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「エレファント・ソング」観劇レポート

2022/5/16

公演レポ

膝の上で両手をギュッと握りしめて観ていた隣の女性客は、最後に涙をふいていた。

井之脇海の舞台初主演作、大阪へ登場!三人芝居で贈る100分間の心理スリラー

カナダの作家、ニコラス・ビヨンが2002年に発表した作品『エレファント・ソング』。世界各地で朗読・舞台上演、14年には映画化もされた本作を東京PARCO劇場で日本初演、まもなく大阪でも上演される。突然失踪した医師の謎を発端に、病院の診察室を舞台に繰り広げられる三人芝居の心理スリラーだ。登場人物は患者・マイケル、病院長・グリーンバーグ、看護師・ピーターソン。主人公マイケルを演じるのは、話題の映像作品で引く手あまたの若手俳優・井之脇海。病院長にベテランの寺脇康文、看護師には小劇場で活躍し13年から演劇ユニット「なゆた屋」を主宰する、ほりすみこ。22日まで上演中のPARCO劇場で舞台を観劇、公演レポートに出演者のコメントを交え、作品を紹介しよう。

舞台は精神科の医師ジェームス・ローレンスの診察室。ソファや机、木製のクローゼット、小さなクリスマスツリーが部屋の隅に置かれ、雪がかかった窓から日差しが注ぐ。今日はクリスマスイブ。紫色の分厚いカルテのファイルを抱え、病院長のグリーンバーグが部屋に入って来る。ローレンスが失踪前に最後に診た患者マイケルに事情を聞きに訪れたのだ。どこかイラついている様子。マイケル担当の看護師ピーターソンが来て「マイケルは普通とはちょっと違います。見くびらない方がいいですよ、もてあそばれますよ」と言い残し、マイケルを呼びに行く。明るく入って来たマイケルだが、まったく関係のない“象”についての話から、つかみどころのない話ばかりでグリーンバーグを翻弄。が、ローレンスが姿を消した事情は知っているらしく、その真実を教える取引をもちかける。

条件1.ミス・ピーターソンには、この件に一切介入させないこと。

条件2.自分のカルテを読まないこと。

条件3.真実を話したご褒美にチョコレートをくれること。

ここから始まったマイケルとの対話。「話はすぐに終わる」と思っていたグリーンバーグの思惑は外れて…。

互いを探り合うようなやり取りから始まり、グリーンバーグはマイケルの仕掛ける巧妙なゲームにはまっていく。ウソか真実か? 象の話は何を意味するのか? 観客もグリーンバーグ同様、マイケルの言葉に翻弄される。主導権を取ろうとするグリーンバーグとのパワーゲームの様相も見せながら続く、心理戦とも言える緊迫した会話。たびたび呼び出されるピーターソンの存在で息をつく。マイケルの何気ない言葉の中に重要な伏線が織り込まれているのだが、観客はなかなか気づけない。そして最後に知る。この芝居は緊張感あふれるサスペンススリラーという衣をまといながら、実は人間の深部を見せているのだと。膝の上で両手をギュッと握りしめて観ていた隣の女性客は、最後に涙をふいていた。

戯曲を読んで「『マイケルを演じるのは僕だ』と強く思った」と語っていた舞台初主演の井之脇。「マイケルは愛を渇望している中でも、自分って何だろうと探している人物だと思う。僕が役者として成長する上で大切な作品になりました」。寺脇は「戯曲を読んでおもしろいと思ってお受けしたのですが、おもしろいけど深い、そして怖い。井之脇君は感性でぶつかって来てくれて、還暦を迎えた僕ですが、20代の頃のような新鮮な気持ちで芝居に向き合うことができました」。ほりは「普段は小劇場を中心に芝居をやっているのですが、3人しか出演しないこのような作品に参加できて、とても楽しんでおります」と、それぞれが舞台の初日にコメントを寄せた。

100分間に凝縮された緊張感あふれる会話劇。多くの言葉と展開に翻弄され、上層のおもしろさだけで終わってしまってはもったいない。これから観る人たちは、本作をより深く楽しむために上記したマイケルの3つの条件だけは劇中で覚えておくことをオススメしたい。

 

取材・文=高橋晴代
取材会写真、舞台写真・加藤幸広

PARCO PRODUCE 2022
「エレファント・ソング」

■作
ニコラス・ビヨン
■翻訳
吉原豊司
■演出
宮田慶子
■出演
井之脇海 / 寺脇康文 / ほりすみこ

日時:2022/05/28(土)13:00 / 17:00
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

>>公演詳細

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