2021/7/29
インタビュー
「披露パーティーから40日間の披露興行まで全部が緊急事態宣言下でした。もちろんコロナはない方がいいんですけど、本当にお客さまの優しさやありがたみをすごく感じられた40日間だったので、僕はいろんな人に心から感謝できるようになった。もっと早くに(真打に)という声もありましたが、僕はこの3,4年で人情噺、怪談噺、新作を含めていろいろなものに取り組めて、自分の中で引き出しが作れたので、40日間毎日ネタをかえることができました。全部が僕にとってはいい方に進んだんじゃないかと思っています」
トップセールスマンだった彼の人生を変えたのは、たまたまYouTubeで見た上方落語の爆笑王・桂枝雀の落語だった。仕事に迷っていた彼は、妻に背中を押されて、それまで未知だった落語の世界へ31歳で飛び込んだ。
「枝雀師匠の映像を見て、こんなに人を幸せにできる仕事があると。自分と出会った人が少しでも笑ったり、嫌なことを忘れられる時間を作ることができて、ご飯も食べていける仕事。できるならやってみたい。かみさんも『やりたいことが見つかったんだったら仕事をやめなさい』と言ってくれて。それで僕は一気に人生を変えて噺家になりたいといろんな所に見に行って、うちの師匠の桂伸治が出てきた瞬間に体に電気が走ったんですよね。『この人だ。この人しかいない!』 僕の人生は人との出会いだけで今、ここにいる。かみさんと画面の中の枝雀師匠、うちの師匠。これで僕の人生はすべて決まったんです。そして入ったら同期の仲間、「成金」メンバーと出会えて。うちの師匠から『その日の一番になれ』っていうのをずっと言われてて、それ以外に『仲間が一番大事だからな』と。青春時代というか、仲間と一緒に同じ目標に向かっていくことを初めて経験できたので、辛い修行も楽しかったです」
小痴楽は生粋の江戸落語、昇々は新作派、そして宮治はパワーあふれる爆笑落語と「ワンダー3」のメンバーは全員カラーが違う。
「僕が心がけることはこの2人に負けないということ。どの順だろうが、2人が何をやろうが、お客さまの一番印象に残る落語をやるっていうことだけです。落語は一人芸なんですけど、戦ってるんですよね。お客さまとも戦ってるし、自分とも、共演者とも戦っている。そんな姿を見に来ていただければ。それに実際に一番の負けず嫌いの3人なんで、2回公演ですが、絶対に手を抜かないです。こんなに一生懸命しゃべってくれなくてもいいのにって言われるくらいやります!」
これから長く続く噺家人生。宮治はどんな夢を抱いているのだろう。
「最終目標はうちの師匠みたいになることです。お客さまに好かれて、寄席の空気をぱっと明るく変える。楽屋でもいつもすごい楽しそうで。でも僕は、今はそんなことを言ってる場合じゃない。上に登んなくちゃいけないんで。この状況で『抜擢』という形で真打にさせていただいたんで、その日の一番になる努力、100%、120%全力で出して1席1席絶対に手を抜かない。日常として力を出し続けるっていう気持ちと努力を続けていくことが目標です」
TEXT:日高美恵
【出演者プロフィール】
柳亭小痴楽(りゅうてい・こちらく)
1988年、東京都生まれ。2005年に桂平治に入門し、ち太郎。その後、父である五代目柳亭痴楽門下へ移り、父の没後は柳亭楽輔門下。2009年、二ツ目に昇進し、小痴楽。2019年9月に真打昇進。
春風亭昇々(しゅんぷうてい・しょうしょう)
1984年、千葉県生まれ。2007年、春風亭昇太に入門し、昇々。2011年、二ツ目に昇進。2021年5月に真打昇進。
桂宮治(かつら・みやじ)
1976年、東京都生まれ。2008年、桂伸治に入門し、宮治。2012年、二ツ目に昇進。2021年2月に真打昇進。
平成紅梅亭 presents
ワンダー3 ~小痴楽・昇々・宮治の落語
出演:柳亭小痴楽/春風亭昇々/桂宮治
日時:2021/10/30(土)13:00(12:15開場)/17:00(16:15開場)
会場:松下IMPホール
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