2022/2/9
取材レポ
2015年から始まり、3年ぶりとなる市川海老蔵による「六本木歌舞伎」。第一弾は宮藤官九郎脚本、三池崇史演出の新作歌舞伎『地球投五郎宇宙荒事』、2017年はリリー・フランキーが新解釈で描き、三池が演出した『座頭市』、2019年も三池演出で芥川龍之介の『羅生門』が上演された。そして2022年3月、フェスティバルホールで開催される「六本木歌舞伎2022」では、三池が監修を務め、日本舞踊宗家藤間流宗家 八世藤間勘十郎が演出する『ハナゾチル』(『青砥稿花彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』より)を上演する。
本作は、文久2(1862)年3月に江戸市村座で初演された通称『白浪五人男』で知られる河竹黙阿弥の名作で、五人の盗賊が主人公だ。本公演では、この『青砥稿花彩画』をベースに、現代社会を騒がせる窃盗団と幕末の江戸市中において人々の耳目を集めた盗賊一味とが織りなす時空を超えた物語を展開。歌舞伎音楽とロックの融合や、弁天小僧菊之助が歌舞伎世話物狂言の醍醐味をたっぷりと見せる場面など見どころ目白押しのなか、戸塚祥太(A.B.C -Z)が歌舞伎に初めて挑むことにも注目が集まっている。1月、大阪市内で取材会を行った戸塚が作品への意気込みなどを語った。
「最初にオファーを聞いたときはドッキリかと思いまして、これは夢かなと。自分が歌舞伎に出演できると思っていなかったので、死角中の死角からオファーが来て、もう信じられなかったです」と声を弾ませる戸塚。市川海老蔵との共演も「驚きだ」といまだ信じられない様子だが、「海老蔵さんは歌舞伎界をリードされていて、お家の芸をずっと守り続けています。守るために新しいことに挑戦され続けていると思うので、そういう人間的な部分も僕は学びたいなと思っています」と意欲を見せる。
本作は、江戸時代と現代の2つの時代をタイムリープするという設定で、戸塚は江戸時代の呉服屋の若旦那と現代版の弁天小僧菊之助の二役を勤める。「今は体をすぐに動かせるように、常にスタンバイしている状態。それで正月の三が日もあまり食べ過ぎないようにしていました(笑)。今は、歌舞伎の殺陣や所作、歩き方などを教わっています」。
ポスターに写っている歌舞伎の型もばっちり決まっているが、撮影は難しかったと振り返る。「正直申しますと、僕は人形のようになって(手取り足取りで)この型を作ってもらいました。俳優さん方は子供の頃からやられてきて辿り着くところに、僕はかなりすっ飛ばして行かなきゃいけないので、僕自身は人形だと思って、とにかく型に自分自身をはめていこうかなと思っています。“こうすればいい”みたいなことを自分の中でも思いついたので、そのやり方でいこうかなと思っています」と、初めての歌舞伎に試行錯誤しながらも、自分の在り方を見出しているようだ。
舞台作品に出演する際は「集中すること」を子供のころから心がけてきたが、最近になって意識に変化が表れた。それは「演じる役にこだわることよりも、お客様のしもべになること」だという。その真意について、次のように話してくれた。
「数年前ですが、演技レッスンや演出について書かれたある俳優さんの本を読んで腑に落ちたことなのですが、“役のしもべになると結局、役にとらわれてしまい、作品全体や物語の流れを見られない時がある”と。確かにその通りだなと思って。与えられた役に時間を費やして、とことん努力して、アプローチするのは当然のことだと思うのですが、それを表現したところで自分が思ったとおりにお客様に受け取ってもらえることは、僕の経験ではゼロなんですね。役をどう受け取るかは最終的にはお客様が決めることだし、お客様が楽しめなければ、どれだけすごいことをやっても意味がないと。お客様が喜ぶことをやることがエンターテイメントかなと思っているので、“お客様のしもべになる”という考えに辿り着きました」。
伝統文化を広く知ってもらいたいという海老蔵の思いも込められている「六本木歌舞伎」。戸塚が出演することは、若い世代に歌舞伎を伝えるという役割もある。この機会について改めて心境を問うと、「僕にできる最大の役目は、そこだと思っている」とはっきりと答えた。そして、「子供の頃からずっとされている歌舞伎俳優の方々には絶対に太刀打ちできません。なので、一番貢献したいのは“伝えること”。自分がバトンとなって、歌舞伎を観たことがない方にも“歌舞伎ってかっこいいな”と思ってもらえるよう、自分も歌舞伎の世界に染まりたいと思っています」と意気込んだ。
TEXT:岩本和子
六本木歌舞伎2022『青砥稿花紅彩画』より『ハナゾチル』
■脚本
今井豊茂
■演出
藤間勘十郎
■監修
三池崇史
■出演
市川海老蔵
戸塚祥太( A.B.C-Z)
中村児太郎
市川右團次 ほか
2022/03/18(金)~2022/03/21(月・祝)≪全5回≫
フェスティバルホール
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