で確かめてほしい。人生は楽しまなきゃ損よ」と前田は語っていた。

その後、ピピンは快楽を求めたり、田舎暮らしをしたりして旅を続ける。物語が進むにつれ、クリスタル・ケイのリーディングプレイヤーは今回、新たに母性も感じさせたが、怖さと不気味さを増していく。ピピンも人生経験を積んでたくましくなり、一幕では繊細だった森崎の歌声も、その変化と共に激しくパワフルに響く。

最後にピピンが選んだ生き方とはー? 森崎もクリスタル・ケイも大好きだという、衝撃のラストは見てのお楽しみだ。ピピンが求めた、生きがいや充実感のある人生の裏側には、色あせた平凡な日々がある。コロナ禍で、そんな日常が大半だろう。しかし、「ピピン」の魔法にかかれば、そんなのさえない、スポットライトのない日々が愛おしく感じられるかもしれない。まずは劇場へ!

取材・文 米満ゆう子

ブロードウェイミュージカル「ピピン」

■脚本
ロジャー・O・ハーソン
■作詞・作曲
スティーヴン・シュワルツ
■演出
ダイアン・パウルス
■振付
チェット・ウォーカー (in the style of Bob Fosse)
■サーカス・クリエーション
ジプシー・シュナイダー(Les 7 doigts de la main)

■出演
森崎ウィン Crystal Kay 今井清隆 霧矢大夢 愛加あゆ 岡田亮輔  
中尾ミエ / 前田美波里 高畑遼大 / 生出真太郎 
加賀谷真聡、神谷直樹、坂元宏旬、茶谷健太、常住富大、石井亜早実、
永石千尋、伯鞘麗名、妃白ゆあ、長谷川愛実、増井紬 他

大阪公演

|日時|2022/09/23(金・祝)~2022/09/27(火)≪全6回≫
|会場|オリックス劇場
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