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日本総合悲劇協会VOL.7「ドライブイン カリフォルニア」観劇レポート

2022/6/4

公演レポ

日本総合悲劇協会VOL.7 「ドライブイン カリフォルニア」

 阿部サダヲをはじめとする大人計画の役者のほか、麻生久美子、谷原章介らが出演する、松尾スズキ作・演出の日本総合悲劇協会VOL.7「ドライブイン カリフォルニア」が東京・本多劇場で幕を開けた。松尾流の独特でユニークな笑いと、大切な人を失った人の悲しみが、星のようにちりばめられ、静かに胸に交差する作品だ。
 同作は1996年、松尾による「悲劇」を基本としたプロデュース公演「日本総合悲劇協会」の第1作として初演された。バラエティ豊かな松尾作品の中でも本人曰く「比較的ウェルメイドの匂いのする1幕もの」だ。
 冒頭から、阿部演じる若い兄のアキオが、麻生演じる妹マリエに「マリエ、今日も死にたくなかったか?」「明日も死なないな?」「無邪気な挨拶として、やってるんだ」と問いかける。「死なない」とマリエ。この確認がお互いの存在をかろうじてつないでいるような、切ない始まりだ。

 舞台は裏手に古い竹林が広がる田舎のドライブイン。大人になった経営者のアキオは、マリエに対して、兄妹愛と括るにしては、あまりにも純粋な思いを抱いていた。二人の周りには、腹違いの兄弟ケイスケ(小松和重)もいて、一見にぎやかで楽しそうだ。時は流れ、マリエは店に訪れた芸能マネージャーの若松(谷原章介)にスカウトされ、東京に移住した。その後アイドルデビューするも結婚を機に引退。夫の自殺などを経験し、14年後、中学生の息子ユキヲ(田村たがめ)と一緒に故郷に帰ってくる。
 若い女の子から大人の女性に変貌していくマリエを、麻生が初々しく、時になまめかしく、ヒロインならではの存在感で演じる。そして、昨年、舞台「THE BEE」の狂信的な役柄で場を圧倒した阿部は、今回は一転して妹に愚直というほどの愛情を注ぐ、不器用な兄を鮮烈に見せる。

 二人は大人になり、ドライブインには元高校教師の大辻(皆川猿時)、若松の妻クリコ(猫背椿)、兄妹の父ショウゾウ(村杉蝉之介)、アルバイトのエミコ(河合優実)らが加わり、松尾ならではの強烈なキャラクターたちのドタバタ劇が展開するが、皆の周りには誰かの不穏な死とその気配が霧のようにただよっている。深刻なセリフのすぐ後に、爆笑シーンが起きたりと、パズルのように物語に組み込まれていくような感覚で、その緩急も素晴らしい。松尾は「今回、一番浮かび上がらせなきゃいけないのは、人間が絶望とどうやってつきあっていくかということ。そこを繊細に見せるため、人間の意識と行動を明確に描くことをすごく意識しています。もちろん笑いも重要なんですけどね」と語っている。

 松尾作品に初参加の谷原は、変てこなマネージャー役で、違和感なく松尾ワールドに溶け込み、マリエの足を洗面器で執拗に塩もみしたり、「俺はいい男」とポーズを決めて絶叫したりして笑いを取っていた。最近、司会者としてもおなじみだが、そのイメージを気持ちよく裏切ってくれる。また、「ドライブイン カリフォルニア」の1996年の初演、2004年の再演でもマリエの息子ユキヲを演じた田村は今回も続投。50歳近いという彼女だが、中学生の男の子にしか見えず、その演技力には舌を巻いてしまう。ユキヲは物語のキーパーソンでもあるので、ぜひ、注目してほしい。

 「いつも俺はダメだ、言葉に負ける」と、死のイメージに取りつかれたマリエをうまく励ますことができないと悩むアキオ。すべてのことに及び腰だったアキオが、大辻が披露する爆笑ものの紙芝居(これも必見!)に力を得て、「時間の波が、現在という砂浜に立つ俺の足を、洗う。(中略)、世界に、俺の足を洗ったという情報を乗せて時間の波は帰ってゆく。そして宇宙全体に、俺の足の情報が交ざる。…俺たちは宇宙に対して無力じゃない」と自らの言葉を発していくシーンには胸が熱くなった。ついに言葉を体得し、それに勝ったアキオが目にまぶしい。哲学的でもあり、阿部の高い表現力が心に残る名シーンだ。
 さらに、ラストでは、数々の言葉と美しい場面がキラキラと星のように降ってくる。悲しみや絶望にやさしくそっと寄り添ってくれる作品だ。

取材・文:米満ゆう子
撮影:田中亜紀

日本総合悲劇協会VOL.7
「ドライブイン カリフォルニア」

■作・演出
松尾スズキ

■出演
阿部サダヲ、麻生久美子、皆川猿時、猫背椿
小松和重、村杉蝉之介、田村たがめ / 川上友里
河合優実、東野良平、谷原章介

大阪公演

日時:2022/06/29(水)~2022/07/10(日)≪全14回≫
会場:サンケイホールブリーゼ

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