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「てなもんや三文オペラ」観劇レポート

2022/6/17

公演レポ

パルコ・プロデュース2022 『てなもんや三文オペラ』

生田斗真が初めて挑む大阪弁は及第点。
ブレヒトもズッこけるオモシロさ満載!

 「てなもんや」という言葉の意味は、大阪弁で「~というようなものだ」との説明も見かけるが、そこまで上から目線で断言する感じではない。「三文オペラ、ってなもんや」とアクセントを“て”におき、大阪弁で言えばわかる。もっと軽い。今ふうに言うなら「みたいな」「的な」、と同じようなニュアンスか。ベルトルト・ブレヒトの名作戯曲『三文オペラ』は、差別と貧困、資本主義社会を風刺した音楽劇。だが、作・演出は鄭義信(ちょん・うぃしん)。数多く上演されてきた有名戯曲を普通に演るはずがない。だからこその『てなもんや三文オペラ』。設定は1950年代の大阪。全編、大阪弁で上演するという作品を東京PARCO劇場で観劇した。先に言う、これは関西人が観てこその笑いに満ちたオモロイ舞台だった。

 原作の舞台はロンドンの貧民街だが、今回は第二次世界大戦の空襲で破壊された大阪砲兵工廠(現在の大阪城公園・森ノ宮エリアにあったアジア最大の軍需工場)の跡地が舞台に。当時、立ち入り禁止のそこに埋もれたお宝の鉄くずを、警備員との攻防戦の中、夜の闇にまぎれて拾って売り、一儲けを企む“アパッチ族” と呼ばれる人たちが実在した。生田斗真が演じる盗賊団のリーダーで主人公のマックは、その“アパッチ族”を率いる親分の役柄になっている。開高健が『日本三文オペラ』に書き、小松左京が『日本アパッチ族』でSFにし、また梁石日(やん・そぎる)が書いた『夜を賭けて』は後に山本太郎主演で金守珍(きむ・すじん)が映画化した題材で、南河内万歳一座の内藤裕敬も『日本三文オペラ 疾風馬鹿力篇』で舞台化。鄭も「いつか」と考えていた題材を本作に取り込んだ。

トタン屋根のバラック小屋が建ち、川向うには砲兵工廠の煙突が見える舞台。小汚い男たちが軽快なテーマ曲“マック・ザ・ナイフ”を歌い踊り、「舟が着くでぇ!」の声で、マックを筆頭にボロい小舟が沈みかけるほどの鉄くずを運んでくる。国家財産も「なんぼのもんじゃい!」、「オレらはアパッチ、ほっとけボケが!」「かかってこんかい!」といきなりハードな大阪弁の嵐。東京の観客たち、ちょっと引き気味?(笑)。声は大きいわ、「ごめんクサイ」で全員がズッコケるわ、ジェーコブ役の荒谷清水ら役名は外国人だけど、おもしろのノリはまるで吉本新喜劇(笑)。そんな中、マックとポール(ウエンツ瑛士)の結婚式が開かれる。原作では女性のポーリーだが、今作は男性に。LGBTQとか声高に言わずともスルッと受け入れられるほど、マックは男でも女でも愛し愛される魅力的な男なのだ。マックと戦友の警察署長ブラウン(福田転球)にも祝福され、有馬温泉のチケットをもらって新婚旅行用の三輪トラックで出かけるが…。乞食の友商事を経営するピーチャム(渡辺いっけい)とシーリア(根岸季衣)の両親から大反対に合うポール。マックを警察に逮捕させようとするピーチャムの企みをポールから聞き、マックはかつての恋人で娼婦のジェニー(福井晶一 ソロの歌、サスガです)の店に逃げるが、裏切りにあい、警察にボコボコにされて捕まってしまう。「これでしまいやないで、アホンだら!」って、言うんですよ!あの生田斗真が!
 20分の休憩をはさみ、2幕は刑務所のシーンから。警察署長ブラウンの娘で自称?マックの妻ルーシー(平田敦子)が面会に来るのだが、彼女にも「愛してるのはお前だけや」と言いつつ、ブラウンには内緒の関係で。マック、懲りんやっちゃ。でも、やっぱりなんか憎めない。ピーチャムも来るのだが、このシーンの渡辺いっけいが繰り出す、コテコテの懐かしいよしもとギャグ、もうサイコーです! でも、会場でめっちゃ笑ってるのは私と、あと数人か…。ま、しゃあないわ、東京やし。

さて、ここからの後半が原作とは大きく変わっている。“アパッチ族”を物語に取り込んだ鄭は、マックとブラウンとの関係を含め、その背景にあるものをあらわにする。こう来たか!というラストが待つ。鄭ならではの世界観がメッセージを持ってそこに立ち上がる。原作のブレヒトが観たら、きっと大阪弁に笑いながら最後には大きな拍手を贈るだろう。
 劇場を後にする時、観客の(わりとお上品な)奥様2名が「これって……あの『三文オペラ』??」と話しながらエレベーターに向かっていた。そうなんです、だからこれは鄭義信の『てなもんや三文オペラ』なんです。上演時間は休憩を含み、堂々の3時間。

生のパワフルな大阪弁は、過酷な日々を送りながら生きることに貪欲な人間たちの熱いエネルギーをそこに乗せ、観客に向けてド直球で放たれる。関西人は大阪弁にうるさい。どうしてもチェックを入れてツッコミたくなる。が、生田の大阪弁は初めてとは思えないほど及第点の出来だ。特に福田や荒谷、上瀧といった関西出身者との会話では完璧に近い。気になる部分は、きっと修正されて大阪に乗り込むことだろう。

 その大阪公演の劇場となる森ノ宮ピロティホールあたりが、まさに大阪砲兵工廠の跡地。今でも不発弾などが多く眠っていると聞く。今、城東区の大阪市有地で大阪公立大学の建設工事中。先日、朝日新聞に掲載された記事によると、所有者の市と工事業者が安全確認のために地質調査をしているそうだ。大阪市の調査費用は1億円以上。これまで「不発弾が発見される度に、大阪市では警察や自衛隊などと協力し、周辺住民に避難を促したり、鉄道の運行や高速道路の友好を規制したりした上で、処理に追われてきた」とある。77年前を経た今でも、まだ大阪大空襲の後処理は続いている。「大阪市の宿命」と市の担当者。この現実を知って本作を観ると、鄭が変えたラストがより深く伝わるだろう。森ノ宮の劇場でこの作品を観ること。それは、東京にはない意味を持って今の私たちに届いて来るはずだ。

 最後にひとつ。『てなもんや三文オペラ』というタイトルについて。最初に「てなもんや」の意味について書いたが、年配の関西人なら「てなもんや」と言えば「三度笠」と必ず返してくるはず。『てなもんや三度笠』とは、1960年代に藤田まことと白木みのるのコンビで大ヒットした朝日放送のお笑いドラマ。最初は画面がカラーではない白黒テレビで、まだドラマが生放送だった時代。ライブで知っているのは50代以降の世代と思われるが、最後に決めゼリフとして藤田がクラッカーを持ち視聴者に向かって言う「あたり前田のクラッカー」は、スポンサー名の前田製菓を盛り込んだ生CMで、番組を知らずとも時代を越えて若い世代にまで受け継がれているようで、驚いた。鄭義信はきっと番組を知っていてこのタイトルを付けたのではないだろうか。「てなもんや三」まで一緒やし(笑)。『三文オペラ』を書いたブレヒトの遊び心を、そのままタイトルに反映させたと思われる。会ったら聞いてみたい。

取材・文=高橋晴代
撮影=宮川舞子

パルコ・プロデュース2022
『てなもんや三文オペラ』

■作・演出:鄭義信
■原作:ベルトルト・ブレヒト
■音楽:クルト・ヴァイル
■音楽監督:久米大作

■出演
生田斗真 ウエンツ瑛士 福田転球 福井晶一 平田敦子
荒谷清水 上瀧昇一郎 駒木根隆介 妹尾正文 五味良介 岸本啓孝 羽鳥翔太 大澤信児 中西良介 近藤貴郁 神野幹暁
根岸季衣 渡辺いっけい

演奏=朴勝哲

大阪公演

|日時|2022/07/16(土)~2022/07/24(日)≪全10回≫
|会場|森ノ宮ピロティホール
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