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まもなく大阪開幕!阿部サダヲ、谷原章介が語る松尾スズキの『ドライブイン カリフォルニア』の魅力

2022/6/24

インタビュー

日本総合悲劇協会VOL.7 「ドライブイン カリフォルニア」

1996年に松尾スズキのプロデュース公演である日本総合悲劇協会の第一作として初演し、2004年に再演した不朽の傑作悲劇『ドライブイン カリフォルニア』。2022年、18年の時を経て、阿部サダヲ、麻生久美子、皆川猿時、谷原章介ら豪華キャストを迎えての再再演が実現した。

物語の舞台は、裏手に古い竹林が広がるとある田舎町のドライブイン。経営者のアキオ(阿部サダヲ)の妹マリエ(麻生久美子)は14年前、店にたまたま訪れた芸能マネージャー若松(谷原章介)にスカウトされ、東京でアイドルデビューするも結婚を機に引退。その後、夫の自殺など数々の経験を重ね、中学生の息子ユキヲ(田村たがめ)と共に地元に帰ってくる。そして、腹違いの弟ケイスケ(小松和重)やアルバイトのエミコ(河合優実)、アキオの恋人マリア(川上友里)、若松の妻クリコ(猫背椿)らを巻き込み、複雑に時が流れ出す。

6月26日(日)まで東京・本多劇場で上演中の本公演、大阪は6月29日(水)から7月10日(日)まで、サンケイホールブリーゼにて上演される。過日、東京公演の中日に松尾作品では4年振りの主演となる阿部サダヲと、松尾作品初参加となる俳優の谷原章介が合同取材会に応じ、作品の魅力を語った。

――まず、出演のお話をいただいたときの気持ちを教えてください。

阿部サダヲ(以下、阿部) 「僕は初演も再演も観ていたのですが、自分は関わらないだろうなと思っていた作品だったので、アキオ役でとオファーされたときはびっくりしました。日総悲(日本総合悲劇協会)が始まった当時、僕らよりも比較的、大人な方々が出演されている感じがすごくあって、この役はやれるかなとか考えて観ていなかったというか、よそ行きな感じがしていたので。今、実際に中に入ってみて、すごく複雑な人間関係があったり、話の構造が面白かったりするので、それを伝えていくのは難しいなと思いましたが、面白いです。」

谷原章介(以下、谷原) 「僕は25、6歳の頃から大人計画の舞台を観て来て、今回、参加させていただけることが嬉しいなという思いと、阿部さんとは『ここで、キスして』(1999年/日本テレビ)というドラマでご一緒したんですけど、あれはもう20年以上前で。またいつかご一緒したいなあと思っていて、大人(計画)の舞台でご一緒できて本当に嬉しいです。」

阿部 「20年前…。ドラマで谷原さんと女性を奪い合うみたいなことやっていたんですよ。」

谷原 「阿部さんは今も白石和彌監督の『死刑にいたる病』で目の演技の怖さがクローズアップされていますけど、ドラマの時も芝居の引き出しの多さに圧倒されて。舞台でいろんな経験をされていて、すごいなあと思って。僕、芝居が下手なんで、久々にご一緒できて、ちょっとは自分の経験してきたことを阿部さんと一緒にできたら嬉しいなって思って、今回、参加しています。」

――『ドライブイン カリフォルニア』という作品についてはどのように思われていますか?

阿部 「松尾さんが33歳の時に書かれた作品で、今、僕は52歳で、当時の松尾さんより年上ですけど、改めてすごいなあと思うし、勢いもすごいあったんだなって。古くなっていないのもすごいなって。今、東京で公演をやっていますけど、笑いの数も多いですし、お客さんにすごく伝わっている感じがするので、古いということは全くないんだなと思います。」

谷原 「最初、本を読ませていただいたときはわからなくて。本筋のお話とは別に、いっぱいギャグが散りばめられているので、そっちに目がいっちゃうんですよね。気がつくと時間が飛んでいたり、心象風景に入っていたりとかして、場面転換が一切ない芝居ですが、結構、忙しく展開していくんですよ、お話自体は。稽古でやっとその本筋が見えるようになって。ここにいる人たちはみんな、欠けていたり、歪んでいたり、社会に適合できなかった人たちばっかなんですけど、悪い人がひとりもいなくて。最後のエミコちゃん(河合優実)のセリフなんかも、「逃げ道を作っていいんだよ」と言っているようで。みんながちゃんと辛かった人のことを受け止めてあげて、逃がしてあげているようなお話だと思ってます。松尾さんって優しいんだなって思いました。」

――どういったところが見どころでしょうか?。

阿部 「ユキヲ役の田村たがめが独白をするシーンがあって、そこってとても大事なんですよね。僕、初演とか再演を観た時は「ここは休憩なんだな」と思っていたんで(笑)。僕は一番大切なところを見逃しているので、そこはちゃんと聞いておいた方がいいぞってお客さんにお伝えしたいです。」

谷原 「個人的には、大辻役の皆川猿時さんがおかしいことをいっぱい言ってるんですけど、あそこが唯一、安定的にお客さんから拍手をいただけているところなので、そこは観ていただきたいなっていうのと、ショウゾウ役の村杉蝉之介さんのおじいちゃんぷりが日に日に磨きがかかっているんですね。そこも注目していただけたらなと思います。あと、マリエ役の麻生久美子さんがいい声してるんですよ。すごくいい声してるの。麻生さんに集中すると物語にぐっと引き込まれるし、マリエとユキヲとの対になってる感じがこの物語の核だと思います。」

――谷原さんは念願の大人計画の舞台に参加ということですが、稽古から本番まで、どのような気持ちの変化がありましたか?

谷原 「みんなそうなんですけど、僕が演じる若松という役もすごく欠けているところがあって。ただ、他の役みたいに何か面白い事を自分からやっていくキャラクターじゃないんですよね。それをやる気は毛頭、僕もないんですけど、『ドライブイン カリフォルニア』のメンバーの中でも異質な存在なので、僕はどういうふうにしてここにいればいいのかなって迷った時期はありました。積極的に関わっていこうとするのも違うし、笑いを取りに行くわけでもないし、この中で関係性が濃いのはマリエとクリコ(猫背椿)だけだしって。なんか地に足がつかない感じが、お稽古が始まって2週間ぐらいはありましたかね。」

――それがどういうふうに変わっていったんですか?

谷原 「若松にとって全てはマリエなんですよね。マリエに対して、彼女が辛いのか、悲しいのか、喜んでいるのか、そこに対する心配の仕方が歪んでいるんだと思うんですよね。クリコの「マリエさんのことが好きなくせにそれをごまかしている。無理している」というセリフが結構、大きなヒントにはなっていったかなあと思います。」

――そのセリフは、観る側としてもポイントになりそうですか?

谷原 「後半に出てくるのですが、その前に「ああ、なるほどな」とちゃんとフリになるようなことを僕がいっぱい積み重ねておけば、クリコがそのセリフを言った瞬間にすごく大きく反応があると思うんです。今回の舞台をやっていて思うのは、松尾さんの作品はフリとウケがきちんとしているんだなあって。後で全部回収していきますし、そこも松尾さん、すごいなあと思います。」

――阿部さんが海と宇宙について語るシーンは、松尾さんの死生観が出ていると思うのですが、あのセリフでぐっと場の雰囲気も変わります。あの辺りはどういうことを感じながら演じられていますか?

阿部 「初演、再演を観た時に僕も印象に残っていたシーンなので、あのシーンはしっかりやろうと思っていました。僕、松尾さんの詞が好きなので。『キレイ―神様と待ち合わせした女―』でも歌詞がいいなって。詩的なところがすごくいいなって思うので、そこはお客さんにお伝えしたいなと思います。」

――谷原さんはそば観ていて、そのシーンはどのように感じられますか?

谷原 「松尾さんってすごい照れ屋なのかなと僕は勝手に思っていて。あのシーンの素敵なセリフというか、詩と言っていいのか、内省的な言葉と言っていいのかわかんないですけども、あれが仮に松尾さん自身が本音で言いたいのだとしたら、すぐにそこはパーって隠すし、ストレートにぶつけてこない松尾さんの奥ゆかしさみたいなものを感じつつ、松尾さんがお母さまを亡くされて、「母親はいなくなったけれども自分の周りにずっとフワッと浮いてるんだ」みたいな、「記憶っていうのは、いなくなったとしてもどこかに定着している」みたいな、そんなことをパンフレットでおっしゃっていたと思うんですよね。それはもしかしたら松尾さん自身がこの戯曲の中ですごく伝えたかったことなのかなと思ったりもします。」

――ご自分が出ている、出ていないに関わらず、ここが好きというシーンはどこですか?

阿部 「唯一、ファンタジーなマジックですかね、あそこはなんかかわいいなっていっつも思って。谷原さんの頭に花を乗っけてる感じ。あそこはすごい笑っちゃいますね。花のボリュームも前回よりでかくなってるし。そうするとさ、谷原さんってでかいから、すごくでかく見えるんですよね。」

谷原 「オナペッツみたいなね(笑)。」

阿部 「そうそうそう。そこが面白いんだよな。」

谷原 「僕は子を持つ年になって思うのかもしれないけども、最後のシーンですね。安孫子家という因果な家系から抜け出そうとしている、その呪縛がああいう形で閉じたのは何か切ないなと、見ていて思いました。」

――『ドライブイン カリフォルニア』は松尾さんの作品の中でも再演を重ねられていると思いますが、この時代に上演することで作品の持つ普遍性など、どのように感じられていますか?

阿部 「松尾さんの作品って、生きるとか死ぬとかということはどこかに出てくることが多いですよね。なので、それはいつでも通用することなんだろうなと思います。だから繰り返して上演してもいいんだろうなって思うし、どの時代にもハマるから、面白いですよね。ただ、僕がイメージしていた初期の頃の松尾さん作品って、大体、全員死んじゃうみたいな。でも、『ドライブイン カリフォルニア』はそうじゃないというか、希望がある感じがすごくするので、そこがちょっと違うとこだったのかなって思いますね。1996年あたりの作品は、最終的に僕がバイクになって死んじゃうとか、破滅的なものが多かった気がするから、だからそういう感じがしたのかもしれないけど(笑)。自分が改造されてバイクになって、宮藤(官九郎)さんを乗せて「いくぜ!」みたいな。すげえなっていう印象があったので(笑)。」

谷原 「さっきもちょっと言ったことですが、ここに出てくる人って全員、欠けた部分とか、歪んでいる部分があるじゃないですか。完全な健康体の人間はいないというのと同じように、どんな人もどこかしら自分の中に歪みとか、喪失感を抱えて生きていると思うんですね。そういう欠けた人たちが11人、凝縮していろんな形で出てくるので、どこか自分と投影しやすいというか、なんかシンパシーを感じられるようなキャラクターがいるんだと思うんです。閉じた世界の物語ではなくて、結構、街中に普通にいる人たちにも共感できるような部分が散りばめられているお話かなと思います。」

――では最後に、大阪で待っておられるお客様に向けてメッセージをお願いします。

阿部 「僕はサンケイホールブリーゼに行くのは初めてなんですよね。そこでお芝居するのをすごく楽しみにしてますし、大阪の方にまた新しい『ドライブイン カリフォルニア』を届けられるように頑張ります。よろしくお願いします。」

谷原 「僕も大人計画の舞台で大阪に行けることをとても楽しみにしていますし、いわゆる大阪のスタンダードなお笑いとは違うのかもしれませんけれども、九州出身の松尾さんが作り上げた笑いを届けつつ、砂糖菓子のように笑いでバーっとまぶされていますけども、その芯にある優しくて切ない物語をお届けしますので、どうか楽しみにしていてください。」

撮影:引地信彦

日本総合悲劇協会VOL.7
「ドライブイン カリフォルニア」

■作・演出
松尾スズキ

■出演
阿部サダヲ、麻生久美子、皆川猿時、猫背椿
小松和重、村杉蝉之介、田村たがめ / 川上友里
河合優実、東野良平、谷原章介

大阪公演

|日時|2022/06/29(水)~2022/07/10(日)≪全14回≫
|会場|サンケイホールブリーゼ
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