2025/2/23
インタビュー
――2004年に初共演された映画『世界の中心で、愛をさけぶ』は、お二人のキャリアのなかでも大きな位置を占めているのでしょうか。
長澤「そうですね、あの作品でたくさんの方に顔を知っていただいたということもありますし、そこからお仕事も広がりました」
森山「作品がいわゆる社会現象のようになり、多くの人が観てくれる。そういった作品に関わったという縁は大きいですよね。僕にとっては初めての映画だったのですが、今振り返っても、今まで関わらせていただいた映画のなかで、もっとも良質な現場のひとつだったと思います」
長澤(大きくうなずく)
森山「それは行定(勲)監督や、撮影監督、照明技師など、すべての方たちのエネルギーや有りようから、そう感じています。初めての映画が『世界の中心で、愛をさけぶ』で良かったな、と今も思います」
――この映画でお二人は、切ない運命をたどる高校生の恋人役を演じられました。印象に残っている当時のエピソードがあれば教えてください。
長澤「テストか本番か忘れたのですが、録音したテープのなかで告白されるシーンの段取りが、とてもオシャレだったというか、ドキドキして不思議な感覚になったのを覚えています。私の新鮮な反応を撮るためだったのか、サプライズのような演出ですごく驚きました。そして、すごいドヤ顔で見ていた森山さんの顔も覚えています!」
森山「(笑)」
長澤「芝居は「こうじゃないといけない」とか決まりは絶対なくて、自由でいいと思うんですね。お二人にそういうサプライズを仕掛けられて、いい経験をしたな、という思い出があります」
森山「僕はお墓に忍び込むシーンで、撮影の待ち時間が長く夜が更け、すごい睡魔におそわれて椅子に座りながらガクンとバランスを崩したら、長澤さんが初めて撮影以外の場で笑ったんです。「やっと笑ってくれた!」と。キャラクター的なこともあるだろうけど、長澤さんはミステリアスな印象だったので……」
長澤「(笑)」
――その後、映画『モテキ』を経て、本作が約14年ぶりの本格的なご共演となります。
長澤「初めて森山さんにお会いしたとき、私は16歳ぐらいだったのですが、当時から森山さんは舞台をやられていて、現場でも行定監督と舞台のお話をよくされていたんです。それを思い出し、長年舞台でご自分の道を耕している森山さんと、こうして同じ舞台に立てるということがうれしいし、そういう自分になったということもうれしいです。森山さんとの共演が、自分の成長過程を感じるバロメーターみたいになっているので、とても感慨深いです」
森山「大事な作品のタイミングでお会いしているという特別感があります。共演したどちらの映画も、僕の役柄にとっての長澤まさみさんは、とても象徴的な女性として存在しているんですよね。
映画の現場と舞台の現場って、コミュニケーションの方法やあり方も全然違うと思っていて。映画は役について準備や打ち合わせをしっかりやらないで入っていく〝居合い〟のような緊張感やおもしろさがあるけど、舞台はコミュニケーションを積み重ねながら作品が生まれていく。今回、演技論を闘わせるというようなことではなく、お互いを理解し、キャラクターを理解するためのコミュニケーションをしていけたら。舞台は40日~45日、ずっと稽古場で一緒にいるから」
長澤「そうですね。役の関係性を深め、物語の二人に見えるような芝居への向き合い方をしていきたいです」
――お互いの俳優としての魅力についてもお聞かせください。
長澤「初めて行定監督に森山さんを紹介されたとき、「ダンサーの――」と言われ、「ダンサーなんだ!」というところから入っていて」
森山「マジか!?」
長澤「(笑)。それがすごく印象に残ってます。森山さんがそれから貫いてこられた道は、ほかの人とは違うものだと思うんです。私、今回の台本を読んでいても、森山さんの役の〝心の声〟みたいな台詞が始まるシーンで、「あ、踊るのかな!?」と……」
森山「タイトルからも、気になるよね(笑)」
長澤「もちろん踊るのかどうか全然わからないけれど、それを期待しちゃうし、未來くんが出てくると想像するだけでウワッ!と盛り上がる感じがする。そういう存在であるのがすごいなーと思います。初めて会ったときから不思議な人で、「何者なんだろう」と思ってたけど、現れるだけで、存在するだけで、人に伝わるものがある、特別な空気を感じます」
森山「僕はさっき、「長澤さんのキャラクターが象徴的」と言いましたけど、それは僕だけではなく皆さんにとってもきっと同じで、ずっと象徴的な存在として「君臨?」し――」
長澤「コワイ!(笑)」
森山「長年そういう存在であり続けている覚悟を感じます。僕は『世界の中心で――』が初めての映画だったから、待ち時間をどう過ごせばいいのかなど、落ち着かないところがあったけど、そのときから長澤さんは現場スタッフたちとの関わり合い方も芯が通っていて、信頼できる人です」
――『おどる夫婦』の台本は(1月の取材時)未完成だそうですが、現状の台本の一部を読まれてのご感想は?
森山「まだ想像がつかないですが、結構ナマっぽいやりとりがあり、密なコミュニケーションを築いていく作品のようで楽しみです」
長澤「わかります。日常的に男女の間で交わされるような会話から始まるのですが、そういう親密な関係性が森山さんとの間にはないので……」
森山「(笑)」
長澤「だからこそ、森山さんとこういう作品をつくるのが、ちょっといいなと思ったりします。若いときの恋する気持ちなどからは生まれないような会話、深い関係性じゃないと発展しないような日常的な会話が積み重なっていく。こういう会話劇はあまり経験がなくて、映画っぽいようにも感じ、これが舞台上でどういうふうにお客様に伝わるのだろう、と思って」
森山「(演者が)大きな声を出したい感じじゃないよね」
長澤「そうなんです!」
――ご自身の役柄についても、お話しいただける範囲で伺えますか。
長澤「今のところ、なりゆきで生きている、長いものに巻かれている人という感じがします。ヒロヒコさん(森山)とは出会いから友達という感じがあるのだろうし、もちろん気持ちもあるのだろうけど、自分で人生を決めているというよりは、フワ~っと流れに乗って生きてしまっている人なのかな。強い意志があるのかないのか、まだ見えなくて。でも本当は強い人なのか、これから本質的な部分が見えてくるのを期待しています」
森山「まだ全然わからないよね。現状の台本だと、夫婦としての生活はそんなに描かれているわけではないし。これからどういう風に関係性が見えてくるのかな、というところです」
――「不器用な夫婦の10年の記録」という概要を聞かれたときはいかがでしたか。
長澤「すごくおもしろいなと思いました。10年という長い年月、どういうふうに時間を経過させていくのか、というところが、観ている方にもおもしろく楽しんでいただけるのでは、と興味深いです」
森山「夫婦に限らず誰に対しても、お互いについて諦めて受け入れる、そういう時間の積み重ねがあると思うのですが、この夫婦はお互いを理解することを諦めていないやり取りではあるな、と思います。それを断片的に、あるいはそうではない方法で見せていくのか。どのように関係性や積み重ねをにおわせるのか。そういうことがポイントになってくるようにも感じます」
――ちなみにご自身の「不器用だな」と感じるところは?
長澤「コミュニケーションが不器用かもしれません。以前は相手に嫌な思いをさせるレベルだった気がします(苦笑)。今はだいぶ良くなっているはずなんですが……」
森山「だいぶ良くなりましたよ(笑)。16歳のときはシャイで、(オフでは)一切喋らなかった」
長澤「(笑)。今はもっと深く人と関わってみたいという感覚があります」
森山「僕は落ち着きがないところかな。そこがまあ、自分の今の歩き方にもつながっているのかもしれないですが、一長一短ですね。ひとつどころに留まっているのが、基本的に苦手な人なので」
長澤「うん、そんなイメージですね(笑)」
――本作は蓬莱竜太さんの書き下ろしです。長澤さんは、2020年に蓬莱さん演出の一人芝居『ガールズ&ボーイズ -Girls & Boys-』に出演予定だったのが、コロナ禍で全公演中止となりましたね。
長澤「はい。ですから蓬莱さんの作品は今回が初めての参加になります。以前はプレ稽古みたいなのをして、蓬莱さんの演出を少しだけ受けたのですが、一緒に作品を作ろうとしてくださるのを感じました。押しつけて役を掘り出そうとしないというか、自分で気づいていく方法を、言葉にはしないけど感覚的に見極めてくださる感じがして。そのときの空気感は、この作品の中にも入っているような気がしています。キャストの皆さんも、寄り添ってくれそうな座組だから安心していますし、今までにやってきた舞台の稽古場ではない自分が想像できます」
森山「僕は蓬莱さんの脚本のドラマに出たことはあっても、直接ご一緒したことはないんです。これまで劇団モダンスイマーズの作品を何回か観ましたが、役者たちがお互いの間をはかりあいながらやり取りを重ねていく、あの空気感が好きです。2023年には劇団とは違うソロプロジェクト「アンカル」の舞台も拝見し、モダンスイマーズの「男と男が一対一で対峙する」というような作品ではなく、もっといろいろな人や空間が動的に動き、時間も行ったり来たりして、これまでと違う方法を模索されている舞台でした。今回どういう形で蓬莱さんの世界観が出てくるのか、すごく楽しみです」
取材・文:小野寺亜紀
Bunkamura Production2025
『おどる夫婦』
■作・演出
蓬莱竜太
■出演
長澤まさみ、森山未來、松島聡、皆川猿時、小野花梨、内田慈、岩瀬亮、内田紳一郎、伊藤蘭
▶▶オフィシャルサイト
《主催者先行受付中!》
|日時|2025/05/10(土)~2025/05/19(月)≪全12回≫
|会場|森ノ宮ピロティホール
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