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「スルース〜探偵〜」柿澤勇人
男二人のゲームのようなバトル
「ひとつの台詞、動きも見逃さずに」

2020/12/25

取材レポ

「スルース〜探偵〜」

劇団四季を経て、ミュージカル『フランケンシュタイン』や蜷川幸雄演出『海辺のカフカ』など多くの舞台に出演。NHK連続テレビ小説『エール』ほか、映像でも活躍をみせる柿澤勇人が、アントニー・シェーファーの傑作ミステリーに挑む。1970年にロンドンで初演後、映画化され、トニー賞も受賞した本作は、著名な推理小説家とその妻の不倫相手が繰り広げる濃密な心理劇。公私ともに慕う吉田鋼太郎を相手に、どんな芝居を見せるのか。内に底知れぬ熱さを秘めた頼もしい俳優・柿澤が、稽古中の思いを語った。

――柿澤さんが演じられるマイロ・ティンドルは、どのような印象の人物ですか?

「頭の回転が速く、どうすれば鋼太郎さん演じるワイクのマウントを取るかということを、常に考えている人物だと思います。ただ、若さゆえに調子に乗ってしまう部分もあり、人種的なコンプレックスも実はあって、常に燃えている、何かを成し遂げたいと思っている青年なのかと」

 

――演じるうえでは微妙なニュアンスも?

「非常に繊細な人ですね。ただセンシティブなものをセンシティブに2時間演じてしまうと耐えられなくなるので、それをどう隠して堂々と振る舞うかが難しいところ。愛があればいい人生になると信じている若い青年と、愛なんていらない金が全てだと思っている年老いた男ですが、それぞれ実は現実を見ていたり、空想が好きだったりと、相反するものを持っているので、そこがうまく混ざり合い、複雑になればなるほど面白く観ていただけるお芝居かなと思います」
 


――この作品の中で、特に興味深いところは?

「一人の女性に振り回される、男二人という構図が人間くさいなと思います。この芝居は、『てめぇこの野郎!』と胸ぐらつかんでどちらかが殴れば、5分で終わるような内容です。それを2時間かけてやるというのは、文化や年代の違いはあるけど、お互い何かしらシンパシーを感じているんですよね。常にバチバチではなくて。お客様が笑えたり、ホッとする瞬間もたぶんあると思います」
 


――男ならではの嫉妬、というのも感じるのですが。

「まさにそうですね! これ、女性二人が男一人をめぐる物語だったら全然違うものになると思います。結局、お金とか宝石とか分かりやすいものでマウントを取ろうとする。非常に男くさいと感じるし、そこはバカだな~と思っていただいて構わないです(笑)」


――柿澤さんは吉田さんと『デスノート THE MUSICAL』などで共演され、『アテネのタイモン』では演出も受けられました。今回も吉田さんの演出ですが、いかがですか。

「先日、本読みで『カッキー(柿澤)、今適当にやったでしょ? もっと実感して』と言われて。演出家としても芝居を見抜く力が長けています。僕にとっては頼もしくもあり怖い存在だけど、稽古場を離れるとお茶目で、だからこそ後輩に慕われるのかなと感じます」


 
――吉田さんは柿澤さんを「俺の若いころにそっくり」と仰っているようですが。

「僕も鋼太郎さんも劇団四季出身ですが、舞台って日本ではまだまだマイナーな部分があるんですよね。鋼太郎さんはシェイクスピアを上演する劇団をつくり、蜷川さんに才能を見出され、今や日本を代表する俳優だけど、『なんで世間は俺のことを認めてくれないんだ』と思っていたらしいです。僕はこれまで作品と役に恵まれてきたけど、全然満足はしてないし、もっともっと売れて、色んな人に舞台を観にきてほしい。そういうところが似ているのかな。僕も鋼太郎さんも役と自分を重ねるところがあると思うのですが、今回の鋼太郎さんの役は売れている金持ちとか、境遇が似ているんですよ。それに鋼太郎さんの奥様とも親しくさせてもらっていて…あ、別に僕と何もないですけど(笑)、この作品の妻が、鋼太郎さんの奥様に見えてきたりもして、マイロの立場を実感しやすいし面白いです」


 
――最後にお客様にメッセージをお願いします。

「今演劇界がストップしたら、もう灯が消えてしまうので、少しずつでも進んでいかなければと思っています。絶対にこの作品をやりたいし、どうかお客様にも演劇を支えてほしいです。2021年は少しでも前向きに生きていきたいし、この作品がそのための第一歩になるかなと。ひとつの台詞、ひとつの動きも見逃してほしくない、手に汗握る濃厚な芝居なので、劇場でお待ちしています!」
 



取材・文:小野寺亜紀
 
 

公演情報

「スルース〜探偵〜」

■作
アントニー・シェーファー
■演出
吉田鋼太郎
■出演
柿澤勇人、吉田鋼太郎

2021/02/04(木)~2021/02/07(日)≪全5回≫
サンケイホールブリーゼ

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