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十朱幸代がお雪として語る土方歳三との恋。5年ぶりの「燃えよ剣」、ファイナルステージ

2025/6/9

インタビュー

『燃えよ剣』 ~土方歳三に愛された女、お雪~

十朱幸代。16歳でデビューし、映画やテレビ、舞台に活躍し、66年のキャリアを持つ日本の大女優の1人。多彩な女性像を演じる実力派でありつつも、おきゃんで可愛らしいイメージが多くの人を魅了して来た。82歳の今も、可愛らしさと共に、往年の大女優が発する強く華やかなオーラをまとう。そんな彼女が、2013年から取り組んできたのが、朗読劇の「燃えよ剣~土方歳三に愛された女、お雪~」。司馬遼太郎の傑作を、新選組副長・土方歳三が愛したお雪の視点で描く作品で、十朱の語りと宮川彬良の音楽で綴る舞台だ。新潟りゅーとぴあ発の「物語の女たちシリーズ」の作品として笹部博司が企画、台本・演出を担当し、2021年まで全国で45公演を上演。いったんはコロナ禍で幕を閉じたが、十朱の希望で今回再演、ファイナルステージとなる。大阪は森ノ宮ピロティホールで7月20日に上演、その後、北海道と東京で巡演する。十朱が笹部と来阪し、思いを語った。

――最初に笹部さんからお話があった時のお気持ちを教えてください。

「司馬遼太郎の「燃えよ剣」といえば新選組の男の話で、なぜ私なの?という疑問が浮かびまして。私は小さい時から、お芝居や映画に出てくる新選組って、その羽織や派手な被り物があまり好きじゃなかったんです。笹部さんから、土方歳三を主体とした新選組そのものをドラマにするのではなく、彼が出会ったお雪という女とのプライベートな部分のドラマだとうかがって。台本を読ませていただいて、あ、もしかしたら私にもできるかなと。初演の時は本当に手探りでした。でも、この作品をやらせていただいて、良かったと思っています。自分のやってきた作品の中で、すごく印象に残る作品になりました。」

――初めての朗読劇、お芝居とは違いましたか?

「最初、朗読はどこまで演じるかという境目が一番難しくて、探り探りでした。やりすぎるとお芝居みたいになるし。シチュエーションのト書きも読んで、ヒロインを演じて、相手役を演じて。どこまで入り込めばいいのか、どこまで冷静にいるのか、その線引きがわからなくて、すごくとまどって朗読劇をやらせていただいたんです。伝えるということに重きを置くと、やはり演じてしまうので。でも、本を離して作ったり、ちょっとした動きも入れたりの朗読という形にしていただいたので、回を重ねるごとにすごくリラックスしてできるようになりました。」

――土方とお雪だけではなく、脇役もト書きも。男性を演じるのは初めてですよね?

「主に2人のドラマですが、近藤勇や沖田総司も、ほかに脇役も細かくいっぱい。私の声はどちらかと言えば高音だし、男性は難しいけれどその気持ちになればできるかなと、だんだん形ができてきて。男と女の短い会話のやりとりが一番難しかったですね。」

――土方歳三とお雪への印象は?

「土方は冷静に言えば非情な怖い人、残忍な男。なのにプライベートな面は非常に普通の男で、可愛らしかったりするところが愛すべき人になっています。お雪は原作ではほんの少しだけ出てくる役で、年齢ははっきり設定されていないですけれど、土方と同年配か、あるいは少し年上かなと。しっかりと1人で生きていける、非常に自立している大人の女性。そういう2人の出会いなんですよね。」

――宮川彬良さんが共演者のように演奏されているとか。音楽の印象は? 

「宮川さんとは、この作品で初めてお会いしたのですけれど、ほんとにいい音色で、ドラマにすうっと入ってきてくださって。出演者は宮川さんと私だけなので、宮川さんの音と会話しているような気持になる素晴らしいピアノです。時には雪子の心情を吐露するようなシーンで私の心を膨らませてくれるようなこともあり、時にはすごく冷静な音が出てきたり、それが私の芝居を盛り上げてくださるので、本当に助かっていると感じています。」

――お客様の反応はいかがでしたか?

「舞台上ではまったくわからないのですが、ご覧いただいて感想をいただくと、みんなとても反応がよくて、それも、やっているうちに反応がどんどんよくなってきたような気がします。知り合いが観に来て感動してくださって「あれからお雪はどうやって生きていくんでしょう?」って真剣な目で聞かれて。「よかったよ」とか「すごかったね」という感想は聞いても、こんな感想はあまり聞いたことがなくて。そこまで入り込んで深く観てくださったんだと思ったら、すごくうれしかった。宮川さんのピアノもありますけど、演じる醍醐味と言うんでしょうか「わ、よかった。やった!」と思いました。」

――長く、数多くの公演を重ねてこられました。

「この作品は台本だけ読んでも本当におもしろく、何回読んでもおもしろい。ドラマチックな人と人とのやりとりが飽きないんでしょうね、毎回新鮮にやれました。私は飽きっぽいし、あまり再演も好きじゃないのに、年数と回数を聞いて、そんなにやったんだ、重ねたなぁと。観ていただいたら絶対よかったと思っていただけると思います、このドラマは。」

――再演へのいきさつを教えてください。

「コロナで舞台の仕事も全部なくなり、5年ぐらい舞台も細かい仕事もすべてやらなかったんです。そしたら友達から、SNSで「死んだんじゃないのか」とか「車椅子になってるんじゃないか」とか言われてるよって。若い時からすごく仕事していたので、こんな生活も悪くないなと思う日常でしたから、このままフェイドアウトでもいいかなと思っていたんですけど。世の中は寿命が延びて、私よりさらにご高齢の方でもすごく働いてらっしゃったり、新聞やテレビでいろいろな分野の方が活躍なさってるのを見て、これじゃいけないんじゃないか、と。もう一度私ができることって舞台しかない、そうなると『燃えよ剣』よねって。で、笹部さんに「もう一回できますでしょうか?」って聞いたんです。それで今回、こういう形に。ただ5年も空いたので、ちょっとドキドキ、緊張しています。」

――朗読劇だと台本が手元にあるから、覚えていなくても大丈夫なのでは?

「いえ、覚えるんです、けっこう。最後のト書きなんて7ページもあるんですよ。それを笹部さんは「本を離してしゃべってください」って。「ウソでしょ!ト書きを立ってしゃべる!?」と思った。だから、覚えないと。(※毎回、観客を泣かせる最後のシーン)」

――今回の公演が、2013年からほぼ毎年上演してきた『燃えよ剣』のファイナルだと。

「はい、『燃えよ剣』は今回で打ち止めです。恋の話だから、大人の恋の話だけれどね。年齢的に観てくださる方に違和感を与えてはいけないし、恋愛ドラマはたくさんやらせていただいたので、これが最後になります。「じゃあ、これで引退?」と聞かれましたが、辞めます、とは言いません。仕事が来た時の備えとして、健康と精神の状態をよくすることを心がけていた方がいいかなと思って。だから何かあれば、お声かけてください(笑)。」

――最後となる今回の公演への意気込みをお願いします。

「集大成というわけでもないけれど、総仕上げのつもりでやらせていただきます。私はこの作品に出会えて本当にラッキーでした。大事にしてきた作品だから、慈しんで、すべてを出し切って、でも頑張りすぎないでやりたいと思っています。そして、できれば若い方にも観ていただきたいなと。こういう時代、こういう世界もあるのよって。今こんなドラマ、あまりないと思うんですよ。純愛ですよね、大人の純愛。感想が聞きたいです。」

取材・文/高橋晴代

 

『燃えよ剣』
~土方歳三に愛された女、お雪~


■出演
十朱幸代
■台本・演出
笹部博司
■音楽・ピアノ演奏
宮川彬良

▶▶オフィシャルサイト




大阪公演

|日時|2025/07/20(日) 13:00
|会場|森ノ宮ピロティホール
▶▶公演詳細

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