2024/5/9
インタビュー
――クラシックに苦手意識があるという知人が、TSUKEMENがラベルと映画音楽、ショパンとR&Bなどをミックスさせたアルバム『HAPPYキッチン』をはじめ、様々な楽曲を聴いてテンションが上がり、クラシックの聴き方が変わってきたと話していました。そういう入り方をする人は多いのでしょうか。
SUGURU「クラシックが好きな方もいますが、半分ぐらいはいわゆるオリジナルのクラシックは苦手ですという方がいらっしゃいますね。『苦手だったけど、TSUKEMENのコンサートを2時間、寝ずに聴けて楽しかった』と言う方も多いです」
TAIRIK「僕らのファンはクラシックをガッチリ聴いていますという人は少ないんですよ。だけど音楽は好き。隙間産業みたいなところにたどり着いたなという雰囲気があって(笑)。TSUKEMEN以外、生音は聴かないという人も結構、いらっしゃる。不思議な層ですね」
――クラシック音楽へのアプローチの仕方はTSUKEMENならではですが、ご自身のクラシックに対する思いは変わりましたか。
KENTA「いや、変わらないですね。僕は幼少期にクラシックを学んではいましたが、好きではなかったんです。上達するために、知識を得るために色々と調べて練習して、段々後から好きになり、良さや深さを知った。作曲家もそうですけど、プレイヤーによって個性や素晴らしさがあると分かってきたんです」
TAIRIK「皆、学生までクラシックを学んでいましたが、クラシックをベースに色んなジャンルの曲をやっていたんです。そのうちに、クラシックがベースにはなっているけど、『クラシック弾いています』という感覚は特になくなってきた。最近になって、音の合わせ方や作り方がクラシックのアプローチの仕方なので、TSUKEMEN流ではあるけれども、クラシックがベースになっているなとは感じますね」
SUGURU「たぶん、皆どっぷりクラシックではないんですよ。一応、皆、音大までは出ているんですけども、その中でも『クラシックしか聴きません』という人は意外と少なくて。ポップスや洋楽や色んなものから知識を得てやっている人が多いんです。15年やっていると、歳と共に、段々その境目がなくなっていく。楽器がヴァイオリンとピアノなので、クラシックをやると見えているんだなとは思いますが、演奏しているものはジャンルにはこだわっていない。アプローチの仕方は変わんないんですよ」
――家でTSUKEMENを流していたら、TSUKEMENを聴いたことのない家族に「これはクラシック?」と聞かれて、答えに窮したんです(笑)。昔、TSUKEMENをインタビューした時に「僕らの音楽を言葉にするのは難しい。ピッタリの言葉があれば教えてほしい」と言われたことがありました。アルバム『HAPPYキッチン』のように音の料理人というのがピッタリだと思ったのですが。
SUGURU「まさにそこに落ち着きつつありますね。僕らが弾くからこれっていうのがある。ヴァイオリニストとピアニストが集まって何かをやっている、音を出しているという感じです。その素材がクラシックというか、たまたま選んだのがクラシックという風に見てもらえたらいいなと」
TAIRIK「活動し始めた時から、皆さんが僕らの曲を聴いた時に『これTSUKEMENだよね?』と言われるのを目指してはいるんです。今、SUGURUが言ったように、クラシックとの境目がなくて、オリジナルも、曲と曲を合わせるミックス曲も全部含めて、トータルしてTSUKEMENみたいな感じで捉えている。ワンワードで言うのはまだむずいですね(笑)」
KENTA「ずっと僕らが思っているのはTSUKEMENというジャンル。ほかに代えようがない。二人が言った通り、僕らがいいと思ったアプローチでいいと思った楽曲をいいと思う味付けで提供して、僕らが楽しんで出している。僕はTSUKEMENというジャンルだと思っています」
SUGURU「少しピンときているところがあって、僕らが何で15年続いているかというと、結構、趣味が一緒なんですよ。好きな音楽とかではなく、自分の出したい音の趣味が近い。例えば歌ものの好きな人は、その人の声が聴きたいと思うじゃないですか。ダンスを見たいのも一つですよね。僕らは全体的に見て、何か聴こえるような個性を作っていくというところに没頭している。音量上げてもらっても全然満足しなかったり、裏で密かに何かをやっているのが好きだったり、そういう大枠の音楽に対する趣味が似ているんですよ。強い音でリズムぴったりにきちっと弾くじゃなくて、漠然とぶわっと弾いて、その場が気持ちよくなったらいいなという趣味が似ている」
TAIRIK「それは、元々一緒ではなかったかもしれないんですけど、15年間、ちょっとずつ育んでいった結果、今、SUGURUが言ったような地点ができたのかなと。前はそれこそアドリブ以外、楽譜をちゃんと作って、それを演奏したらスタイルになるという曲があったんです。ヴァイオリン二人とピアノで上手な人が集まったら、再現できちゃうよねというのがあったんですが、最近は再現できないんじゃないかと。言葉にはできない空気感が出来上がってきているなと感じます」
――それは15年経ったからこそでしょうか。
TAIRIK「段々とですね。どこからそれが確信に変わったかは分からないですけど」
SUGURU「ステージングもあるかもしれないです。楽譜に書いてあるけど、あえて弾かなかったりして、客を煽りにいくこともある(笑)。僕は弾くだけですと、これは結構、やりたくない人はやらないんです。でも何か面白そうなことがあったら、アプローチしに行く。そこが面白いかなと」
KENTA「楽曲の難易度もあり、難しいんですけど、その中で、個々でも音楽の中に入って、楽しむことができるかどうか。楽しくなったら、メンバーにも伝えたいし、パッと閃いたことをやってみたい。体を動かしたり、ちょっとメンバーに寄ってみたりとかするのが自然に出てくると、僕らが楽しんでいるのが音になって、お客さんにも伝わる。クラシックにもプラスアルファされているし、ポップスにもプラスアルファされている。誰かが真似しようとしたり、例えメンバーが代わったりしても、すぐに出来ることではないものになっていると思いますね」
――趣味が似ていたら、曲作りに関してもお互いうまく作用するのでしょうか。
SUGURU「どうだろう。その趣味は違っていいと思うんです。コンサートの趣味があっていればいい。出てくる楽曲は逆に似ていると困るんです。3人で作るからバラバラのほうがありがたいと思います」
TAIRIK「人間としての趣味し向はバラバラなんですよね。さっき言ったのはここだけOKというところで、ほかはそれこそ、曲順を決める時も全員違って、誰も納得しないで終わるということもある(笑)。気持ちいいぐらいバラバラなところもあります」
――どうやって決めるのですか。
TAIRIK「プロデューサーにお任せします」
KENTA「誰も納得しなくても、別に正解はないので。そこで揉めても時間の無駄というか。曲たちを演奏できるだけで幸せだから、一人の意見にのっかることも全く苦じゃないですね」
TAIRIK「2年前に独立しまして、そこから分担制みたいな感じなんです。曲目はSUGURUが考えるという骨組みが最初にできると、そこから皆の意見を出せてすごくスムーズになりましたね」
――どういう分担なのですか。
SUGURU「ステージングや、『キャンドルのぬくもり』にしたいとかコンセプトを考えるのは僕ですね。セットリストを提案して、二人の意見も聞く。実際リハーサルでやってみて『これはああしたほうがいいよ』と二人も言ってくれるので、変えたりもします」
TAIRIK「僕はグッズやファンクラブでこういうのをやったらどうかとか、TSUKEMENがああいうことをやったら面白いんじゃないかとかを提案する係です」
KENTA「僕は何もしない係です(笑)」
――不平等ですね(笑)。
SUGURU「いや、俯瞰して全体を見てくれているんですよ。僕がセットリストを組んだら、あれもやったほうがいいと提案してくれます」
KENTA「さらに見え方のバラエティを増やすというか、アイデアを提示します」
TAIRIK「しっかりとした俯瞰した目を持っているので、あとはお金の話も(笑)」
KENTA「そう、出来ることと出来ないことを厳しく判断します(笑)。自分たちで動かせることが増えた分、責任感も強くなりました。意欲も増して、そういう流れになりつつある」
SUGURU「独立する前はイエスかノーで終わっていたんですが、今はどうやったら可能になるか模索できる」
TAIRIK「楽になった部分が多いし、やりがいもある。ちょうど良くなりましたね」
KENTA「強い意見があれば、それを無下にするような関係ではないので、いいアイデアは受け入れるし、皆、楽しく楽になりました」
――今回はどんなコンサートになりますか。
SUGURU「昨年は、『これまでの15年を見せますよ』というツアーだったんですが、今年、新たなところに行く時に、もう一回、初心に戻ろうと。今年は震災があったり、世界では争いが起こったりする中、ほっこりと温かくなってまた頑張ろうと思えるようなところからスタートしたい。そこで『キャンドルのぬくもり』というタイトルを付けました」
KENTA「悲しくて暗くてストレスがたまるようなニュースが多い中、何が大事かといったら、個々の自分の幸せだと思うんです。家族や友人、周りの人が自分といる時に幸せになってくれればいい。それが自分にも返ってくる。キャンドルはやさしくて温かくて包まれるよう光なので、そんな時間を提供できたらと思います」
TAIRIK「今は若い人も何かやりたいと思ったら色んな選択肢がある時代。ある意味、心の時代だと思うんです。寂しいなと思った時に、家の中にいるような温かい感覚を味わってもらいたい。ほっこりするようなコンセプトは今までありそうでなかったので、これを機にそういうツアーにできたらと思いますね」
――楽曲もそういう曲をピックアップするのですか。
SUGURU「ほっこりした曲が多くなりますが、ずっとのんびりしてもらうということではないですね。実は『The Warmth of a Candle (キャンドルのぬくもり)』という曲があって、それは二人が1年ぐらい前に書いたんですよ」
TAIRIK「CDには入っていなくて、販売もされていないんです」
KENTA「スペシャルなコンサートで数回だけ披露したことはあります」
SUGURU「僕が鍵盤ハーモニカを吹いて、二人が寄り添ってピアノを弾いているんです。この感じを見てもらいたい、こんな感じのコンサートをやりたいなと」
――お二人のピアノはSUGURUさんから見てどうですか。
SUGURU「いいですよ」
TAIRIK「つたないはつたないです(笑)」
SUGUR「二人がちょんと座って、それを見ただけでほっこりするというか、めちゃくちゃ面白いです。笑える(笑)」
――かわいいと言ったら失礼かもしれませんが、かわいいですね(笑)。お客様は喜ぶでしょうね。
TAIRIK「そうですね。ピアノもちょっと弾いてくれるんだと」
――ところで、昔、関西でされたTSUKEMENとダンサーの森山開次さん、TSUKEMENと日本舞踊の方とのコラボレーションが素晴らしくて涙が出たんです。今後もそういうコラボは考えていらっしゃいますか。
TAIRIK「森山開次さんも日本舞踊の方もやっていてめちゃくちゃ楽しかったし、色んな人に見てもらいたいと思った公演でしたね。ただ、一発でいいものを作っても継続していかないと難しい。コンテンツとしてはすごくいいものだと思います」
SUGURU「ジャンルというよりは人ですよね。90歳ぐらいの能の方ともコラボしたことがあるんです。ダンスや日本舞踊、能だからというのではなく、この人だからコラボしたいなというのはあります」
KENTA「巡り合わせとタイミングですよね。縁があればぜひ、やりたいです」
――期待しています。最後にメッセージをお願いします。
TAIRIK「今までにないコンセプトのライブになります。絶対に心がポカポカになると思いますので、ぜひ、来てください」
KENTA「コンサートが終わった後は、最高の笑顔とやる気で日々過ごせるような、躍動するステージを作りますので、ぜひ、楽しみにしていてください」
SUGURU「関西はいつも盛り上がるんですけど、結構、耳が肥えている方が多くて、手厳しいので、何やっても喜んでくれるわけではない(笑)。喜んでもらえるようにしっかり準備していきたいです!」
取材・文=米満ゆう子
TSUKEMEN CONCERT
キャンドルのぬくもり
▶▶オフィシャルサイト
|日時|2024/05/19(日) 15:00
|会場|神戸新聞 松方ホール
▶▶公演詳細
|日時|2024/06/29(土) 15:00
|会場|住友生命いずみホール
▶▶公演詳細