2022/7/26
インタビュー
――主人公が異世界に迷い込むことで、その世界の「スルメ姫」という物語に異変が生じていく…というお話のようですが、見どころを教えてください。
「吉岡里帆さん演じる縁緑が、ソフトボールが大流行しているハッピーでバブリーな世界から、穴に落ちて別世界に行ってしまう、『不思議の国のアリス』のようなお話です。僕は長い間コントを作ってきて、演劇の仕事も5年ぐらいやってきましたが、書いていてしんどいときにもフィクションにすごく助けられたんです。自分が作っているコメディーに勇気づけられる、救われる瞬間がたびたびあって。そんなフィクションの持つ魔法みたいなものを、吉岡里帆さんが主演されるこの大きな舞台で、いまいちどお客様に感じてもらえたらと思っています。」
――吉岡里帆さんの印象は?
「吉岡さんとは以前、ほぼ二人だけの短編ドラマ(『WOWOWオリジナルドラマ 椅子』)で共演したとき、すごく演技がやりやすかった。今回、稽古で吉岡さんに演出家としてダメ出しをするときも、ひとつも嫌な顔をせずびっくりするぐらい素直に聞いてくださり、修正力もすごく高くて感服します。吉岡さんは『かもめんたる』のコントや、『劇団かもめんたる』の作品を観てくれていて、演出家の僕の言う通りにやるのが一番正解だという気持ちで参加してくださっている。これまでも『きれい』とか『かわいい』という印象はもちろんありましたが、それを超えたところで惚れ直しました(笑)。」
――主人公の縁緑役は、やはり吉岡里帆さんへの当て書きですか?
「完全なる当て書きです。僕はこれまで吉岡さんはミステリアスな役が似合うという印象があったのですが、同時にとても気を遣う方という印象もあって。別世界で好き勝手に言ってくる人たちに囲まれながら、そつなくこなしていく様が似合うなと思いました。荒唐無稽な出来事を首尾よく切り抜ける姿を思い浮かべながら書いた“吉岡さんの大冒険”です。最初から最後まで、なかなかいい当て書きができたと思っています!」
――ファンタジー・コメディーということで、吉岡さんが笑いをとるシーンもあるのでしょうか。
「異世界に迷い込むという役なので、お笑いで言ったらツッコミ的な立ち位置ですが、ツッコミだけでは終わらず、奮闘する姿が滑稽だったり、一人だけ異色なのでいじられたり、変なヤツ扱いされたりと、いろいろ面白い部分はありますね。さまざまな笑いを吉岡さんが生み出してくれています。」
――ほかにキーとなるキャラクターや、思い入れのあるキャラクターは?
「鞘師里保さんが演じられるクロエという少女は、物語の世界の中にいる悲劇のヒロインみたいなところがあります。僕が演じるハンスの娘でもあるので、幸せになってもらいたいなと思いながら演じています(笑)。あと、伊藤あさひさんがすごく面白い方で、吉岡さんいわく『かもめんたるの世界にマッチしている』と。実際、演技なのかそうでないのか分からないところもあって、実はコメディアン気質なのかも(笑)。彼の持つ面白さが伝わればいいなと思います。」
――いつも創作されるとき、物語が先に思い浮かぶのでしょうか。キャラクターから物語が膨らんでいく感じなのでしょうか。
「だいたい人物設定が決まってから、こんな感じで物語が転がるかなと作っていくところがあり、キャラクターはわりと重要ですね。書き始めると、途中で考えていた話と変わっていったりもしますし、キャストが一人余っているからこの人の兄弟にしようとか、この人にパートナーがいたら面白いかなとか、登場人物の数の調整もしながら必要なキャラクターを入れていきます。そしてキャラクターの動きによって、話ができていくということも結構あります。」
――今回の物語で、何かから着想を得るようなことはありましたか?
「マイナーなグリム童話で型にはまっていない感じの作品があり、そういうのは面白いなと思いながら作ったところはあります。あと、影響を受けているか分からないのですが、以前から父親に読めと言われていたシェイクスピアの本を、ここ2、3年何冊か読むようになり、結構きわどい台詞とかもあって面白かった。自分のやっていることと、意外と近いんだなと感じて、今回もちょっと背中を押してもらったようなところがあります。」
――岩崎さんの笑いは、人間の嫌なところや狂気を煮詰めたようなところがありますが、本作ではそれをどこまで出していますか?
「今回はいつもとは違うお客様方が観に来てくださると思うから、『僕の作品はグロテスクな表現や下ネタみたいなところだけじゃないんだぞ!』というのをお見せする、いい機会だと思っています。ちゃんといいお話を作りたい。そういう意味でも挑戦ではあります。今回、フライヤーのデザインはお任せしたのですが、このビジュアルから受ける印象よりはもっとオーソドックスなお話の骨組みに、オリジナルな “う大ワールド”をこれでもかとプラスしたものが出来上がると思います。」
――最後に大阪公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。
「大阪での公演は久しぶりなのですが、これまで『かもめんたる』で何回かやらせていただき、大阪のお客さんは笑うのが上手だなと思いました。合いの手みたいに自然なリズムで短く大きく笑ってくれて、東京とは違うんですよ。コメディーなのでどれだけ大阪の人に受け入れてもらえるのか楽しみです。今回ももちろん笑ってほしいのですが、それよりも物語というフィクションで、楽しいとか面白いという気持ちが沸き起こる体験をしていただきたいです。」
取材・文=小野寺亜紀
「スルメが丘は花の匂い」
■作・演出
岩崎う大(かもめんたる)
■出演
吉岡里帆/伊藤あさひ・鞘師里保/岩崎う大 牧野莉佳 もりももこ 小椋大輔/ふせえり
|日時|2022/08/06(土)~2022/08/07(日)≪全3回≫
|会場|松下IMPホール
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