詳細検索
  1. ホーム
  2. KEPオンライン
  3. 森田剛主演、現代版ファウスト伝説 『フォーチュン』開幕!
詳細検索

KEP ONLINE Online Magazine

森田剛主演、現代版ファウスト伝説
『フォーチュン』開幕!

2020/1/23

公演レポ

「スゲーーーーーーッ!」と思わず息を呑んだ、衝撃の結末。心臓が弱い方、閉所が苦手な方が心配になるくらい、トラウマ的光景は美しくもあり……いやいや、やっぱり猛烈に恐ろしくて。なのに、今すぐにでも次を欲してしまう。この中毒性たるや、まさに悪魔の所業。「ファウスト伝説」を題材に、悪魔と契約を交わした男の顛末を描く、森田剛主演舞台『フォーチュン』。英国を代表する劇作家サイモン・スティーヴンスの新作を、世界に先駆け日本で初演する注目の舞台だ。脈打つ鼓動を合図に、人間の預かり知らぬ時空への扉が開かれる。夢か現か。洗練とユーモアと啓示に満ちた、ようこそ、サタンの棲む世界へ。

舞台は現代のロンドン。フォーチュン(森田剛)は気鋭の映画監督として名声を得るが、自分を幼い頃に捨てた父親(鶴見辰吾)の死がトラウマとなり、母親(根岸季衣)以外に心を開けない。そんな彼が自分と対極にあるような若く溌剌とした女性プロデューサー、マギー(吉岡里帆)に心奪われるのは時間の問題だった。「既婚者である彼女の心が欲しい」。悪魔と契約を交わしたフォーチュンは以降、現実と幻想をさ迷うことになる。

日英のクリエイティブチームがタッグを組んだ意欲作を前に、主演の森田剛が圧倒的なカリスマ性を発揮する。“何もない空間”に渦巻く、フォーチュンの言葉、言葉、言葉。森田は様々な声色に乗せて役の思いを表現。時にダンサーのように体をくねらせ、喜怒哀楽を超えた感情までも物語る。セクシーに悶え苦しむ彼の、色気と狂気と切なさから目が離せなくなる。そんな森田と体当たりで愛を交わすのが、ヒロインの吉岡里帆。黒目がちな瞳に真剣さを宿し、ピュアな佇まいが健気にもあざとさにも映り効果的。彼女が“小悪魔”なら、田畑智子演じるルーシーは本物の悪魔だ。終始チャーミングな言動で軽やかに場の空気を変える。口癖のようにつぶやく「ごめんね」の響きが深く、コミカルさの中に不思議なリアリティを漂わせている。

英国演劇界からも選りすぐりの才能が集結した。観客の視界を大胆に支配する美術・衣裳はポール・ウィルス。余白を活かしたミニマムな構図と意味深な色使いが、まるで現代アートを見るよう。そこへ演出家のショーン・ホームズが、最小限に研ぎ澄ませた音や光を的確に配置し、イマジネーションを増幅させる。悪魔の登場は、鼓膜を震わす不穏な音の振動や、地の底から響く女の歌声でそれと告げる、というように。時空の変化は、単純な扉の開閉と光の差異だけで表現し、時間の概念までもを可視化する手腕はじつに魔術的だ。

現実と幻想が折り重なる世界では時折、ひとつの場面に他の時空が透けて見える瞬間がある。とりわけ天国のように思えた光景が、じつはフォーチュンが母親と過ごす何気ない日常の風景だと気づいた時の衝撃といったら。ああ、フォーチュン、真の幸福のなんと些細なことか! しかし、そんな感傷も多分に盛り込まれたユーモアに瞬時に掻き消されるから。観客もフォーチュン同様、様々に心のレイヤーを旅することになるだろう。

日本と英国のアーティストによる共作舞台は、過去にも例はあるが、それが世界未発表の作品であり、戯曲を書いた作家とカンパニーがゼロから戯曲を解読し、創作する現場は稀だと言う。出自や経験の違いを超えて、全員が当事者意識を持つことで生まれる統一感。その熱量が大きなうねりとなり作品を脈打たせる。鼓動に触れた瞬間、虜にさせられる。

取材・文:石橋法子
撮影:尾嶝太

「FORTUNE」-フォーチュン-

■作
サイモン・スティーヴンス
■演出
ショーン・ホームズ
■美術・衣裳
ポール・ウィルス
■翻訳
広田敦郎
■出演
森田剛、吉岡里帆、田畑智子、市川しんぺー、平田敦子、菅原永二、内田亜希子、皆本麻帆、前原滉、斉藤直樹、津村知与支/根岸季衣、鶴見辰吾

大阪公演情報

日時:2020/02/15(土)~2020/02/23(日)≪全9回≫
会場:森ノ宮ピロティホール

公演詳細はこちら

一覧へ戻る