2022/3/18
公演レポ
「向かうは富士の裾野の無頼の宿だ!」と眼光鋭く見得を切る。幕末に偶然出会った二人の男が、謎多き極道一家を探るため旅立つ「最強バディ誕生」の瞬間。福士蒼汰と宮野真守が長身に映える長い髪をなびかせ、大音量のロックを浴びながらポーズを決めるド迫力の場面に、「待ってました!」の思いが弾ける。
2020年の上演延期を経て、いよいよ大阪・オリックス劇場で3月17日に開幕した、劇団☆新感線42周年興行・春公演 いのうえ歌舞伎『神州無頼街』。溜め込んだ2年分のエネルギーが巨大な火の玉となって迫ってくるような、熱いパワーが全キャストから放たれる。歌あり踊りあり大立ち回りあり、は当然! さらに人間の欲と狂気、因縁、恩義、ポップな笑い、劇的な展開など、娯楽要素をふんだんに詰め込んだフルスペック新感線の進化を、全身で享受できる舞台が誕生した。
中島かずきが伝奇時代小説の魅力を再構築すべく、乱世の幕末を舞台に書き下ろした物語は、奇想天外かつ骨太。福士蒼汰演じる主人公の若き町医者・秋津永流(あきつながる)は、侠客の身堂蛇蝎(みどうだかつ・髙嶋政宏)一家に、ある理由から近づいていく。一方、他人の事情に口を出しては銭をかせぐ口出し屋の草臥(そうが・宮野真守)は、蛇蝎の息子・凶介(木村了)に会って、昔なじみと瓜二つであることに驚く。さらに蛇蝎の妻・麗波(うるは・松雪泰子)の妖艶な魅力に取り込まれそうになる草臥。果たして、神州無頼街で悪を極める身堂一家の真の狙いとはーー。
人体や薬に精通した町医者で、どこか陰があるクールビューティな秋津永流。非道を嫌うピュアな心意気も含め、福士蒼汰の持ち味にぴったりだ。長い槍を操る華麗な立ち回りでは、新感線らしい小技も鮮やかに披露。さらに歌や踊り、草臥に見せる一瞬の甘え顔、女性たちに送るキラキラ目線など多彩な面を見せながら、自らの出自と向き合う緊迫感に満ちた終盤へギアを上げていく。
そんな永流と対照的に、太陽のような明るさで周りを引き込んでいく草臥は、言ってみれば自由な風来坊。ロックからジャズ、ポップス、ミュージカル調の曲までその多彩な歌声で魅せ、ギターのような三味線のような鳴り物を粋に携えながら、飄々と、颯爽と立ち回りもやってのける。そんな彼の意外な過去もまた、物語を二転三転させるから目が離せない。
取りこぼしてきたものを補い合うように、理解を深めていく永流と草臥。二人が対峙する身堂一家は、歌いながらの名乗り口上の場面から、ただ者ではない未知な高揚感をもたらす。
身堂蛇蝎の妻・麗波を演じる松雪泰子は新感線に5回目の出演、全シリーズを制覇したツワモノ。だからこそ、と言える今回の重要なキャラクターは、透けるような白肌と艶めかしい声色、武器を操る手先の美しさまで貫禄の造形だ。歌舞伎の悪人よろしく真っ赤な舌をちらつかせ、「卑怯こそ王道」と歌い上げる蛇蝎には大きな陰謀が。劇団☆新感線初出演となる髙嶋政宏の振り切りマックスな演技は、夢にまで出てきそうな魔力がある。
蛇蝎の息子の凶介は、狂犬のような凶暴性とおバカさを兼ね備えた人物。木村了の確かな演技力が伝わってきた。また、鮮やかなピンクが似合う清水葉月は、娘の身堂揚羽を勝気に演じ、粟根まこと・右近健一扮する浪人コンビとの関係性でも惹きつけた。
さまざまな時代性やモチーフを組み込んだ音楽の多様さが際立ち、まるで新作ミュージカルのような余韻も。パワフルな歌声の村木よし子、山本カナコをはじめ、劇団員の見せ場が多いのもうれしい。江戸末期の時代背景、任侠の世界の仁義など、細かなエッセンスで幕末にすんなりタイムワープできる3時間15分。
これを浮世絵タッチの映像や、鮮やかな原色系の衣裳、猥雑な雰囲気のセットに盆回しを駆使して展開させてゆく、いのうえひでのりの演出力。さすが42周年。これほど贅沢な色濃いお祭り騒ぎのエンタテインメントは、劇団☆新感線でしか成し得ない! 爽やかな笑顔で締めくくるカーテンコールで、スペクタクル活劇の興奮と感動をあらためてかみしめた。
取材・文/小野寺亜紀 撮影:田中亜紀