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「守銭奴 ザ・マネー・クレイジー」観劇レポート

2022/11/26

公演レポ

『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』

 ルーマニアを代表する演出家の巨匠シルヴィウ・プルカレーテが、佐々木蔵之介を主演に2度目のタッグを組む。2017年の『リチャード三世』、20年の『真夏の夜の夢』を経て、今回はフランスを代表する劇作家モリエールの喜劇『守銭奴』を上演。蔵之介が演じる主人公のアルパゴンは、お金に対する執着心が異常に強く、強欲でシブチンの超ドケチ親父だ。今作はそのドケチぶりと、それに翻弄される周囲の人々の姿を描く喜劇…なのだが、プルカレーテがそのまま描くわけがない。今年生誕400年を迎えるモリエールの傑作喜劇を、プルカレーテがどう演出するのか。そして蔵之介ら日本人キャストがどう挑むのか。11月23日、東京芸術劇場で『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』の初日の幕が開いた。

 アルパゴンの屋敷の外。夜。鳥の声がする薄暗い庭を横切るアルパゴン。しばらく後に足の悪い召使ラ・フレーシュ(手塚とおる)も通る。これ、覚えておくこと。幕が上がる。客席がハッとする。こう来たか! すりガラスのようなビニールが廊下や部屋を仕切る壁となり、その向こうを通る人がかすんで見える。ドアなどは手書きスケッチのような線で描かれ、家具もシンプル。またビニールの壁は可動式で、ふんわりと軽く部屋の大きさを変える。照明も美しくシンプルな光で、登場人物の心理や状況を表すように伝える。

 アルパゴンの娘エリーズ(大西礼芳)には恋人・ヴァレール(加治将樹)がいる。結婚を望んでいるが、つねに節約を強いる父は身内にも厳しく、華美な服装も無益な結婚も絶対反対。なんとか結婚を許してもらおうと、アルパゴンのそばでご機嫌取りに徹するヴァレール。息子のクレアント(竹内將人)も父の圧制に抵抗しつつ、美しいマリアーヌ(天野はな)に恋している。そんな中でアルパゴンが子供たちに言う「マリアーヌと結婚する」。え~!? 

 

飼っている馬は餌をケチったために痩せすぎて走れない。人手を減らすために料理番と御者を兼ねさせる。また、アンジャッシュのコントのような会話のすれ違いもあり、通常なら召使も辟易するほどのドケチぶりで笑わせるという喜劇なのだが、物語の冒頭から時折発せられる不穏な音楽に、ん?これはもしかして喜劇じゃない?と、肌感覚で伝わって来る。息子や娘以上に金が大事なアルパゴンは、隠した金を誰かに盗まれないか、つねに猜疑心の塊だ。そして彼のその思いは徐々に強くなる。犬の遠吠えを聞き、恐怖と狂気を目に宿して金の確認に行く蔵之介の演技が秀逸。舞台セットの透けて見えるビニールの壁は、つねに誰かがどこかから金を盗もうと見張っているという、アルパゴンの心理を表しているように思える。60歳とセリフで言う以上に老けて見えるハゲ頭のアルパゴン。狡猾な彼が、貯めた金の入った箱を抱いた瞬間に見せた表情に、アルパゴンの深い孤独を感じた。そして思った。この話は人を信じることのできなかった男の悲劇なんだ、と。

 ところがどっこい。この話はそこで終わらない。最後は「え~!? そんなんありぃ?」のハッピーエンド。失礼ながらご都合主義で書かれたとしか思えないラストを、プルカレーテはまるで「カーニバルのように」(手塚)仕立て上げた。

 これまで観たこともない、まったく新しい『守銭奴』。舞台美術・照明・衣装はドラゴッシュ・ブハジャール、音楽はヴァシル・シリー。長くプルカレーテの創作に関わって来た2人も来日しての国際共同制作。今回もプルカレーテの鬼才ぶりに唸らされた。

 取材会で蔵之介がプルカレーテの演出を語った。「僕らが、ある程度このシーンはこんなふうだろうなと想定した、はるか斜め上を越えて来る演出をされました。稽古は、積み上げては壊し、積み上げては壊し、という日々をずっと続けてきて。でも、その体験は僕たち役者にとって、とてつもなく幸せな時間でした」。プルカレーテの大ファンを自認する手塚は「今までの2作品とはまるで毛色が違います。プルカレーテ作品を体験できるのは本当になかなか機会がないのでお楽しみに。是非、ザ・佐々木蔵之介を観に来てください!」と力を込める。チラシのビジュアルとは違う、ハゲ頭の超ドケチ親父を演じ「舞台でかっこいいセリフを1度も言っていない」と笑った蔵之介。「フランスの戯曲を、ルーマニアのスタッフチームによる日本人キャストで演じる作品です。本当に耽美で怪しく狂気をはらんだ喜劇を、そして今の世界を描いている喜劇をお見せすることができます。是非、劇場に体験しに来てください。お待ちしております!」。

取材・文:高橋晴代

『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』

■作
モリエール 
■翻訳
秋山伸子  
■演出
シルヴィウ・プルカレーテ 

■出演
佐々木蔵之介
加治将樹 竹内將人 大西礼芳 天野はな 
茂手木桜子 菊池銀河 安東信助
長谷川朝晴 阿南健治 手塚とおる 壤晴彦


大阪公演

|日時|2023/01/06(金)~2023/01/09(月・祝)≪全4回≫
|会場|森ノ宮ピロティホール

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