2022/4/27
インタビュー
――横山拓也さんの戯曲のファンだということですが、どこに魅力を感じていますか?
舞台を拝見すると、役者さんではなく、登場人物が目の前で生きていて、その人物の描かれていない生活感まで感じるところです。僕自身、お芝居をしているとき一番大切にしているのが、役としてその場所で生きること。役の人物が家で寝る前に何をしているかまで想像させるような、生活感を背負った芝居をやりたいなと思っているので、そういう部分を感じる脚本に大きな魅力を感じます。初めて生で観劇した横山さんの作品が、乳がんを題材にした『あつい胸騒ぎ』でした。細かな機微や感情が深く描かれていて、大阪の100人ほどの劇場の客席で、普通に「え!」と声を出してしまうぐらいのめり込む自分がいました。今回「横山さんの本の世界に飛び込める!」と心が躍りましたし、役者人生のなかでチャレンジの多い舞台になるだろうなと思いました。
――どういった部分がチャレンジになりそうですか。
演出は人間の深い部分まで一緒に追求してくれる内藤さんですし、最終的に今までで一番“演じてない”というところにもっていきたいです。内藤さんも、「今まで観たことのない辰巳くんになったらいいな」とおっしゃってくださいました。「ふぉ~ゆ~」のグループでのお芝居は、お客さんを巻き込んだり、ストーリーテラーの役目をしたりすることが多いのですが、そういう“魅せるお芝居”をしない、というのが目標です。
――演じられる沢村は、食肉加工センターの屠場で働く職人です。
33歳で小学3年生の子どもがいる男。妻子がいる男性を演じるのは初めてですが、話している雰囲気や動作の癖などから、そういうのが滲み出るようにしたいです。沢村は仕事をしっかりこなし、屠場で最初から最後の工程までを一人でできるぐらい仕事に誇りを持っている。でも伊舞(小日向星一)や玄田(加藤虎ノ介)に比べて自分の意思やこだわりを強く出さず、いい意味で芯のないところが、逆に演じるうえで難しいです。そんななか、唯一彼が軸にしているのが妻子との生活。この作品の中では描かれてないですが、妻子がいることによって闘う部分が多々あるので、そこを必ず心の中にもっておきたいです。
――作品の見どころ、作品を通して伝えたいことを教えてください。
「エダニク=枝肉」というのは、いろんな部位に分けられる前の吊るされたお肉のことですが、この作品は食肉加工への様々な意見を持つ男3人が、職場の一室で自分の価値観をぶつけ合う三人芝居です。その何気ない会話を、お客様も部屋の端っこで見ているような、ドキュメンタリーを見ているような作品になるのでは。男同士がまじめに討論するとギャップが生まれる瞬間がたくさんあり、かたい芝居と思われがちですけど、たくさん笑えるシーンもあります。僕もこの職業の参考となる映画を観るなどして勉強している最中ですが、本当に長い歴史があり、生き物に対しての敬意とかを持って働いていらっしゃる。なかなか普段は見ない世界だと思いますが、観終わったときに、食に対しての有難さ、「いただきます」「ごちそうさま」の言葉の意味を、それぞれの価値観で考えていただける時間になれば素敵だなと思います。
――三人芝居についてはいかがですか。
以前にも『ぼくの友達』でやらせていただきましたが三人芝居は好きです。共演者とはやはり普段から信頼感を生むべく、しっかりコミュニケーションをとっていきたいです。僕はもともと人見知りで、小さい頃妹と買い物へ行っても、レジのお姉さんに話しかけられないようなタイプだったのですが、やっぱり座長をやらせていただくと、自分が一番飛び込んでいかなきゃいけないなと強く感じました。柔らかい空気をお持ちの小日向さん、出てきただけで存在感や佇まいにオーラのある加藤さん、お二人とお芝居するのを想像して、今からワクワクしています。
――最後に、COOL JAPAN PARK OSAKA TT ホールで行われる大阪公演への意気込みをお願いします。
コロナ禍で大阪公演が中止になった作品が僕自身いくつかあり、大阪で上演できることの喜びと責任感を改めて感じました。ぜひ東京でしっかり成熟させて、大阪の皆さまにこの作品の魅力をお伝えしたいです。しかも「TTホール」は辰巳の「TT」なので、自分のホームグランドだと思って(笑)、しっかり届けたいです!
取材・文:小野寺亜紀
「エダニク」
■作
横山拓也
■演出
内藤裕子
■出演
辰巳雄大(ふぉ~ゆ~)、小日向星一、加藤虎ノ介
日時:2022/06/04(土)①13:30開演 / ②17:00開演
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
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