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サラ・オレインがデビュー10周年
音楽で皆が安心できる場所を作りたい

2022/7/4

インタビュー

SARAH ÀLAINN 10th Anniversary Year 〜 One

 オーストラリア出身で、ボーカリストやバイオリニスト、作詞作曲家など幅広く活動するサラ・オレイン。今年でデビュー10周年を迎え、ライブで人気のカバー曲を収録したニューアルバム『One』を3年半ぶりにリリースした。3オクターブの変幻自在な歌声と演奏力で、聴くものを瞬く間にその世界へと引き込んでくれる。英語、日本語、ラテン語など5ヵ国語を操るマルチリンガルでもあり、その多才さには驚くばかりだ。新作や、8月に大阪で開かれるライブなどについて語ってくれた。

――まず、『One』に込めた思いを聞かせてください。

「誰もが唯一無二、オンリーワンの存在です。コロナ禍で心のダメージを受けている人は多いと思うんですが、自分自身を大切に、生きていてつらくて大変でも、一人ではないよと寄り添えるような作品を作りたいと思いました。作品のコアにあるコンセプトはメンタルヘルスや心のケアなんです。曲目は今までライブでやった、歌い込んだり弾き込んだりしてきたものばかりで、コンセプトに添うように選び、曲順にもこだわりました」

――オープニングは、サラさんの力強い歌声で幕を開ける「ボヘミアン・ラプソディ」です。
 
「これは現実なのか、ファンタジーなのか」というクイーンの英語の哲学的な歌詞から始まります。大変でつらい時は、音楽を聴いたり、映画を見たりと逃げることも大切です。ファンタジーが始まり、アートを通じて現実と向き合えるきっかけになってほしい。心のために扉を開こうという思いを込めて歌いました」

――続く、映画「アラジン」からの「スピーチレス~心の声」は、「私を黙らせることはできない、私には声がある」という歌詞もあり、Me Too運動を彷彿させる楽曲ですね。

「まさにそうです。お姫様であるジャスミンがやっと声を持ったという歌です。Me Too運動もそうですが、まだまだマイノリティーの人や、メンタルヘルスの問題を抱えている人たちなどにとっても、声をあげにくい社会だと思うんですよね。安心できる場所が少ない。音楽はすごくパワーがあるので、皆が安心できる場所を作っていきたいなと思いました。最初はバイオリンを弾こうと思っていたんですが、心の叫びをよりパワフルにするために、初めてエレキバイオリンを弾いたんです。私は、お客さんのために、ライブではいつも新しい楽器に挑戦するんです。今までカリンバやハープなども演奏したことがあるんですよ。エレキバイオリンは少し弾けるギターにも似ていて、不思議な感覚でした」

――ジャズピアニストのチック・コリアの代表曲「スペイン」はインストゥルメンタルとして有名ですが、アル・ジャロウが作った歌詞に乗せて、サラさんが情熱的に歌っています。

「歌詞付きは珍しいですよね。けっこう早口なので、チャレンジでした。懐かしい、あの日のスペインを思い出すという内容です。音の響きも詩的で、リズムを大事に、楽器のように響く歌詞をジャロウさんは意識されたんだと思います。昨年亡くなったチック・コリアさんに捧げています」

――映画「フィフス・エレメント」からの「ディーヴァ・ダンス」も声が楽器のようですね。

「アーー♪としか言っていません(笑)。声は最強の楽器だと思っているので、楽器的に扱うことによって、声の可能性を見せたかったんです。テクニック的にも難しいんですが、聞いている人がワクワクするようなエキサイティングな感じになったと思います」

――「ひこうき雲」ではサラさんの歌声に揺さぶられ、涙が出ました。

「実は、コロナ禍で親友を2人亡くしたんです。歌いながら、自分でもあふれてくる感情を抑えられなかったですね。今まで、私自身もメンタルヘルスの問題を抱えてきたんですけど、音楽がありますし、あえて公表する必要はないと思っていました。でも、もっと安心できる場所や自由に話せる場所を作りたいという思いが募り、デビュー10周年を迎えましたし、公表することにしました。私が公表することで、少しでも恥ずかしいとかタブーだと思って悩んでいる人々の助けになればいいと思います」

――そうですか…。多くの人の助けになると思います。ライブ録音の「マイ・ウェイ」では、「頑張らなくていい、生きているだけで色んなものに耐えていて、十分頑張っている」とサラさんが観客に呼びかけ、パワフルに歌い出すのですごく励まされました。

「ありがとうございます。頑張れという曲も、もちろんいいんですが、プレッシャーに思う人もいます。そんな人たちのための居場所になったらいいなと思います」

――曲順は前後しますが、バイオリンで演奏された 映画『シンドラーのリスト』‐ テーマ も心に残ります。

「ウクライナをはじめ、世界では戦争が起こっていて他人事ではありません。映画のオリジナルは壮大なオーケストラですが、生々しさを出したくて、レコーディングは5人編成にしたんです。リアリティをどう出せるかというのが鍵で、感動的に盛り上げるよりは、あえて淡々とした感じを狙って弾きました」

――最後はオペラ「トゥーランドット」の名曲で「誰も寝てはならぬ」です。この曲は男性テノールが歌うのですが、初めて女性が歌うのを聞きました。

「私も女性が歌っているのは聴いたことがないですね(笑)。男の人がお姫さまに向かって歌う曲ですが、素晴らしい曲なので、女性の声として表現したかったんです。自分のルーツに戻って壮大なオーケストラのオペラの曲で締めくくりました」

――8月には大阪でライブが開かれますね。

「『One』からの楽曲を中心に、デビュー当時の作品やオリジナル曲もやりたいですね。特別なコンサートにしたいです」

――大阪で印象に残っていることはありますか。

「黒門市場(笑)。大阪は粉ものが有名ですが、お寿司も美味しかったんです(笑)。もちろん、お客さんも温かくてノリがいいですね。ライブでは、いつも大阪の人しか分からないネタを用意するんですよ。「551の豚まんがあるときー、ないときー」とか(笑)。お客さんには、自分自身を大切に、そして、同じ地球に生きているので、うまく共存していこうねという思いを込めて歌いたいですね」

――それは楽しみです。最後の質問ですが、サラさんは絶対音感とともに音が見える〝共感覚〟の持ち主だそうですね。一体、どのような感じなのでしょうか。

「色を見ているのと同じ感覚で、音も鳴りつつ、色が感じられるんです。ドの音はオレンジ色と頭の中で見えていて、音がシンクロしている感じ。小さいころ、ピアノを弾いていた時に、音は色で覚えたらいいなと思ったのを覚えています。メシアンとか昔の音楽家はそういう感覚があったそうですが、私も同じ感覚の人には、まだ会ったことがないんです(笑)」

――天が何物をも与えたのですね。

「役に立っているのかは分かりませんが(笑)、そんな感覚はずっとありますね」

TEXT:米満ゆう子

SARAH ÀLAINN 10th Anniversary Year 〜 One

【大阪公演】
|日時|2022/08/21(日)17:00
|会場|NHK大阪ホール

▶ 公演詳細

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