2024/9/8
公演レポ
劇団☆新感線の舞台には、悪役がよく似合う。これは座長で演出のいのうえひでのりが、攻撃的な衣裳に身を包み、セックス&ドラッグ&バイオレンスなどの悪辣な思想や言動をアグレッシブに歌い上げる、ハードロック/ヘヴィメタルの世界に、多大なる影響を受けたからだろう。『スサノオ』のスサオウ、『髑髏城の七人』の天魔王、『朧の森に棲む鬼』のライなど、魅力的な悪漢キャラを挙げたらキリがない。そんな悪の名鑑に、新たな人物が加わることになった。新作『バサラオ』で、生田斗真が演じるヒュウガだ。
17歳で初めて新感線の舞台に立ち、その後もたびたび主演を務め、もはや準劇団員と言ってもいい生田。まもなく40歳を迎えようとする彼に、新感線がプレゼントしたのは、生田がずっと望んでいた新感線の悪役だった。しかも「美貌」で世界征服を狙うという、誰もが認める美男子の生田だからこそ可能なキャラだ。さらにそこに、生田の親友であり、自身もいのうえとの舞台をきっかけに評価を高めた中村倫也が、ヒュウガの相棒・カイリ役で出演。また、新感線の舞台はもちろん、映像でも生田とガッツリ絡んだことがなかった看板俳優・古田新太も、ラスボス的存在のゴノミカド役で登場。39歳から40歳の節目を迎える「39(サンキュー)公演」に、これ以上はないほど心強い布陣となった。
物語の舞台は、ミカドと幕府が対立する国。幕府の密偵だったカイリは、満開の桜の下で、大勢の女たちとたむろっているヒュウガと出会う。男も女も一目で魅了する容姿に対して、女たちが自分を守って死んでも「俺のために死ぬのは最高の至福」と言い放つ残酷で傲慢な性格。自分の「バサラ」な生き方の邪魔になる幕府を、己の美しさを武器に倒すとうそぶくヒュウガに、カイリは軍師になることを申し出る。ヒュウガはカイリの助けを得て、やり手の女大名・サキド(りょう)や、幕府に島流しにされたゴノミカドを次々に籠絡。ちゃくちゃくと倒幕に近づいていくが、彼の中にはもっと大きな、恐るべき野望が秘められていた……。
とにかく「大輪の悪の華」と化した生田の艶姿から、片時も目を離すことができない。今まで新感線では、少々頭の悪いキャラクターをあてがわれることが多かったが、今回は頭も切れて腕っぷしも抜群という、完全無欠のキャラクターに。顔が美しいのはもちろんだが、キレのあるダンスから、蝶が舞うようなアクションまで、動きの美しさの方により心を奪われた。長年日本舞踊を学び、歌舞伎の舞台にも立った体験を、見事に新感線にフィードバックできたと言えるだろう。
そしてカイリ役の中村も、花吹雪を起こす風のように、ヒュウガの周囲をひょうひょうと立ち回り、物語をけん引していく。密偵ならではの経験とアイテムを活かして、あれよあれよと形勢を逆転させていく様は、それが悪事だとわかっていても痛快だ。抜け感がありつつも、見せるべきところでは「どこにこんな力を隠していた?」と驚かせる演技で、生田をしっかりとサポートしていた。また、ドラマや映像でしか彼を観たことがない人は、ミュージカル仕込みの歌声にも驚かされることだろう。
2人の味方となり、また敵にもなる人物たちも曲者ぞろい。さすが元モデルとため息が出るほど、アバンギャルドな柄の着物を華麗に着こなし、計算高いけど人情も捨てきれないサキドを演じるりょう。ゴノミカドにひたすら忠誠を尽くす女戦士・アキノ役の西野七瀬。粟根まことも、幕府執権・キタタカ役として、今回も癖のあるその役割をまっとうした。誰もがあざやかにその役柄にハマり、物語の道筋を整えていく。
そして生田も中村も共演を熱望していた、ゴノミカド役の古田新太の存在感は、やっぱり格別だ。インチキ臭い関西弁をまくし立てるバカ殿……ならぬバカ帝ぶりで、本作最大のコミックリリーフとなりつつも、その姿には、鬼気迫るものがあった。
味方になったかと思えば裏切り、また裏切ったかと思えばそれは次の裏切りの幕開けとなり、思わぬ人が突然「成金」のごとく重要なキーマンに変わったりする。まさに将棋の名勝負のように、当人たちにしか先の先が見えないストーリーテリングも刺激的。そしてラストには予想のできなかった衝撃が観客を襲うことになるだろう。
新感線とともに育ってきた生田に、最終試練とばかりに劇団が様々な課題をぶつけた結果、美しきモンスター・ヒュウガが爆誕した。博多公演と、東京公演を経て、大阪公演ではさらに自信と貫禄をつけた姿を見せてくれることだろう。生田が40歳の誕生日を迎えるのは、ちょうど大阪公演中の10月7日。バースデー当日でなくても、その花道を観客として飾ってみようではないか。ちなみに当日パンフには、とある所作の指導と劇中のアナウンスで「はい?!」とのけぞる人がクレジットされているので、そのチェックもお楽しみに。
文:吉永美和子
撮影:山本聡子
2024年 劇団☆新感線 44周年興行・夏秋公演
いのうえ歌舞伎『バサラオ』
■作
中島かずき
■演出
いのうえひでのり
■出演
生田斗真 中村倫也/西野七瀬 粟根まこと/りょう/古田新太
右近健一 河野まさと 逆木圭一郎 村木よし子 インディ高橋
山本カナコ 礒野慎吾 吉田メタル 中谷さとみ
村木 仁 川原正嗣 武田浩二
藤家 剛 川島弘之 菊地雄人 あきつ来野良 藤田修平 北川裕貴 寺田遥平 伊藤天馬
米花剛史 藤浦功一 西岡寛修 NaO 大村真佑 清水一光
井上真由子 松本未優 樽谷笑里奈 白瀧真由美 さいとうえりな 高森あゆな 古見時夢
▶▶オフィシャルサイト
|日時|2024/10/05(土)~2024/10/17(木)≪全17回≫
|会場|フェスティバルホール
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