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佐々木蔵之介が世界を動かす傑物フェデリコ2世、上田竜也がその息子ハインリヒ役で共演

2024/8/31

公演レポ

PARCO PRODUCE 2024 『破門フェデリコ~くたばれ!十字軍~』

 皆さんはフェデリコ2世をご存じだろうか。13世紀の中世ヨーロッパで、100年以上続いたキリスト教とイスラム教の戦争を平和的に一時停戦させた神聖ローマ帝国皇帝だ。8か国語を話す頭脳明晰さと奇想天外なアイデアで偉業を遂げながらも、ローマ教皇から最大の罰である「破門」を三度も受けた人物である。佐々木蔵之介がその知られざる皇帝、上田竜也がその息子役を演じる「破門フェデリコ~くたばれ!十字軍~」が東京のPARCO劇場で開幕中だ。フェデリコを知っている人も、知らない人も、才人・奇人のフェデリコとその物語にすっかり魅了されるはず。

 キリスト教に支配されていた中世ヨーロッパ。神聖ローマ帝国皇帝となったフェデリコは、最高権力者のローマ教皇グレゴリウス9世が属するバチカンからの十字軍遠征せよという圧力もどこふく風で、のらりくらりとかわしている。

 玉座に座る佐々木は、王の風格と威厳たっぷりで、王冠がよく似合う。饒舌にスピーディに、時には歌うようにセリフがほとばしる。これまでリチャード3世やマクベスなど数々の王を演じてきたが、王のみならず、どんな役でも多彩で豊かな表現力と品、観客を引き付ける力が自然ににじみ出て、その質の高さはブレることがない。唯一無二の俳優だ。初日を迎え、佐々木は「やっと舞台に立てる安心感がある」と言い、その引き締まった表情はいかにも王らしい。

 一方、マントをひるがえして颯爽と登場するのは、フェデリコの息子ハインリヒ役の上田竜也。フェデリコと息子の確執は序盤から露わだ。上田は、堂々としたセリフの言い回しと演技力に加え、才気煥発な父を超えられない嫉妬や怒り、悲しみをたたえている。そのすべてを表現する目力は時には痛々しいほどだ。物語はフェデリコとハインリヒの親子関係にも焦点をあてて進んでいく。ハインリヒの存在は、一見、完璧に見えるフェデリコの闇と弱点で、上田は迫力を持ってその象徴を表現。父と息子の確執がヒートアップしていく過程はヒリヒリとさせられ、観客を巻き込んでいく。初共演とは思えない二人のケミストリーにも注目だ。

 佐々木は「KAT-TUNの上田竜也と言えば、やんちゃなイメージやったんですけど、稽古場ですごく真面目に人の言うことを聞くんですよね(笑)。もうちょっと利かん坊なのかと思ったら、ハイハイと全部返事して、全部その通りやるから、真面目な人というのが印象ですね」と語る。上田は、佐々木の芝居力と存在感に圧倒されたと言い、「気づかいの方で、良かったシーンは『すごくいいよ』と言ってくれますし、『もっとこういう気持ちでやってもいいんじゃない?』と遠慮なくアドバイスもくださる。信頼してついていきます」と絶賛する。

 対立を深めていく父と子の関係はやがて意外な方向に進んでいく。佐々木は「上田君は多くのお客さんにいつも見てもらい、立っている人なので、爆発のさせ方とか楽しみ方をすごく分かっている。僕もついていきます(笑)」と言う。そのハインリヒが〝爆発〟するシーンは、上田のアクロバティックな身体表現も相まって、パワーあふれる見どころの一つ。乞うご期待だ。

 また、フェデリコと相いれない、六角精児演じるローマ教皇グレゴリウスは、権力と私利私欲にまみれた曲者。聖職者なのに極悪非道で、政治的にいつも何かを企んでいる。自分の思い通りにならないフェデリコの代わりに、ハインリヒを操ろうとするのだが、六角が演じるとどこかひょうひょうとしていて、憎々しい。その憎々しさの中に、おかしみがあり、所々で噴き出してしまう。どんな役にでも六角という個性がにじむ役者だ。六角は「観客が自分から何かを見ようという意思でしっかり見た時に、自分で勝ち得た面白さというものがきっと出てくる作品だと思います。そういうものをこちらは表現したいです」と語っていた。その言葉通り、物語は多角的な視点でキャラクターや歴史が描かれる。観客はそれぞれが興味を引かれるポイントを見つけられるはずだ。

 十字軍の遠征に出たフェデリコは、戦地で毎日風呂に浸かってお肌をつるつるにしたり、凡人には理解できないような行動をとる。さらに、宿敵であるイスラムの王カーミルと停戦の交渉を手紙で始める。その過程は実話だというから、敵の懐に入るフェデリコの手腕に驚かされる。カーミル役の栗原英雄は気迫に満ちていて、佐々木と同じように登場するだけで王らしい。「イスラム王=敵」とみなされていたカーミルの魅力が、栗原の高い表現力で玉手箱を開けるように次々と現れていく。カーミルとフェデリコのやり取りや、友情を深めていくシーンはユーモラスで笑わされ、その名優同士の〝対決〟にグッと引き込まれた。二人の「世界を動かそうと思ったら、まず自分自身を動かせ」という、ソクラテスの言葉を引用した志が、劇場を疾風のごとく動かしていく。「この時代にこの作品がどう受け止められていただけるのか楽しみにしています」と栗原は話すが、彼がチャーミングにカーミルを演じたからこそ、イスラム教や文化が身近なものとして感じられた。フェデリコやカーミルのような戦争を停止させるリーダーが現代にもいたらと、思わずにはいられない。

 また、メインキャラクターの中の紅一点で、謎の女・イザベルに扮する那須凜も見逃せない。イザベルは型破りなフェデリコに振り回され、ハインリヒに寄り添う、物語を陰で支えるキャラクター。那須はしっとりとしたたたずまいの中に、熱さとエネルギー、確固たる芯を感じさせる、若手女優の中でもピカイチの存在だ。精鋭のベテランキャストが揃う、今回の舞台でも引けを取らず、複雑なキャラクターのイザベルを見事に演じ切っていた。さらに、無垢な子どもになったり、地獄からの使いになったり、ダンスや身体表現でも魅せるアンサンブルも強力だ。那須は「アンサンブルも含めてマンパワーでシンプルにアナログで舞台を動かしてお届けします。スケールの大きい作品をマンパワーで頑張っていきたいです」と力を込めていた。

 なぜ、宗教が対立し、エルサレムの奪還を目指すのか。なぜ、イスラエルとパレスチナなどで戦争が起きるのか。作品は様々な問題が複雑に絡み合った戦争の、一筋縄ではいかない長い歴史を、分かりやすく面白く説き明かす。現代と800年前が足元でしっかりとつながっているということを肌で実感した。

 佐々木が主宰する演劇ユニットのTeam申では3年前、佐々木と作・阿部修英、演出・東憲司のコラボレーションで、「君子無朋~中国史上最も孤独な『暴君』雍正帝~」を上演。佐々木が辮髪姿で、ほとんど外出せず、部下と毎日20時間手紙のやり取りを続けた、ユニークかつ強烈な皇帝に扮したのが記憶に新しい。今作もその3人のコラボレーションで、またしても面白い皇帝に光をあててくれた!という思いだが、阿部は「歴史上のとんでもない奇跡があったということを紹介したいのではなく、人はここまでできるんだという可能性と希望を描きたいと思っている」と話す。フェデリコについては「英雄だと思っていたんですが、調べれば調べるほど、結構、不完全なところが見えてくる。そんな不完全な人があえて、平和というものを目指した。平和は神様が叶えるものではなく、人が叶えるもの。今、ウクライナなどで戦争がありますが、そこをメッセージとして届けつつ、面白がってもらえれば」と思いを込めた。

 「皆さんが劇中でどういう感情になっていくのか、劇場を出た時に、どんなものを持ち帰ってくれるのか、期待しながら僕たちは全力でがんばります。楽しみにしていてください!」と上田。佐々木も「命を賭して使命を果たそうとした人、正義を貫こうとした人、夢を実現させようとした人の感情が渦巻いています。最後は大きな広い希望の翼に乗って劇場から帰っていただけるよう、素敵な芝居をお贈りいたします。ぜひ、お越しください!」と呼びかける。いつの世も人々は争い、戦争を繰り返す。その負のループを断ち切ろうとするフェデリコやハインリヒたちの潔さ。果たして彼らの行く先はーー? 劇場があっという間に13世紀の中世ヨーロッパにループする、歴史の波にのみ込まれるようなひと時を、ぜひ、味わってほしい。

取材・文:米満ゆう子
撮影:加藤幸広

 

PARCO PRODUCE 2024
『破門フェデリコ~くたばれ!十字軍~』

■作
阿部修英
■演出
東憲司

■出演
佐々木蔵之介 上田竜也 那須凜 栗原英雄
田中穂先 石原由宇 六角精児 ほか

▶▶オフィシャルサイト

大阪公演

|日時|2024/09/11(水)~2024/09/16(月・祝)≪全7回≫
|会場|森ノ宮ピロティホール

▶▶公演詳細

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