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舞台「パークビューライフ」東京公演レポート

2021/4/12

公演レポ

パークビューライフ

今の我々が必要としているのは、こんな時間かも知れない。東京・世田谷パブリックシアターで4月7日から上演中の舞台『パークビューライフ』は、孤独だった男1人と、にぎやかな女3人の目まぐるしい会話劇で、風間俊介、倉科カナ、中川翔子、前田亜季の4人がほぼ出ずっぱり。新宿御苑を臨むヴィンテージマンションの最上階を舞台に、まるで現代のおとぎ話のような時間を紡ぎあげていく。

とある夜。このご時世から仕事をなくし、故郷に帰る前となった東京最後の夜に、玉枝(倉科カナ)、香苗(中川翔子)、望(前田亜季)の女3人は階段を上っていた。屋上庭園と思しき場所から新宿御苑を眺めようと思ったのだが、着いてみるとそこは庭園ではなく、誰かの家のバルコニー。鍵が開いていたのをいいことに、アトリエのような部屋を抜けて、3人は念願のバルコニーに忍び込む……。すると、そのにぎやかな声に、眠っていた家主の成瀬(風間俊介)が目を覚まし、ついに3人と鉢合わせ! 驚き、慌てる3人に成瀬はおずおずと口ごもりながら、こう提案した。僕と、一緒に暮らしてくれませんか――。

 
風間が演じる成瀬のヒキコモリっぷりは、もはや小動物のよう! 気配を消してちょこまかと動く姿は何とも言えずキュートだ。そして、上手く話せずに口ごもり、急に爆発して声が大きくなる。そんな自分に驚いて、また、しぼむ。そんなくるくると変わる表情や、言葉少なながらもボソッと隙間に挟んでいく的確なツッコミで、会場の笑いを何度も誘っていた。そして、倉科、中川、前田の3人のかしましい会話の応酬も実に見事。やや強引な論理展開も、会話のテンポの良さから妙に納得させられてしまう。幼馴染ならではの、ちょっと年齢よりも幼い会話の空気感や、仲が良いからこそ踏み込める感覚が絶妙で、自然と頬がほころんでいくのを感じた。


冒頭でおとぎ話のよう、と書いたが、4人の直面している現実はシビアなもの。女3人は、それぞれに仕事を頑張っていたもののコロナ禍で仕事を失い、後ろ髪をひかれながら地元に帰るほかない。そして成瀬は、友達ができたことも、仕事をしたことも無く、ただただこの部屋で無為に絵を描いて暮らしてきた。生きれば生きるほど、孤独の恐怖は深くなるが、それを誰とも共有できない。

 
この出会いは、成瀬にとっては女3人が孤独を打ち破ってくれる存在となり、女3人にとっては成瀬が東京に残れる拠り所となる、いわば利害が一致したような状態だ。そこに打算があるのではないか、邪な気持ちがあるのではないか、と穿った気持ちが湧き上がってもおかしくない。男1人女3人の暮らしは、普通に考えればイビツに感じるし、現実的でないと思える。それが“常識”というものだ。

 
だからこそ、4人の関係はまぶしく、童話的に思える。「そういうトコ、あるよね」と、性格やクセを指摘し合う様子からは仲の良さがうかがえるし、互いを分かりあい、信頼し合っているのが良く分かる。そこに打算や邪心はない。ちょっと常識離れした、とても愛おしい4人のやりとりは、笑顔になっていくのに目頭も熱くなる。そして、4人の暮らしが導いた答えに、こう思うはずだ。こんなふうに、言葉を交わして暮らしていきたい、と。


舞台『パークビューライフ』は、4月23日よりサンケイホールブリーゼにて大阪公演が開幕する。

取材・文:宮崎新之
写真:©︎2021パークビューライフ/撮影:岩田えり

「パークビューライフ」
 
■出演
風間俊介、 倉科カナ、 中川翔子、 前田亜季

■作
岡田惠和

■演出
田村孝裕

大阪公演情報

日時:2021/04/23(金)~2021/04/25(日)≪全3回≫
会場:サンケイホールブリーゼ

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