2024/1/1
インタビュー
――2023年のさゆりさんは、前年のデビュー50周年を経て、さらに精力的な活動を展開されている姿が印象的でした。
「コロナ禍といわれたこの3~4年、コンサート活動がままならなかった分、レコーディングなどスタジオワークを濃くしていったのですが、2023年は、それが一気に形になった1年でした。2月に発売したアルバム『Transcend』では、レコーディングエンジニアの巨匠である内沼映二さんと、『最高の音を楽しむアルバムを作ろう』ということで制作を開始して。これまでよく聴いていただいてきた楽曲をジャズやストリングスのアレンジに置き換え、音質にも現在の技術で可能なかぎりこだわっていただきました」
――4月には、2009年に亡くなられた三木たかし先生の遺作『約束の月』が発売されました。さまざまな楽曲でご一緒されてきた三木先生の作品ということで感慨もひとしおだったのでは。
「三木先生が体調を崩して入院された時に、『もし何か私に歌わせたいアイデアがあれば、このMDに録音してください。必ず歌わせていただきますので』というお話をしていたんです。それから時を経て、コロナ禍の間に譜面や資料の整理をしていたら、三木先生が録音してくださったそのMDが発見されて。完成させるにあたり、どなたに歌詞を書いていただくか考えたのですが、この曲が生まれた経緯は私が最もよく知っているということで、僭越ながら私が書かせていただきました。この曲の制作を通じて、『人として喜怒哀楽のある生き方をしなさい』という三木先生の言葉が思い出されました」
――5月にリリースされた配信シングル『愛されるために君は生まれた』は、KREVAさんのラップや亀田誠治さんによるサウンドプロデュース、いしわたり淳治さんのメッセージ性高い歌詞など、ジャンルを越えた取り組みが印象的でした。
「ニュースを見ていると、子供たちが巻き込まれる事故や事件があまりに多く、大人の心のひずみが力を持たない彼らに向いているような気がしてなりませんでした。そんな状況で助けを求める子供たちに支援が届けられないか、そして大人たちも歌を聞きながら子供たちを守る気持ちを持ってほしい。そんな思いを形にしようと思って亀田さんとKREVAさんに相談したら賛同してくださって。この曲の収益をつらい状況にある子供たちに届けることで『君たちは幸せになるために生まれてきたんだよ』という思いが伝えられたらと思っています」
――配信楽曲では、他に10月にドラマ主題歌となった『ダメ男数え唄』、12月にはCMソングとなった『あずきに塩かけたら?!』をリリースされています。いずれもポップでユニークな作風となっていますね。
「『ダメ男数え唄』は、小池栄子さんの初主演ドラマ『コタツがない家』の主題歌ということでご依頼をいただき、全国の女性を応援できればと思って歌わせていただきました。『あずきに塩かけたら?!』は、以前から出演しているUHA味覚糖のCMソング。味覚糖は社長を筆頭に、みなさん本当に楽しいことに対して一生懸命な会社で、私もぜひ、歌でそんな姿勢を応援したいと思いました。ミュージックビデオも楽しいので、ぜひ、ご覧ください」
――10月リリースの最新シングル『越後瞽女』は、スケール感のある曲調に瞽女の生き方が綴られており、聴き応え満載の作品となっています。
「瞽女というのは、室町時代後期から三味線を弾き、旅をしながら歌を伝えていた盲目の女性たち。昭和の中期以降に文化としては衰退したのですが、どうにか彼女たちの紡いできた歴史を後世に伝えられたらと思いました。作詞の喜多條忠先生には以前から瞽女の歌を歌いたいと相談していて、『難しい題材だよね〜』とおっしゃっていたのですが、2021年に亡くなられた後、『さゆりさんに渡しておいて』とディレクターに託していた作品があったことがわかり、それがこの『越後瞽女』だったんです。私が話していたことを心に留めてくださっていたことが本当に嬉しく、ぜひ新曲として世に出したいと思い、今回、シングルとして制作させていただきました」
――2024年1月には大阪・森ノ宮ピロティーホールで新春特別公演を開催されます。こちらの見どころについても教えてください。
「これは2023年秋から始めた『4人の音楽仲間と』というツアーでやってきた内容をふまえたもので、ホールコンサートとは趣の異なる、アコースティック編成でお届けする公演になっています。会場の規模的にお客様との距離感も近く、楽器と私がステージ上で会話をしているような空気感を味わっていただけたら。アコースティックだと新しいアイデアを思いついたらどんどんアレンジを変えられるのが楽しく、同じ曲でもフルバンド編成とはまったく聴かせ方が変わるところに注目していただきたいです」
――今回は、どのような楽器編成で?
「ピアノ、ギター、バイオリン、チェロですね。メンバーはみんな気心知れた人ばかりで、長い人でもう30年以上の付き合いになります。アコースティック編成は、コロナ禍で通常の編成でコンサートができない状況から生まれたのですが、やってみたら本当に楽しくて。いつものホールコンサートしかご覧になったことがない方には、ぜひ一度、足を運んでいただけたらと思います」
――最後に、大阪公演ということで関西のファンの方に向けてのメッセージをお願いします。
「大阪は本当に大好きな街。コンサートをすると、閉幕時にお客様が『おおきに! 今日ももうかったでー!』って言ってくださるのですが、それがとても独特な表現だなと思って。最初はなんと言っているのか聞き取れなかったんですけど、分かってからは、それを聞くのが楽しみになっています(笑)。今回は、『越後瞽女』のカップリング曲で大阪を題材にした『浪花のごんた』も披露する予定なので、こちらも楽しみにしておいてください」
TEXT:伊東孝晃