2020/10/5
取材レポ
「緊急事態宣言が出て、初めてのジャパンツアーがすべて中止に。ソーシャルディスタンスを確保しないといけなくなり、今までやっていたマジックの70%くらいはできなくなってしまいました。仕事も白紙になって、どうやってこの状況の中でマジックをしようか、そもそも自分はマジシャンを続けてもいいのかと悩みました。ちょうどその頃、世界もロックダウンになっていて、アフリカの方からオンラインでマジックを見せて欲しいと依頼があったんです。最初は本当にそんなこと可能なのだろうか?と不安だったのですが、リモートマジックを実際にやってみたら子供たちがすごく喜んでくれて。そこから、距離が離れていてもマジックはできるんじゃないかと思うようになりました。ステイホーム中、毎日色々なマジックを研究していく中で全く新しい『ソーシャルディスタンスマジック』が誕生しました」
今回のツアーでは、自主期間中にできた『ソーシャルディスタンスマジック』を更に発展させ、観客全員の手の中でミラクルが起こるマジックを披露するという。
「僕は今回『マジックは見る時代から感じる時代に代わった』というテーマを打ち出しました。構成の70%くらいは観客参加型のマジックで、一緒に奇跡を体験して頂けます。僕がマジックを初めて観たのは5歳の時で、本当にびっくりしたことを覚えています。同じように僕のマジックを観た子供たちにとって忘れられない思い出になればいいですよね」
HARA自身が子供の頃にマジックを観て、マジシャンを目指すほど衝撃を受けたように、今回彼のマジックを目の当たりにする子供たちの中にも、同じ道を志す子もいるかもしれない。師匠を持たず独学でここまで上り詰めた彼が、その子たちにアドバイスをするとしたらどんな言葉を贈るだろうか。
「僕は奈良県の十津川村で生まれ、周りに保育園もなかったのでずっと美しい自然の中で遊んでいました。朝起きたらテーブルにおにぎり2つとお茶が置いてあって、母が『それを持って日が暮れるまで遊んで、日が暮れる前に帰ってきなさい』と(笑) ウグイスの鳴き真似をして鳥とコミュニケーションを試みたり、何もないからこそ工夫してきた経験が自分の中で一番役立っている気がします。アメリカのオーディション番組『America’s got talent』で評価して頂いた『IBUKI』は、プロジェクションマッピングで映し出された桜の木が伸びていき、最後は鳥が飛んでくるという作品なのですが、これも僕が小さい頃に大好きだった桜の木の下で鳥と遊んでいた幸せな風景を世界中に届けたくて作りました。僕が子供の頃はものすごく暇な時間があったんですよね。でも今の子供たちはみんな習い事をしていて、空いている時間があったら携帯を見たり、空白の時間がない。僕のショーで経験するAHA体験を通して、自分の手を動かすと何かが生まれるという感覚のきっかけになると良いなと思っています」
舞台上で美女が真っ二つになるようなマジックは、心躍る。しかし、HARAが見せるマジックは、私たち自身の手の中で起こるというのだから、期待せずにはいられない。
「緊急事態宣言が出てから、自分が舞台に立てていたことが奇跡なんだと実感しました。僕は『奇跡』の対義語は『当たり前』だと思うんです。劇場に脚を運ぶということすらも難しい中で、またエンターテインメントをみなさんに届けられるとことが本当に嬉しいです。自分の中の最高のパフォーマンスを皆さんにお届けします!」
TEXT:鷲野恭子(ヴエロ)
2020/10/25(日)13:00
大阪国際会議場 メインホール
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