2020/1/20
取材レポ
三代目市川猿之助(現・猿翁)のもと初代市川右近を名乗り、スーパー歌舞伎を第一作から支え、『弁天娘女男白浪』の日本駄右衛門など古典でも魅了。2017年に上方歌舞伎ゆかりの大名跡を襲名した、三代目市川右團次。ドラマ『陸王』の敏腕シューフィッターなど、映像でも存在感を示す右團次が、全国10カ所17公演で上演される『伝統芸能 華の舞』で、息子の二代目市川右近と巡業での親子初共演を果たす。
二人が踊るのは、白と赤の獅子頭で息の合った豪快な毛振りを見せる『連獅子』。「我が子を谷底に突き落とし、這い上がってきた強い子だけを育てる」という伝説を基にした人気舞踊だ。「親として子を愛情で突き落とす。そこからやはり登ってきてほしいという思いがあるし、登ってきてくれたときの嬉しさが出ればと思います。親子で踊らせていただくことで、『連獅子』の本質的なものが見えるような気がします」と話す右團次。
昨年の「ラグビーワールドカップ」開幕式でも、右團次と右近が約2分半の抜粋編として『連獅子』を披露した。「息子の右近はちょうど、ラグビーを題材にしたドラマ『ノーサイド・ゲーム』に出演(君嶋博人役)していましたし、あのような場所で踊らせていただいたのは、昨年の最大のトピックスでした。当初は9歳の彼に無理ではないかと思ったのですが、ひと月ほど懸命に指導し、よくついてきてくれました」。
右近は家でバスタオルを頭に巻き、連獅子の真似をしていたそうで、稽古が始まると確かな手応えを感じたという。「親の勘として『打てば響く、これはいけそうやな!』と思いました。当日も全然緊張しなかったらしく、堂々とやっていましたね」と、喜びの表情。
今回は前ジテ、後ジテと全編を踊るにあたり、「前半は物語の語り部となり、感情が入りすぎてもいけない。後半は獅子の精となり、勇壮な毛振りをご覧いただきます。前半と後半で違う二役を演じるような難しさがあります」。その奥深い舞踊を息子に課す右團次自身、「(右近を)谷に突き落とすようなところがあるかもしれないが、登ってくるよう祈っています」と話し、巡業に向け「移動もあるので、身体を壊さないようにしてあげないとあかんな」と、優しい笑顔を見せる。
『連獅子』以外には、江戸の遊郭吉原で、鳥売りの男女たちが繰り広げる『吉原雀』を、右團次の一門である市川右若、市川右左次、市川右田六が披露。大阪の豪商、通称椀久が恋焦がれた遊女の松山太夫の幻と連れ舞を踊る『二人椀久』を、市川九團次と大谷廣松が披露する。「華やかな『吉原雀』、幽玄な『二人椀久』そして『連獅子』と、違う魅力のある三大舞踊が並びましたので、歌舞伎をご覧になったことがない方にも、お楽しみいただければと思います」。
また、大阪城公園内の「COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール」での公演は、大阪出身の右團次にとって思い入れもひとしお。「ミナミのど真ん中で生まれ、大阪城公園にもよく来ていましたので嬉しいですね。2018年、松竹座で襲名をさせていただいた時に、お練りも含めて大阪の皆さまから、『大阪の名前が復活した』という“熱”を感じました。東京の澤瀉屋の家に41年間お世話になり、今こうやって大阪にまた戻ってこられたという、感慨深いものがあります」。
歌舞伎に実直に取り組んできた右團次は、2020年を「市川家にとってすごい一年になると思う」と力を込める。「わたくしに市川右團次という名をすすめて下さった市川海老蔵さんが、十三代目市川團十郎白猿をご襲名されます。市川の人間としてそこに全力を注いでいきたいです。もちろんこの『伝統芸能 華の舞』を成功させ、忘れ得ない年となるであろう2020年を大切に過ごしていきたいです」。
※澤瀉屋の「瀉」のつくりは、正しくは“わかんむり”です。
取材・文:小野寺亜紀
★公演情報
「伝統芸能 華の舞」
2020/3/14(土)13:30/17:00
COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
■出演
市川右團次、市川九團次、大谷廣松、市川右近 他
演目
一、『吉原雀』長唄囃子連中
市川右若 市川右左次 市川右田六
二、『二人椀久』長唄囃子連中
市川九團次 大谷廣松
三、河竹黙阿弥作『連獅子』長唄囃子連中
市川右團次 市川右近
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