2024/12/5
インタビュー
――「Everybody hates MIME」とはインパクトのあるタイトルですね。
「たまたま目にしたアメリカの有名なコメディー番組で、俳優のロビン・ウィリアムズが顔を白く塗り、全身黒タイツの衣装でパントマイムをするコントがあったんです。彼は大好きだし、コメディアンとしてもすごく面白い人でリスペクトしていますが、彼が番組でやったつまらないものがパントマイムというんだったら、僕も『Everybody hates MIME』のうちの一人です」
――番組では、ロビン・ウィリアムズが話さず、顔を大げさに動かしたり、パントマイム独特の動きを茶化したりするコントで笑いを取っていますね。それが、度を越して、キャストから「Everybody hates MIME」と言われ、殺されてしまうというオチですよね。
「1984年に放映されたものですが、もう40年、世の中的にはあれをパントマイムと思っている節がある。ほとんどの人は、『パントマイムは好きですか、嫌いですか』と聞かれたら、眼中にはなくてどうでもいいかなという感覚だと思いますね。僕はこれを生業にしているから、パントマイムの価値を押し上げたいと思っているんです。パントマイムはすごいんだよ、面白いよ、誰もが知る〝壁〟みたいに、ないものをあるように見せるのだけがパントマイムではないよと伝えたい。意識が変わる人が増えてくれればいいなと思っています」
――どうして、そういうイメージから脱却できないと思われますか。
「やはりマルセル・マルソーさんのイメージが強烈です。何で顔を白塗りにするかというと、見る人にキャラクターを決めてもらうために、固定させないようにしている。全身タイツもお客さんに衣装を固定させないため。言葉を使わないのも、しゃべって限定させるのではなく、何をイメージするかを自由に広げてもらうためです。そこを分からないでやっているパントマイム役者が多いのかもしれないですね」
――なるほど。
「壁を目の前にして、壁があるように見せるのは、パントマイムもジェスチャーも同じ。壁を見て演者がどう思ったかを伝えるのがパントマイムなんですね。演者がいろんな気持ちを動かすことで、観客の心も動き、笑いや感動が生まれる。パントマイム役者がそこを勘違いして、ただイリュージョンがあるだけのように演じたら、パントマイムの明日はなくなっちゃうと僕は思っています」
――今回のステージは、どのような構成になりますか。
「休憩を挟んで約2時間を予定しています。前半はショートスケッチのほか、ストーリーものとパフォーマンス。後半は長編です。内容は言わない(笑)。言わない理由は、こうですよと言うと、“こうですよ”になっちゃうから。唯一お客様に与えられるヒントはタイトルだけです。「パントマイムは何でもできる」と言われるんですが、うぐいすパンとアンパンの違いは表現できないですから(笑)。うぐいすパンのことを伝えたいんだったら、タイトルをそうすればヒントになるんですよ」
――シネマティック・コメディーとは、シネマからストーリーの着想を得たということではないのですか。
「そうではなく、シネマみたいなストーリーがあるコメディーですよという意味合いです。ストーリーがあるのは、僕はパントマイムにおいては当たり前だと思っているんですが、世の中的にはまだまだ浸透していないところがありますよね」
――見るまで何か分からないのはこちらもワクワクしますね。物語はすでに考えられているのでしょうか。
「もちろん。絶賛、はげかかるくらいに考案中です(笑)。
――いつもアイデアはどこから来るのでしょうか。
「33年間やっているからいつもアンテナを張っているんです。こうやって今、話していることも引き出しに入れておいて(笑)、「よし、作るぞ!」と出していく。あとはテレビや映画を見たりして、映画でマイム的な要素があったら、そこを発展させたら面白いとアイデアを溜めておくんです。舞台作品は動きながら作るという人が多いと思うんですが、動きながら作ると途中で止まっちゃうんですよね。だから最初から最後までストーリーを考えて、引っかかるところがあったら、それを面白くしてつながるようにする。つながったら体を使って動き出す。動き出して『できないじゃん』となる場合もあるし、もっと面白くなる場合もあるんです」
――結構、孤独な作業ですよね。
「そうですね。自宅で作ると誘惑が多いので、ファミリーレストランによく通っています(笑)。「アイデアは天から降ってくる」とよく聞きますが、そんなことはない(笑)。ただ、正解かどうかは分からないけど、自分の持っているアイデアは絶対、どこかにあるんですよ。そこへ到達できるかどうかという作業をずっとしているんですよね。近づこうとしなかったら絶対に近づけない。ただ、頭を抱えているだけだったら、絶対、降ってくることはない。正解に届くまで頑張って考えて、何とか構築していく」
――アイデアがわいてこないかもしれないではなく、アイデアに届くという絶対的な自信があるのですね。
「正解かどうかも分からないし、正解じゃなかったとしても、トライ&エラーで、ほかに正解があるんだということは分かるんですよ。失敗は発明の母じゃないけど、作る人はやっていると思います。それをやらないと新しいものにはならない」
――フィジカルな創作はどこでされるのですか。
「稽古場を借ります」
――ファミレスはそこで終わりなのですね(笑)。
「ただ、チェックはファミレスで(笑)。稽古場の映像を撮っておいて、ファミレスに戻ります。人間の集中力ってそんなに続かないけど、やらざるをえないから、やりますけど、何も生まれないというか、届かない時もあったりします」
――日々、その繰り返しですね。作家が小説を書く過程のようです。
「たぶん、同じじゃないかな。昔、お客さんに『パントマイムって予定調和だよね』と言われたことがあるんです。確かに言葉は使わないから、モラルや世の中の常識から外れると、分かりづらくなってしまうことがある。そこから外れないことで、喜んでもらうというのはあると思うんですよ。でも予定調和にならないように、抵抗はしています。昔からチャレンジしているんですが、難しい。体が一つしかないので、予定調和にならないようにお客さんにサプライズができたらいいなと思っています」
――舞台で起こるアクシデントも力に変えられるのがパントマイムの良さでもありますよね。
「そもそも舞台というのは、嘘をついちゃダメなわけですよ。パントマイムはもちろん嘘ですよ。嘘ではあるけど、水を飲んで、飲んだふりだと、見ている人はふりにしか見えない。僕は99、999%リアルに近いように飲まなければいけない。
(ここで、水を飲むふりをし、美味しそうに水を飲む音が聞こえ、咽喉がリアルに動く)。こうやって、飲んで初めてお客さんに伝わる。笑いは、子どもと動物とアクシデントにはかなわないと言われているんです。それには嘘がないから。アドリブには嘘がないから、ライブでは重要であったりするんです」
――が~まるちょばの公演の客席には子どもも多く、皆、歓声をあげたりして、そこからアドリブが生まれ、笑いに変わるのを何回も見ました。
「マイムのように子どもから大人、おじいちゃんおばあちゃんまで見て楽しめるエンターテインメントは少ないと思うんです。それだけでも価値がある、すごいものだと思います。それなのに世の中では『Everybody hates MIME』という言葉が発せられるんです」
――でも、見た人はそうはならないと思います。最後にメッセージをお願いします。
「『皆がパントマイムは大嫌い』という言葉は事実なのか、そこにあなたは当てはまるのかどうか、ぜひ見に来てください! パントマイムを見たことがない人は、言葉をしゃべらず、2時間を満喫できるのはどういうことなんだろうと直に感じ取ってください。お見逃しなく!」
取材・文:米満ゆう子
が~まるちょば
シネマティック・コメディー JAPAN TOUR 2025
~Everybody hates MIME~
▶▶特設サイト
|日時|2025/01/26(日) 16:00
|会場|アクリエひめじ 中ホール
▶▶公演詳細
|日時|2025/03/08(土) 16:00
2025/03/09(日) 12:00
|会場|COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
▶▶公演詳細