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ミュージカル『衛生』〜リズム&バキューム〜 観劇レポート

2021/7/15

公演レポ

ミュージカル『衛生』〜リズム&バキューム〜

「悔しいほどに命燃やして生き抜いてんな、この悪党たち。うらやましすぎるぞー!」と、地団駄を踏みたくなるぐらい、コロナ禍で鬱屈した気分に揺さぶりをかける。強欲な人間たちの底抜けに野蛮な生命力に当てられ、時に辟易しつつも、最後にはムクムクと生きる勇気が湧いてくる。そんなプリミティブなパワーに彩られたミュージカル『衛生』〜リズム&バキューム〜が絶賛上演中だ。

開演前から場内に薄く流れるファンキーでスウィートなブラックミュージック。「お洒落な夏にぴったり」と呑気に構えていたら、約3時間を見終えてぶったまげた。
「うんちはお金になる!」と糞尿処理業に端を発し、飲み屋、パチンコ屋へと事業拡大を続けるとある悪徳一家の成り上がり人生を描いた本作は、親子三代に渡る血と汗と涙がにじむ大河ドラマ。であると同時に、新陳代謝を繰り返す都市の成長物語としても見て取れる。復興や開発の度に埋もれてきた土地の記憶が断片的によみがえり、当時の人々の暮らしぶりや時代感をその都度、追体験するようなダイナミズムが味わえるのだ。

昭和33年。利益のためなら殺人も「可」な経営方針を掲げ、地元の有力政治家・長沼ハゼ一(六角精児)やその秘書・箕倉時子(佐藤真弓)と結託し、一代で財を成した汲み取り業者「諸星衛生」社長の良夫(古田新太)。右腕の息子・大(尾上右近)が事務員・花室麻子(咲妃みゆ)と結婚したのも利益優先の身勝手な考えから。その状況を麻子に恋心を抱く従業員・代田禎吉(石田明)は苦々しい思いで見つめていた。
時を経て、壮絶な最期を迎えた麻子が残した娘・小子(咲妃みゆ)が18歳を迎えた頃、「諸星衛生」は大が実権を握り代替わりしていた。その裏で、良夫たちに出し抜かれ、夫の瀬田楢太(村上航)と離婚後、姿をくらましていたかつてのライバル瀬田好恵(ともさかりえ)や恨みを持つ面々が、復讐の機会をうかがっていた。

暴力や差別がはびこり、何もかもがあけすけな時代。どぎつい人生を送る登場人物たちはナンセンスなギャグ漫画の登場人物よろしく、どこか突き抜けた言動がコミカルにも狂気にも転じる。破天荒を体現する古田新太。終始ハレンチに徹するが、ここぞという場面では悪人の矜持を熱くギラつかせることも忘れない。尾上右近は全力で役と格闘する様が清々しい。歌舞伎俳優としての見せ場もあり、悪漢として華やかに場を盛り上げる。六角精児のとぼけた大物政治家は「選挙は大事」と思わせるほどには十分に悪徳。石田明は恋のドタバタ劇が楽しく、村上航は登場するたびに、個性的な役作りや歌マネでドラマに弾みを付ける。
咲妃みゆはパンドラの箱を抱えたようなヒロイン像が新境地。時代の暗さを引き受け、美しくも凄みのある存在感で魅了する。ともさかりえはデフォルメされたキャラクターを軽やかに息づかせる。「バカを憎んでひとを憎まず」と、独自の精神性を貫くビジネスウーマンがハマり役。ナンセンスを心得た佐藤真弓の活躍も光る。抜群のテンポ感でオモシロ要素を担うと同時に、切ない女の性もじみじみと表現する。搾取され、利用され、基本虐げられがちな女たち。だが、転んでもただでは起きないのも女なのだった。

誰もが歌い飛ばさずにはいられない切実さを抱えているという点で、歌が似合う芝居だ。素で受け止めるには重すぎる「本当の話」を盛った歌詞も、音楽やダンスがマイルドに中和する。ロック、ポップス、スカ、レゲエ、懐メロまで曲調やアレンジも多種多様。見せ方も独特で、どこかアイドル全盛期の昭和の歌謡番組を思わせる。中央に歌手がいて、周りを優秀なダンサーらが華やかに歌い踊るあの感じ。俄然カラオケ行きたい欲が刺激されること請け合い。転換の度に流れるスローでメロウなギターサウンドもセンチメンタルな響きを伴い、郷愁を誘う。

かつて「殺人を描いて拍手をもらえるのは、歌舞伎ぐらい」と取材で語ってくれた歌舞伎俳優がいたが、本作も惨憺たるドラマを果敢にエンターテインメントへと昇華する。結果、人生かぶいたもん勝ちだな、と妙に得心した気分に誘われる。ふいに強気な自分が顔を出す。怒涛のラストシーンは、ちょっと放心するぐらいの美しさだ。

取材・文:石橋法子
撮影:引地信彦

ミュージカル『衛生』
~リズム&バキューム~

日時:2021/07/30(金)~2021/08/01(日)≪全4回≫
会場:オリックス劇場

■脚本・演出
福原充則
■音楽
水野良樹(いきものがかり) 益田トッシュ
■振付
振付稼業air:man
■出演
古田新太 尾上右近 咲妃みゆ 石田明(NON STYLE) 村上航 佐藤真弓 ともさかりえ 六角精児 / 稲葉俊一 今國雅彦 尾上菊三呂 甲斐祐次 加瀬澤拓未 久保田武人 後東ようこ 高山のえみ 竹口龍茶 新良エツ子 八尋雪綺 / 江見ひかる エリザベス・マリー 落合佑介 かにえゆうき 鏑木信三 高橋伶奈

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