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六本木歌舞伎2022『青砥稿花紅彩画』より『ハナゾチル』観劇レポート

2022/3/10

公演レポ

ドゥドンン、タタンタン。腹に響く6弦ベースの重低音に、和太鼓の軽快なビートが重なる。のっけからBABYMETALの「神バンド」メンバーでもあるスキンヘッドのベーシストBOHと、元「鼓童」の和太鼓奏者、辻勝の意表を突く和洋楽器のコラボレーションで期待感を煽る、六本木歌舞伎2022舞台『ハナゾチル』(『青砥稿花紅彩画』より)。東京オリンピック開会式にも出席し日本の伝統文化を世界に発信し続けている市川海老蔵が、毎回注目のクリエイターとタッグを組む異色の歌舞伎シリーズ。今回は今井豊茂脚本、藤間勘十郎演出、三池崇史監修のもと、ジャニーズグループより数々の舞台で主演を務める A.B.C-Zの戸塚祥太を迎え、現代の若者が江戸時代にタイムリープすることで巻き起こる騒動を描く。シリーズ史上、最も歌舞伎の王道エッセンスを詰め込んだ仕上がりとなっている。

東京で暗躍する窃盗団のリーダー戸塚(戸塚祥太)は博物館へ盗みに入るも屋上で警官たちに追い詰められる。そこへ「……よ、ここへ来い」と不思議な声に誘われ、大屋根から飛び降りた先は、江戸時代だった!? 言われるまま呉服商を営む浜松屋幸兵衛(片岡市蔵)の息子、宗之助となった戸塚は巷を騒がす窃盗団の一味、弁天小僧菊之助(市川海老蔵)らに店に盗みに入られる。これを機に戸塚は、人生を左右する出来事に巻き込まれていく。

幕開きは戸塚祥太の独壇場。十数名の警官相手にパルクールよろしくアクロバティックな現代アクションを繰り広げる。突然江戸時代に放り込まれると、ジーパン姿のまま面食らう様子が観客の戸惑いとも重なり笑いを誘う。ストーリーテラーとして面白おかしく観る者を歌舞伎の世界へと誘う演出が楽しい。チントンシャンと時の流れもゆるやかな江戸の世では、どっこい窃盗団が大暴れ。騙しに入った呉服屋で、正体がバレて開き直る弁天小僧菊之助。「知らざぁ言って聞かせやしょう」の名せりふからの展開が、コメディ、シリアス、大どんでん返しと二転三転あって飽きさせない。浜松屋の主人を勤める市蔵らの端正な芝居にも助けられ、江戸の住人となった戸塚もドラマの主軸を担い見せ場を作る。

後半は五人の盗賊が出揃う名場面「稲瀬川勢揃い」から始まる。弁天小僧菊之助(市川海老蔵)、忠信利平(市川九團次)、赤星十三郎(中村児太郎)、南郷力丸(市川右團次)、日本駄右衛門(市川男女蔵)が一人ずつ花道から現れては、七五調で名乗りを上げる。デザイン違いの小袖で居並ぶ姿も凛々しく勇ましい。五人男の登場場面は、現代の戦隊ヒーローの元祖と言われるカッコ良さだ。

歌舞伎初心者なら千寿姫を勤める大谷廣松ら女形の可憐さや、ツケと呼ばれる歌舞伎特有の効果音、その音が加勢する大立ち廻り、ここ一番の見得の迫力にも新鮮な驚きと興奮を覚えるはず。また、ホールで再現される絢爛豪華な装置の見事さにも目を奪われる。様式美に貫かれた型や配置の美しさ、唄と雄弁な三味線の音色からは連綿と受け継がれる伝統の息吹が伝わり、動く絵巻物をじっくり堪能するような贅沢な気持ちに満たされる。とりわけ海老蔵が豪快に咲いて舞い散る悪の華を、大迫力で演じ切る怒涛のクライマックスは、これぞ歌舞伎!の艶やかさだ。

取材・文:石橋法子 (c)松竹

六本木歌舞伎2022
『青砥稿花紅彩画』より『ハナゾチル』

日時:2022/03/18(金)~2022/03/21(月・祝)≪全5回≫
会場:フェスティバルホール

■脚本
今井豊茂
■演出
藤間勘十郎
■監修
三池崇史

■出演
市川海老蔵
戸塚祥太(A.B.C-Z)
中村児太郎
市川右團次 ほか

公演詳細
https://kyodo-osaka.co.jp/search/detail/3876

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