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「エレファント・ソング」
ー「これは自分かもしれない」スリリングな謎解きの奥にある自分との対面ー

2022/5/13

その他

PARCO PRODUCE 2022 「エレファント・ソング」

 ひとりの精神科医が失踪した。その所在を探るために病院長は、医師の担当患者であり、彼が最後に診た青年から話を聞こうとする。だが、看護師が「もてあそばれる」と警告し、現れた青年は、象の話をするばかり…。
 
 なんとスリリングな始まりだろうか。おそらく、病院長のグリーンバーグと同様に観客も、このミステリーを解きたいと、患者・マイケルの言葉を必死で聴き取ろうとするに違いない。しかし、居場所を知っていることをほのめかしながらも、核心に触れることなく続く彼の饒舌は、謎をさらに深めることになる。マイケルと、失踪したローレンス医師、看護師のピーターソンとの関係にも、何か特別なものがあったのではないかと想像を膨らませずにはいられない。そればかりか、グリーンバーグ自身にも何か問題がありそうだと思わせていく。マイケルのその巧妙で狡猾な謎掛けには、翻弄されるほかはない。
 
 では、マイケルがそんなゲームを仕掛けているのはなぜなのか。マイケルが抱えているものは徐々に明かされていくが、カナダの映画監督で俳優のグザヴィエ・ドランは、まさしくそのマイケルの背景に心を重ね、「マイケルは僕だ」と映画化の際に主演を務めた。今回マイケルを演じる井之脇海も言う。「育ってきた環境はかけ離れているのに、彼を遠くに感じなかった」と。最初は不可解だったマイケルが、これは自分かもしれないと思えてくる。それこそが、この戯曲の真髄だ。
 
 井之脇は、どんな役を演じていてもその底に憂いを感じさせる俳優である。マイケルの悲哀や屈折もそれとなく見せてくれるはずだ。また、寺脇康文も、威厳を保とうとしながら右往左往するしかないグリーンバーグ役で、その巧者ぶりを感じさせることになるだろう。ピーターソンを演じるほりすみこは、本人がコメントしているように、この役に合う風貌を持っている強みを活かした芝居に期待が募る。さらには、役者自身が考え動くように演出していく宮田慶子の手腕が、この3人だけで作り出す濃密な空間を、さらに濃いものにするのではないだろうか。
 
 当然のことではあるが、映画と違って舞台では、今そこで3人がやりとりをしていく。目の前で重ねられていく言葉、駆け引き、そして、衝撃の結末。打ちのめされ方もきっと半端ない。でも、だからこそ、マイケルが投げかけるものの大切さは強く残る。それもおそらくは、温かさを伴って。

文・大内弓子
フリーランスのライター。ドラマ、映画、演劇などエンターテインメント分野のインタビューを手掛けている。演劇では、ストレートプレイからミュージカル、歌舞伎まで幅広く追い、雑誌、WEB、パンフレットなどで執筆。
 
舞台写真・加藤幸広

PARCO PRODUCE 2022
「エレファント・ソング」

■作
ニコラス・ビヨン
■翻訳
吉原豊司
■演出
宮田慶子
■出演
井之脇海 / 寺脇康文 / ほりすみこ

日時:2022/05/28(土)13:00 / 17:00
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

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