2025/6/15
インタビュー
――喜劇王・エノケン、榎本健一役にオファーされた時のお気持ちを教えてください。
「僕が子供の頃から見ていた榎本健一の声は(声色をまねて)「ほほいのほ~いともう一杯、渡辺のジュースの素です、もう一杯」って、コマーシャルで流れていたんですよ。『エノケンの~』と名前が付いた映画もたくさんやっていた。子供の頃から知ってはいましたが、それを自分がやる…。僕は今、ミュージカル、シェイクスピア、あと現代劇で、エノケンのような超喜劇はまだやったことはないんですよね。でも舞台では、お客さんが笑ってくれるようなことはしています。榎本さんの自伝を読むと「喜劇は笑わそうと思っちゃだめだ、一生懸命生きていることが、はたから見ているとおかしい」と。だからドタバタのエノケンをやるのではなく、喜劇とは何ぞやという深いところでの笑いを、僕自身がこの『エノケン』をやる中で何か学べたらいいなと思っています。日本人の誰もが知っている有名人をやるということで、とてもやりがいのある役と出会ったなぁ、これもやっぱり、ここまで頑張って来たからこそ、こういう役と出会ったのかなぁと、日頃の私の努力をほめてやりたいなと思っております(笑)」
――エノケンには興味をお持ちだったのでしょうか?
「チャップリンとエノケンには昔から興味がありました。でも、エノケンのおかしさを生きるのではなく、榎本健一を生きたいと。だから、エノケンの芸を生み出すための彼の生きざまがドラマになるんじゃないかと興味がわきました。あと、息子を若くして亡くしたり、足を切断せざるを得なくなったり。すべてを味わった人だなという感じがしているので、それを自分がどこまで生きることができるかは、僕自身への挑戦です」
――又吉直樹さんの新作戯曲はいかがですか?
「まだプロットだけでセリフになるとどうなるか、非常に楽しみに待っている状態です。又吉さんの小説はすごく細かくて、人間の毛細血管まで流れているような役を本の中に感じます。俳優は細かくてわからない芝居の方が探求しようと思うんですよ。だから、又吉さんの描くエノケンという血液の中にどこまで僕が入っていけるか、とても楽しみです」
――又吉さんの戯曲に期待されることは?
「今まで堺正章さんや木梨憲武さんがエノケンの生涯を演じていたけど、舞台でやるのは僕が初めて。それも又吉さんが喜劇王のエノケンを市村に当てて書くという。だからエノケンを取り巻くドラマも、今までにないようなものができたらいいなと。笑いがあり、悲しみがあり、そして、それでも生きていくという強さがある、みたいなね。今はあぁいうこと言ったらパワハラになっちゃうとか、でもこの時代は当たり前ですから。そういうところにも触れて、今、忘れているものも呼び起こせたらいいかなって。だってね、いい意味でボコボコにされて育ってきていますから、僕ら。ボコボコっていうのは殴られるのじゃなくて、精神的にね。浅利慶太(劇団四季)さんと蜷川(幸雄)さんに育てられた人間はどこでも生きていけますよ(笑)」
――市村さんと榎本さんの共通点はありますか?
「榎本さんとは実際にお会いしたことはないですが、自伝などを読んだ限りでは終始芝居のことを考えていた人という気がするんですね。僕が西村晃さんの付き人の頃、みんなとにかく1日中芝居の話をしていたので、舞台人、演劇人というのはいつも芝居の話をしているものなんだろうなぁと。僕も台本を手放さないで四六時中作品のことを考えているタイプなので、そういうパッションはエノケンと似ているかなという感じはしていますね」
――榎本健一さんをどのように演じたいと考えていらっしゃいますか?
「僕はもともと、2~3時間で他人の激しい人生を舞台の上で生きられるというところが好きで、この業界に入ってきたんです。今回は榎本健一の激しい人生を2~3時間で又吉さんが本にして、シライケイタさんが演出して、我々はどう生きるかという、ある種生きるすさまじさみたいなものが出せたらいいなと思っています。喜劇王を演じますが、喜劇王の中の人間、その人生をいろいろな角度でお見せできたら」
――今回、エノケンの2人の奥様を、松雪泰子さんが1人2役で演じられます。
「エノケンの最初の奥様が昭和初期の女優さんで、2番目の奥様は芸者さんあがり。それを松雪さんがやるのはピッタリですよね。自伝を読む限りでは、最後にエノケンを見守っていく2番目の奥様の方が精神的なつながりが強かったんじゃないかな。ちょっとゾクゾクっとしてくる役どころですけども、そういう色気のある部分は松雪さんに全部お願いして(笑)」
――人間ドラマに加え、エノケンが歌った歌も登場するのでしょうか?
「音楽劇なので、彼のどの歌を使うかはドラマの流れの中で決まっていくと思います。作品の中で曲を作ったり、エノケンが歌っていなかったナンバーも入れようか、という話も聞いています。せっかく歌える俳優が出ているんだから、歌った方がいいんじゃないかと(笑)。エノケン流の歌い方や声だと声がつぶれてしまうと思うので、僕の地声でね」
――50年以上のキャリアを経て、また新たな挑戦へ。意気込みを教えてください。
「76歳になって新しい役と出会う。挑戦のしがいがありますね。実際の山は足腰を考えると登りたくないけど、こういう舞台の上での山はやっぱり登りたいですね。まだまだ登らなくちゃならない山はありますよ。久々に大きな山だと感じています」
――公演を楽しみにしているお客様に向けて、メッセージをお願いします。
「僕も俳優生活53年を迎えて、いよいよ喜劇王・榎本健一を演ずる機会をいただきました。歌って踊って芝居をして、とても激しい人生を送った榎本健一を皆様にお目にかけたいと思っております。人生が詰まっている、終わった後は席を立てなかったぐらいのものをお見せする覚悟でおりますので、ぜひご期待ください!」
TEXT:高橋晴代
音楽劇『エノケン』
■作
又吉直樹
■演出
シライケイタ
■出演
市村正親
松雪泰子
本田響矢
小松利昌
斉藤 淳
三上市朗
豊原功補
▶▶オフィシャルサイト
|日時|2025/11/01(土)~2025/11/9(日)≪全10回≫
|会場|COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
▶▶公演詳細