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【インタビュー】上原ひろみの新たな冒険『Hiromi’s Sonicwonder』

2023/10/4

インタビュー

上原ひろみ Hiromi's Sonicwonder JAPAN TOUR 2023 “SONIC WONDERLAND”

デビュー20年を迎えるピアニスト・上原ひろみの進化が止まらない。新しいプロジェクト『Hiromi’s Sonicwonder』を始動し、2023年9月にアルバム『Sonicwonderland』をリリース。若手アーティストも含めた新たな顔ぶれが揃い、ともに新たな「冒険」に出ようとしている。

高校時代からチック・コリアに才能を見出され、バークリー音楽院を卒業する前である2003年にデビューを果たした上原。2011年のアルバム『Voice』などで継続的に実施していたトリオ・プロジェクトをはじめ、海外アーティストと積極的に共演するなど、世界に股をかけて音楽を探求してきた。2020年のコロナ禍によって海外での活動が難しくなった際には、1分ほどの自作の新曲をミュージシャンとリモートで共演する配信プロジェクト『One Minute Portrait(ワン・ミニッツ・ポートレート)』を展開。2021年には国内で弦楽四重奏団とのプロジェクトを始動させ、最近では映画『BLUE GIANT』の音楽を手がけるなど、新たな活動の広がりを見せてきた。

コロナ禍を経て、久しぶりに海外アーティストと今回のプロジェクトをスタートさせたきっかけは、2016年にまで遡る。当時出演するはずだったベーシストの代役でアドリアン・フェローが、上原と初めての共演を果たした。「初のセッションと思えない感覚を抱き、もっと彼と一緒に音楽がしたいと思ったんです。彼は超絶技巧の凄さが取り上げられることが多いのですが、本当の魅力はその瞬間の音の判断力にあると思っていて。彼のベースの上でソロを演奏する人は、必ず輝くんですよね。彼のサポート力や耳の良さには感銘を受けています」。

彼との音楽を構想していく中で、かつてスタンリー・クラーク・バンドで共演経験があり、上原曰く「プレイにユーモアがある」というドラムのジーン・コイも参画することに。「ただのパワープレイではなく、トムとジェリーのようにソリストとじゃれ合って遊んでいるように演奏できる人なんです」と上原は魅力を語る。

この時点でスタンダードな編成が仕上がっているが、上原は「ここで深みのある、やさしくてまろやかな音がほしい」と考えた。そこで加わったのが、わずか29歳のトランペッターであるアダム・オファリル。彼の演奏動画を何度もみては、「ぜひ一緒に演奏したい」と考えオファーした。「彼は即興スキルも素晴らしいのですが、それよりもメロディを弾く音が素晴らしい。彼の旋律があるだけで、音楽の説得力が増すんです。心に印象を残すプレイヤーですね」。

アルバムに冠された『Sonicwonderland』は、日本語に訳すと『不思議な場所』が含まれる。上原はこのプロジェクトのテーマを『冒険の旅』と設定した。ジャズならではの即興性の高さはもちろんのこと、拍子やコードの自由度を高めてより冒険的な音楽に仕上がった。「ロール・プレイング・ゲームのように仲間を見つけ、新しいことを始める行為はもちろん、彼らと音を重ねたり、彼らのために音楽を書いたり、一緒にツアーをすることも、冒険そのものですね。それに、音楽というのは冒険がつきものです。冒険性のない音楽に私は興味がありませんし、そもそもそんなものは存在しないと思います」。

冒険への求心力は、上原の音楽に向き合うスタンスとも重なる。彼女にとって、表現を追い求めることは『山登り』と同義だという。「終わらない坂道というか、ずっと一歩ずつ登っていくような感覚があります。時々絶景ポイントはありますが、それでもまだ登っていく。一瞬でも素晴らしい景色があったとしても、そこに至るまでの1ヶ月や半年、1年に勝るものはないと思っていて。だからずっと登り続けるし、探していくのだと思います」。

このバンドで、11月よりツアーを実施。アルバムがリリースされるより前に、すでにこのメンバーでライブを実施している。一度はレコーディングとして形になっているが、現在進行形で彼らのセッションの温度は変わり続けている。「アルバムとして仕上がっている状態から、いかに私たちの音楽や演奏が進化したり変化したりするのか。互いに感化し合いながら、成長できるのが楽しみです」。

各地をまわる際に上原が楽しみにしていることの一つが、『人々の反応』だという。「大阪は、日本のスペインだと思います(笑)。日本人は感情を表現するのが得意じゃないと言われますが、大阪の皆さんはすごくエクスプレスする。口に出さなくとも、オープンに聴いたものに対するリアクションしていただき、エネルギーのある表現者の町だと思っています」。

デビュー当時に比べ、コロナ禍を経て舞台のありがたみをより一層身に染みたという上原。彼女の音楽は、レコーディングだけでなく現地のライブでも光る。彼女が絶賛する大阪の町と、『Hiromi’s Sonicwonder』の音楽はいかに相互作用していくのだろうか。冒険の瞬間を目の当たりするのが楽しみだ。

TEXT:桒田 萌

  

上原ひろみ Hiromi's Sonicwonder
JAPAN TOUR 2023 “SONIC WONDERLAND”

■出演者
上原ひろみ (pf)
アドリアン・フェロー (b)
ジーン・コイ (ds)
アダム・オファリル (tp)

|日時|2023/12/12(火) 19:00
|会場|フェスティバルホール
▶公演詳細

|日時|2023/12/19(火) 19:00
|会場|なんばHatch
▶公演詳細

▶オフィシャルサイト

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