2022/8/16
取材レポ
――「ピピン」で見事に読売演劇大賞を受賞されました。素晴らしいパフォーマンスでしたね。
「ありがとうございます。受賞したのは本当に信じられなかったです。うれしかったですね。」
――「ピピン」は、歌とダンスのほかに、サーカスアクロバティックやマジックなどもこなさなければいけません。Crystal Kayさんは本格的なミュージカルは初めてなのに、どのようにされたのですか。
「めちゃくちゃ大変でした(笑)。どうやってやるんだろう…、もう気合いしかないと思っていましたね。とにかく、どうすればいいの?どうやってセリフを覚えたらいいの?とスタッフやキャストに聞きまくっていました。役者の友達が「セリフは書くといいよ」と教えてくれたので、台本を全部書いて覚えていましたね。歌も、今までは私自身が観客に向けて歌っていたので、役に感情を乗せて歌うことがこんなにも難しいなんて、思ってもみませんでした。」
――Crystal Kayさんが歌う最初のオープニングナンバー「Magic to Do」では、かなりの高さの空中ブランコにも乗りますよね。サーカスアクロバティックはすぐに体得できたのですか?
「はい!(笑)。初演の稽古の最初の日は、初演でピピンを演じた(城田)優と一緒に、皆と挨拶する日なのかなと思っていたんです。ところが、ブロードウェイのチームが皆揃っていて、「まず、フラフープやってみて」と。フラフープをやるのは小学生以来なんですけど、と思いながらやると、「OK。次は空中ブランコね」みたいな感じでした(笑)。その次は歌。歌はどのぐらい声が出るのか、具体的にどれだけできるのか〝試されday〟だったんです(笑)。私は運動もチャレンジすることも大好きで、すぐにアクロバットはできたんですよね。それより苦労したのは、ボブ・フォッシーのダンスなんです。」
2019年「ピピン」より
――「ピピン」は1972年にミュージカル界の鬼才、フォッシーが演出と振付を担当し、ブロードウェイで誕生しました。フォッシー・スタイルと呼ばれるダンスは「シカゴ」でも有名です。2013年にブロードウェイで再演された新演出版の日本語版が今作で、そのフォッシー・スタイルが継承されています。
「私、ダンスは大好きなんですが、基礎がない。ブロードウェイは、バレエやジャズダンスができて当たり前がスタンダードだと思っていたから、すごく怖かったんです。でも今作で振付を手掛けたチェット・ウォーカーさんが、「逆に基礎がないからやりやすいと思うよ。自信を持ってやりなさい」と言ってくれました。」
――リーディングプレイヤーが戦争について歌う「Glory」では、フォッシー・スタイルが満載です。途中から彼女を中心に3人で踊るコミカルでユニークなダンスも注目ですね。
「あれは「マンソン・トリオ」と呼ばれるダンスで、難しくて本当にヤバいんです(笑)。カルト集団の指導者でカリスマ的な存在だったチャールズ・マンソンをモデルにしていて、人を操るような、怖くてパワーがある踊りなんです。」
――マンソンをリーディングプレイヤーに投影させているのでしょうね。
「全体的にリーディングプレイヤーはマンソンと似たところがあるんです。」
――ユニークでコミカルな動きが、それを知っていると全然違うものに見えてきますね。
「フォッシー・スタイルはちょっとダークなんですよね。どれだけできるのか〝試されday〟で、いきなりそのマンソン・トリオのダンスをやってと言われて。頭の中にクエスチョンマークが渦巻いて(笑)、とりあえずやってみると、「彼女は2週間のブートキャンプが必要だね」と言われました。でもあのブートキャンプがなければ、短い稽古期間で振りを全部覚えるのは無理だったと思います。再演では、もっと大きくダイナミックにやりたいですね。」
――初演では、「リーディングプレイヤーは想像上の人物で、妖精のように、時には不気味に演じたい」とおっしゃっていました。
「当時はそう言っていたんですか…。やることや、覚えることがあまりにも多すぎて、今思えば役作りというのはちゃんとできていなかったと思います。正直、リーディングプレイヤーが何者かまでは深く考えられていなかったのかも。とにかく、リーダーシップを持って、ブレちゃいけないというのを大切にしていましたね。チェットから直接、振付を教えてもらった時が、役作りだったかもしれない。リーディングプレイヤーはこう、彼女はこう考えているからああ動くみたいなことを、すごく丁寧に愛を持って振付とともに教えてくれたんです。今思えば、それが役作りだったんですよね。今回は2回目なので、彼女がどう思いどう行動するかを、もう少し余裕を持って演技に入れていきたいなと思います。」
2019年「ピピン」より
――リーディングプレイヤーが何者かというのは謎ですよね。今回ピピンを演じる森崎ウィンさんは、「彼女は、ピピンにとってお姉さんみたいな存在なのかな?」とおっしゃっていましたが、Crystal Kayさんはどう考えますか。
「彼女は友達かも知れないし、先輩かもしれないですよね。でも、いい人だと思ったら、「んっ!?」みたいなことをされる(笑)。」
――「ピピン」は、ブロードウェイのチームとともに作る作品ですが、リーディングプレイヤーについての具体的な話はありましたか。
「特になかったですね。チェットもあなたがリーダーだからと。私はブロードウェイで「ピピン」をたまたま観ているんですが、「ほかの人がやっているのを観たらダメ。これはクリスタルのリーディングプレイヤーなんだから、自信を持ちなさい」と励まされました。私はリーディングプレイヤーって、皆の感情なのかなと思います。欲望や色んな感情、喜怒哀楽のかたまりなのかなと。」
――なるほど。城田さんに代わって、森崎さんに期待することは?
「二人とも違うタイプで、初々しい男の子らしさがそれぞれありますが、優は背が高くてとにかく大きいから(笑)、ウィン君のほうがリーディングプレイヤーとしては食いがいがあります(笑)。お客さんもそれを見るのは超楽しいと思います。」
――ピピンとリーディングプレイヤーのナンバー「On the Right Track」も楽しみです。
「あのシーンは本当に大変で修業の連続です。初演では、優と何回も何回も猛練習しました。ピピンがレールから外れそうになるのを、こっちにいらっしゃいとリーディングプレイヤーが呼びかける。振りと掛け合いのスピード感が間延びしないようにしないといけない。リーディングプレイヤーが考えているプランがあるから、ピピンがレールから外れそうになるのは、おっとっとっとみたいな感じなんですよね。そこもちゃんと見せなきゃいけない。振りがすごく難しくて、セリフもめっちゃ早いんですよ。二人の息を合わせることと、スタミナが必要ですね。」
――森崎さんもおっしゃっていたんですが、舞台のラストにはゾクッとさせられました。
「私もあのラストは大好きです。今、思い返しても鳥肌が立ちますね。ブロードウェイで観ていた時もゾッとしました(笑)。あれっ?これ、大丈夫なの?私たち、これを見ていいのかなと思うシーンですよね。」
――演者としてはどういう気持ちですか。
「千秋楽が近づくにつれて、あのシーンがドンドンどんどんと、リアルになっていくんですよね。皆、自分の生活に戻るから物語とすごくリンクしてきて、本当に舞台が終わってほしくない。「私たちの人生はステージだけなのに、どうするの?」とキャストは皆、本当に泣きながらやっているんですよ。リーディングプレイヤーがいつもは見せない顔を見せるから、そこもめっちゃ好きですね。」
――観客が息をのむ声が聞こえましたか。
「シーーンとしていました。でも、シリアスなだけではなく、リーディングプレイヤーのダークで比喩もユーモアもあるセリフが面白い。人間の生々しさをさらけ出し、エンターテインメントにちゃんとなっているのが本当に素晴らしいと思います。」
――幕が閉じても、物語はまだまだ続いていくような感じがします。
「サーカス一座は色んな町に行くじゃないですか。きっとサイクルなんだと思います。リーディングプレイヤーは、過去にも色んなタイプのピピンを見つけて一座に引っ張りこみ、コントロールしてきたんだと思います。」
――それは面白い解釈ですね。再演に向けて、ものすごい体力が必要かと思います。
「一回やっているから、体のメンテナンスのことを考えると怖いです(笑)。」
――空中ブランコは命綱はないのですか?大変ですよね…。
「ないです、ないです。でも空中ブランコは気にしていないんです。それよりヒールをはいて、歌って、踊って、固まったり、いきなり動いたりするので、腰を強くしとかないと(笑)。今回は、もうちょっと余裕があるはずなので、ナチュラルな感じでできればいいなと思っています。」
2019年「ピピン」より
2019年「ピピン」より
――ピピンの祖母をダブルキャストで演じる中尾ミエさん、前田美波里さんも、ただただ驚くばかりの技を舞台で見せてくれます。
「お二人とも70代なのにあんなことができる。皆、「ピピン」が大好きなんですよね。再演が決まって私もうれしかったですし、皆に会える、ファミリーに会えるという感じなんです。美波里さんは常にスターでオン、ミエさんは常にリラックスしていて、それぞれ違い、相談にも乗ってくださって、現場に自分の親戚がいるみたいな気持ちです(笑)。ミエさんと美波里さんのシーンは、本人たちもやりがいがあるし、観客にも勇気を与えているということを実感されているはずです。それもまた、お二人のパワーになっていると思います。」
――本当にそうですね。最後に大阪の観客にメッセージをお願いします。
「大阪のお客さんは本当にすごいんですよ。私のライブでも直接話しかけてくれるし、素直で楽しい方が多い。大阪のお客さんは、喜怒哀楽が激しいリーディングプレイヤーは絶対、好きだと思います。皆がリーディングプレイヤーみたいな感じじゃないかと(笑)。」
――確かに彼女は強気な関西人みたいですね(笑)。面白いことを言ったり、突っ込んだりもしますものね。
「大阪バージョンで衣装はヒョウ柄にしたいぐらい(笑)。そんな客席の空気感を楽しみにしていますし、今まで見たことのない、夢のような世界にご案内します!」
取材・文 米満ゆう子
ブロードウェイミュージカル「ピピン」
■脚本
ロジャー・O・ハーソン
■作詞・作曲
スティーヴン・シュワルツ
■演出
ダイアン・パウルス
■振付
チェット・ウォーカー (in the style of Bob Fosse)
■サーカス・クリエーション
ジプシー・シュナイダー(Les 7 doigts de la main)
■出演
森崎ウィン Crystal Kay 今井清隆 霧矢大夢 愛加あゆ 岡田亮輔
中尾ミエ / 前田美波里 高畑遼大 / 生出真太郎
加賀谷真聡、神谷直樹、坂元宏旬、茶谷健太、常住富大、石井亜早実、
永石千尋、伯鞘麗名、妃白ゆあ、長谷川愛実、増井紬 他
|日時|2022/09/23(金・祝)~2022/09/27(火)≪全6回≫
|会場|オリックス劇場
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