2024/9/29
インタビュー
――この夏のなとりさんは、どんな日々を過ごされていましたか?
「忙しかったですね。夏フェスも出演したし、『メロドラマ』や『糸電話』の件もあって色んなメディアに出させていただいたり。実態での稼働が増えたので、充実した日々を送っておりました」
――初出演の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』ではHILLSIDE STAGEのトリを任され、imaseさんをゲストに迎えて一緒に歌われたそうですね。
「imaseくんは普段からすごく仲が良くて。活動を始めてからずっと切磋琢磨してきた人(ふたりはほぼ同時期にTikTokでの投稿をスタートした間柄)なので、ステージの上で一緒に歌えて感慨深かったですね」
――初フェスは5月の『VIVA LA ROCK 2024』だったんですよね。夏フェスも含め、大勢の人たちの前で歌う機会はどうでしたか?
「緊張しました。やっぱりワンマンとは別ものと考えるようになりましたね。全員がなとりを知っているわけではないので、そのうえで納得させるようなパフォーマンスをしていかないとなって。すごく楽しかったですけど、課題も見えました。実はロッキンは個人的な反省点も多々あって。imaseくんに引っぱってもらった感じだったんです。その後出演した『SUMMER SONIC 2024』は、煽りやMCも含め本当に自分のやりたい形でできました。自分の理想のパフォーマンスの方向性が見えたイベントでしたね」
――2月に行われた初ライブ『natori SECRET SHOW』(@Zepp Shinjuku(TOKYO))から半年、ライブの本数も徐々に増えてきましたが、ライブをどんなふうに捉えておられますか?
「すごく楽しいですね、最近は活動の中で1番楽しみにしているものかもしれないです。自分の作った曲を本当に聴いてもらえてるんだという実感が湧いたので。何にも代えがたい感覚がありますね」
――シングルのお話もお聞かせください。imaseさんとのコラボ曲『メロドラマ』は、imaseさんのお家でリラックスして作られたそうですね。
「はい。トラックとサビを自分が作って、他のバースをふたりで分け合う作業をimaseくんの家でやったんですけど、やっぱりどちらも良い感覚を持っているというか、お互いの作る音楽が好きなんだろうなという感じはすごくあって。どのメロディーを出しても“全部良いじゃん”みたいな。だからセレクト作業が大変でした。でも楽しかったし、初の試みではありましたが、共作を好きになれた瞬間でした」
――お互いのエッセンスを出すために意識したことはありました?
「意外となくて。多分バースごとに無意識で各々の個性が出まくってるんですよ。どっちがどのパートを作ったというのが、すごくわかりやすい曲になりました。ある意味ぶつかり合ってるところがいいのかな。でも声の成分的には意外と馴染みが良くて、しっかりコラボ曲になったなという印象です」
――どのぐらいで完成したんですか?
「トラックができてからはほぼ一瞬でしたね。各々で歌詞やメロディーを微調整する時間もあったんですけど本当に早くて、1〜2週間ぐらいでできました。あくまで二人の関係性ありきで、楽しくできたのが1番良かったと思います」
――日産90周年記念ムービー「NISSAN LOVE STORY」の主題歌でもありますが、テーマが先にあって曲を作り始めたんですか?
「そうですね。日産の90周年を振り返るムービーで、時代ごとに人と車の関係も変わっていくというテーマだったんですけど、imaseくんとは“どの時代の車に流れても似合う曲にしようね”という話をしてました」
――“ドライブ”という点で意識したことはありますか?
「なんだろう。でもさっき言ったように、どの車で流れていても違和感のない、かつグルーヴがあるナンバー。お互い夜が好きなので、メロや歌い方、色んな面において、夜のドライブに合うよう意識したと思います」
――先ほどおふたりの声質が馴染んだというお話がありましたが、ハモリの部分はどのようにレコーディングされたんですか?
「自分のハモラインもありましたけど、アレンジャーのShin Sakiuraさんが考えてくれたハモラインをふたりで歌う感じでしたね。歌い方は特に意識せず、フラットに歌いました」
――ふたりの声が重なり合う瞬間はいかがでした?
「“こうなるんだ!”って。僕的には似た声質というか、二人とも同じテンションの声かなと思っていたんですけど、やっぱりバラつきがあって。逆にそれが1曲の中で良い具合にまとまりましたね」
――imaseさんのラップはどうでしたか?
「この人からしか出ないものだなと思いました。僕なら多分ちょっとテンションの低いダウナーなものを埋めると思うんですけど、あそこにあのラップが来たことで、僕も次のバースをすごく自然に作れた感覚です。『メロドラマ』の中でも好きなところです」
――なとりさんとimaseさんといえばやはりバズですが、「この曲をバズらせるぞ」という意識はありましたか?
「どの時代に流れても違和感のない曲、誰が聴いても良い曲という意味では、『メロドラマ』はメロがすごくキャッチーなので、それはひとつバズに繋がるような要素なのかなと思います。ただそれは狙ってそうしたというより、二人での共作の中で自然に生まれたという印象ですね」
――そして9月20日にリリースされた『糸電話』は、映画『傲慢と善良』の主題歌です。
「僕、辻村深月先生の作品がすごく好きで、もともと『傲慢と善良』も読んでいたんですけど、今回に関しては実写の映画を観て、映画の内容にフォーカスを当てて作りました」
――映画の主題歌を作る体験はいかがでしたか?
「とても良い刺激になりました。普段の自分の制作では得られないものがあるというか。『糸電話』は作った後にすごく満足感があって、自分の作りたい曲の方向性が見えた感覚があります」
――方向性が。
「1stアルバム『劇場』を作ってから、“自分はやっぱりポップスが大好きなんだ”と思って。それ以来“良いポップスを作ろう”ということを念頭に置いて曲を作っていたんです。今回、アレンジャーで蔦谷好位置さんに入っていただいて。蔦谷さんはまさに僕が聴いてきたような良いポップスを作ってきた作られた方だったので、“この方の力をお借りして良いポップスを作ってみたい”という気持ちでお願いしました。本当にもう想像した以上の素晴らしいものになったので、大満足です」
――蔦谷さんとのやり取りで、発見や刺激はありましたか?
「たくさんあって。自分は曲に夜を連想させる要素や少し暗い要素を入れる癖があったんですけど、自分ではそれがどういうものかを理論的にはわかっていなくて。例えば最初のデモにギターのカッティングを入れてたんですけど、蔦谷さんのアレンジでそこをなくした瞬間、良質なポップスとしての聴こえ方に変わったんです。そういう意味では蔦谷さんにポップスの心得を教わったというか、刺激をいただけたと思います」
――良いポップスとおっしゃる通り、ラスサビが本当に気持ち良くて美しかったです。ストリングスも入っていますね。
「ストリングは今回初めて生で録って入れました」
――おお、生音なんですね。
「最初蔦谷さんからいただいた時は打ち込みのストリングスだったんですけど、生音に変わった瞬間、一気に空気感が変わったというか。壮大になって、あたたかみが増えた気がして。僕が作りたい曲の方向性においてはとても必要な要素だったと思います。すごい良かったなあ……ストリングスの良さを知るきっかけになりました。」
――ボーカル面では、高音の歌唱が多いですね。
「そうなんです。なとりの中では結構高音域で歌っています。これまでずっと低音域でやってきたんですけど、歌っていく中で結構音域も伸びてきて。それを聴いてほしい気持ちと、やっぱり低音域よりも高音の方が聴き馴染みがいいので、より多くの方が聴きやすいと思う音域にしました。歌い方で言うと、普段入れる僕のエグみを少し薄めて、本当の意味で歌を聴かせることを意識して歌いました」
――歌詞では、傷つきながら全てをさらけ出せる関係性の美しさを感じました。いつも俯瞰的な目線で歌詞を書かれているそうですが、今回はどういうふうに歌詞を書いていかれましたか?
「映画『傲慢と善良』は、人との関係の距離感にフォーカスを当てた作品だなと思ったので、それについて僕が思ったことを書いたのと、ある意味で映画の内容に通ずるような、あらすじ的な歌詞にしましたね。あとは自分のパーソナルな恋愛観を当て込みました」
――その恋愛観はどの部分に表れていますか?
「最後の2行の<きっとね、思いは同じじゃなくていい ずっと、同じ未来を見ていようよ>です。僕はお互いの想いの分量が同じであることにこだわると、しんどくなるんじゃないかなと思っていて。僕は人との関係は平等でいたいので……想いの分量の多い少ないではなく、お互いが心地良いラインってあるじゃないですか。その心地良さのままで、見据える先はずっと一緒にいたいよねという、自分の価値観が入っています」
――今のお話は<私と違うあなた、あなたと違う私がいて>という歌詞に通じる気がしますね。
「そうですね。結局他人ではあるけれども、他人という関係で終わらずに、<私と違うあなた、あなたと違う私>という距離感でいられるのが良いし、そうありたいという一種の願いを込めて書いた歌詞です」
――<全部、歌にして ねぇ、聞いて>や<声にして返す>という歌詞は、アーティストとしてのなとりさんの気持ちを表していそうだなと深読みしてしまいました。良いフレーズですね。
「ありがとうございます。<歌にして>は、それこそなとりの生業的な意味で、<声にして返す>はタイトルの『糸電話』にも通じるんですけど、距離が近くないとできないこと。電話は声だけでできるけど、ちゃんと肉声で話すには距離が近くないといけない。最近は距離が遠くても色々できるようになっているけれども、近くにいられる方が心地良いよねという思いを込めました」
――改めて『糸電話』はどんな楽曲になりましたか?
「(一言で表すと)挑戦ですね。自分が目指すものに対して、今自分にできることを最大限込めて、また示すことができた曲でもあると思います。いつか自分の表現だけでこういう曲を作りたい。そこがゴールだとしたら、今回ひとつステージを飛び越えたと思いますし、上質なポップスを作る入口が見えたと思ってます。多分今後のなとりの音楽人生において、欠かせない曲になりました。たくさんの人に聴いてほしいです!」
――映画館で曲が流れるのも嬉しいですね。
「新鮮ですね。誰かの曲を映画館で聴くだけで泣くこともあるのですが、自分の曲だとどういう気持ちになるんだろう。すごく楽しみですね」
――TikTokに投稿を始めた時のなとりさんは、そんな未来を想像されていましたか?
「いつか、と想像してはいたのですが、正直こんなに早く来るとは思ってなかったので、すごくありがたいことだなと、日々常々思っております」
――10月10日(木)・11日(金)にはオリックス劇場で『劇場〜再演〜』が行われます。1stアルバム『劇場』のリリースから約10ヶ月経ち、1stワンマンを終えた今、『劇場』というアルバムに対して思うことは?
「『劇場』はある意味、自分が成長していく上での、“なとりのリファレンス”というか。もっと良いものを作るために、“今の俺なら(この作品を)どうできただろう”と考えたりするので。良い曲たちがいっぱい詰まった大好きなアルバムではありつつ、自分が成長していく上でこれ以上のものを作らなきゃなという気持ちでいます」
――ご自分の曲は聴き返されるんですか?
「聴き返すことが多いです。最近はライブをするようになったので、“音源ではどういう歌い方をしてたっけ”と思って聴きます。改めて言うのも恥ずかしいんですけど、ちゃんと自分の作品が好きなんです」
――素晴らしいですね。1stワンマンライブを振り返るといかがですか?
「さっきも言ったように、もっと超えていかないとなって。成長していくために必要なライブだったと思います。でもすごく楽しくて、本当にライブが好きになったキッカケの公演でした」
――お客さんの反応を見て、高まるものがありました?
「すごく高まりましたね。初めてのライブなのにみんなたくさん声を出してくれて、自分の曲でフロアが湧くのに本当に感動しましたね。音楽をやってきて良かったと思った瞬間です」
――『劇場〜再演〜』の気合のほどは?
「過去行ったライブの中で1番良いライブにしたいなと思っています。1stワンマンより大きな会場で、なとり個人の活動としても、楽曲提供やコラボ、タイアップ、色々やらせていただけるようになって表現の幅も広がったと思うので、進化したなとりをお見せしたいなと思います。」
――会場はオリックス劇場ですが、ホール公演はどんなイメージですか?
「コンセプト通り「劇場感」は増すかなと。音も綺麗に聴こえると思うのと、前回をさらに超えるべく演出も含め用意しているので、ぜひご覧いただきたいです。」
取材・文=久保田 瑛理
なとり 2nd ONE-MAN LIVE「劇場~再演~」
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|日時|2024/10/10(木) 19:00 ※追加公演
2024/10/11(金) 19:00 SOLD OUT
|会場|オリックス劇場
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