2021/3/15
公演レポ
アメリカの高校生が学生生活最後を飾る一大イベント「プロム」。それは、子どもを卒業して大人へと羽ばたく扉を力強く開ける瞬間かもしれない。人々が過酷な忍耐期間を抜けようともがくいま、地球の仲間を元気にする!を使命にする演劇ユニット「地球ゴージャス」がブロードウェイミュージカル『The PROM』を日本で初上演。2021年3月10日の東京公演開幕直前、ゲネプロを公開した。
オーケストラピットから湧き上がる生演奏に乗って最初に登場したのは、盛者必衰に嘆くかつてのブロードウェイスターたち。トリプルキャストのD.D.アレンは初舞台の大黒摩季だ。アリーナや武道館を満杯にしてきた日本トップミュージシャンの歌声は言わずもがな、ゲネプロ前の会見で「大黒摩季、踊ります!」と張り切った通り、深いスリットから美脚もあらわに身体を跳ねさせる。岸谷五朗や寺脇康文、アンジー役の霧矢大夢、小浦一優(芋洗坂係長)との一体感には、大黒自身、緊張しつつも心から楽しんでいることが手に取るようにわかった。岸谷と寺脇を左右に従えて踊る熱いナンバーはまさしくゴージャスで楽しい。
そんな困った大人たちの中にすっくと顔を出した葵わかな。主人公のエマ。クルクル髪に大きなメガネがかわいらしい。レズビアンをカミングアウトしたことで友だちから総スカンを喰らう女子生徒という難しい役柄を、なんとナチュラルに、そしてリアルに演じていることか! 歌声は清々しく伸びやかで、「辛いときほど笑おう」というけなげさがヒシヒシと伝わった。キラキラ輝く存在感は初舞台とは思えない三吉彩花も同様だ。エマの恋人のアリッサとして、エマとのデュエット「Dance With You」に切実な願いを込めて歌いきった。2人の愛をどうして引き裂けようか! 見つめ合うエマとアリッサが愛おしすぎる。
「ミュージカルのエンターテインメント要素を余すところなく詰め込んだ」と岸谷が言っていた通り、ステージ華やぐ群舞やバリエーションに富むコメディシーン、それぞれの人物をキャラ立ちさせる楽曲と、飽きさせる瞬間なし。エマとアリッサの若い恋人たちを応援する一方、D.D.アレンとホーキンス校長(ゲネプロはTAKE)の大人の恋の落としどころも気になって仕方がない。D.D.アレンは大黒・草刈民代・保坂知寿のトリプルキャスト、ホーキンス校長は佐賀龍彦とTAKAのダブルキャスト。ということは、6通りの組み合わせがあるわけで、観るたびに違う大人の恋愛が展開されるということだ。
喜びも悲しみも怒りも勇気も、人が持つ感情のすべてを盛り込んだ「スーパー幕の内弁当」と評するのは大黒。稽古中から何度も号泣したそうで、「舞台上では泣かないでね」と岸谷から注意を受けているとか。それに対し大黒は、「だって、自分のライブでここまで感情が動くことはないですもん」と反論(!?)。だれもがもがき苦しむいまだからこそ、「劇場に逃げ込んで救われる!」(劇中台詞)、そんな生舞台の一期一会を楽しみたい。
取材・文:丸古玲子
撮影:引地信彦、NAITO
Daiwa House Special Broadway Musical
「The PROM」
Produced by 地球ゴージャス
■脚本
ボブ・マーティン チャド・ベゲリン
■音楽
マシュー・スクラー
■作詞
チャド・ベゲリン
■日本版脚本・訳詞・演出
岸谷五朗
■出演
葵わかな 三吉彩花
大黒摩季・草刈民代(ダブルキャスト)
霧矢大夢
佐賀龍彦(LE VELVETS)・TAKE(Skoop On Somebody)(ダブルキャスト)
藤林美沙 小浦一優(芋洗坂係長)
岸谷五朗 寺脇康文 他
※大黒摩季、草刈民代はダブルキャスト、佐賀龍彦、TAKEはダブルキャスト
2021/05/09(日)~2021/05/16(日)≪全9回≫
会場:フェスティバルホール
公演詳細はコチラ