
new 2026/1/22
インタビュー
――今回のプログラムは、加古さんにとってエポックメイキングとなった楽曲を軸にしているそうですね。
「今回は僕のソロコンサートのベストと思えるものです。ただ、感覚的に「この曲を今回やって、こういう組み合わせをやったら新鮮ではないか」という風にチョイスをしています。「パリは燃えているか」など絶対に外せない曲はもちろん入れなければいけません。一方で『前回演奏したから、今回はお休み』という形などで曲を選びました」
――中でも「エンプティー・トランス」は注目曲の一つです。加古さんが音楽と演奏、イズマエル・イヴォさんがダンサーを担当し、1989年に初演された『APOCALYPSE〜黙示録〜』の中の1曲で、演出家の天児牛大さんは2024年に逝去されました。
「「エンプティー・トランス」は真っ先に今回のソロのコンサートで弾くのにふさわしいと思いました。天児さんとの思い出をステージで表現したい。1年半前からそんな構想がありました。また、イヴォさんも2021年にお亡くなりになりました。あの当時、ミュンヘンの劇場で一人でピアノを弾いているとき、一人のダンサーが動く絵が浮かんでダンサー探しが始まりました。イヴォさんは人間的にも素晴らしく、ダンサーとしても美しい肉体を持っていらっしゃいました。ただ“第三の目”が必要だった。そこで天児さんが加わってくださったんです」

――それが天児さんとの初対面だったのですね。
「初めてお会いしたのは1988年。僕との共通点は、フランスと日本を拠点にしていたこと。アートに対する考え方も似ていて、「これが今、流行っているから」ではなく、空間と時間と世界の見方を大切にしていました。共感できる部分がお互いに多く、ずいぶんたくさんのお仕事をやりました。二人でパリの(カフェ・レ・)ドゥ・マゴで落ち合って「こういうコンサートがやりたい」などいろんな話をし、気がついたら午前3時を回っていて周りに誰もいなくなっていたこともありました。すべてとても良い思い出です。天児さんのような方と巡り会えることはもうないのではないでしょうか。今回の「エンプティー・トランス」は、天児さん、イヴォさんのことを感じながら演奏します」
――ピアノソロ初演「神のパッサカリア」も楽しみな1曲です。
「オーケストラで演奏するなどしてきましたが、それをそっくりそのままやっては素敵なピアノソロにすることはできません。音楽の本質は外さず、お客様に「ピアノソロで聴いて良かった」と感じてもらえる仕上がりになっています。この曲は「映像の世紀 バタフライエフェクト」(NHK)でも必ずと言っても良いほど使用されていますし、それだけ強いメッセージがあるのだと感じます」
――ちなみに「神のパッサカリア」については、「憧れ」という言葉を用いて同曲制作時についてお話されていらっしゃいましたね。
「想像しているものがあっても、具体的な“何か”がないときは、まず空気感、響きをどうにかして見つけたい。それを探そうとしたときの心の動きやエネルギーの使い方について、僕にとっては「憧れ」がとても良い言葉なんです。そういうメロディやタッチがどこかにあるはずで、これだと思うものを見つけるまでが大変です。一方でふっと出てくる場合もあります。今回の演奏曲でもある「博士の愛した数式」はその一つ。映画のために書き下ろした曲ですが、台本を読み終わって、涙が出てきて、そしてそのままピアノに座って曲が出来上がりました。もちろんそれを一曲にまとめるのはまた別ですが、しかしそういう幸運は稀にあります」

――お話にあがった「博士の愛した数式〜愛のテーマ〜」も人気の高い楽曲です。同曲が使用された2006年公開の映画も大ヒットしました。
「僕も大好きな映画です。幸せと優しさが感じられる音楽が完成し、それが映画の中の映像と共鳴しました。映画公開は20年前ですが、大切な曲は「何年前の曲」という感覚はありません。「パリは燃えているか」も30年前に出来た曲ですが、僕の中ではずっと新鮮に音楽の時を刻んでくれていますから」
――加古さんの楽曲はいずれも普遍性があり、その時々のトレンドに流されない強度を感じます。
「それは大変嬉しいお言葉です。実際に僕自身はそのような向かい方で曲を作っています。「今、こういう手法が流行っているから曲作りに取り入れる」は、あまり興味がありません。そういうことではなく、たとえば2025年に公開された映画『雪の花』のために制作した楽曲も、作品に描かれている時代の重みや雰囲気、主人公の佇まいを大切なキーワードとして感じ取って制作しましたから」
――演奏をし続けることも大事な気がします。そうすることで常に加古さん自身が楽曲から新しい発見をしているのではないでしょうか。
「たとえばある曲をソロでやったことがあるとして、それから長い間、オーケストラやアンサンブルでの演奏を経て、また何年後かにソロでやると、まったく異なる印象になっています。いろんなものが僕の中に蓄えられて、楽曲の印象が変化するんです。あらためてソロで演奏して「やっぱりこの曲はいいな」と感じることもたくさんあります」

――特に今回の『加古隆 ピアノソロ コンサート2026』は「ソロの真髄」と謳っていらっしゃるコンサートですから、お客様も発見が多いのではないでしょうか。
「これまでフリージャズなどいろんな演奏をしてきました。しかし、ピアノソロの存在を自分の中から消し去ることはできません。僕の世界の本質を語る上でなくすことができないものです。「ピアノソロには何かがある」と考えています。また、ソロのツアーは2019年以来ですが、以前まではどんなコンサートもソロで弾いていましたから、それを考えると「随分と期間が空いたな」と思います。それでも僕の心の中には常にピアノソロの存在はありました」
――大阪公演を楽しみにしていらっしゃるお客様も多いはずです。
「人間は感動したとき、人に優しくなれるはず。それは自然にそうなるものだと僕は思います。そして感動が生まれた瞬間、お客様の目の光が変わります。今回のコンサートツアーでもそのような感動をしていただけるよう、精進を重ね、最後の一音まできちんと弾き切ります」


加古隆 ピアノソロ・コンサート2026
■演奏予定曲目
◎パリは燃えているか
◎ジブラルタルの風
◎ポエジー
◎黄昏のワルツ
◎秋を告げる使者
◎いにしえの響き
◎グラン・ボヤージュ
◎風のリフレイン
◎ザ・サード・ワールド
◎睡蓮のアトリエ
◎ノスタルジックなワルツ
◎博士の愛した数式~愛のテーマ
◎白梅抄
◎神のパッサカリア(ピアノソロバージョン・初演)
◎エンプティ―・トランス(Ushio AMAGATSUに捧ぐ)
※演奏曲目は変更になる場合がございます。
▶▶オフィシャルサイト
|日時|2026/04/18(土) 15:00
|会場|住友生命いずみホール
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