2020/3/20
取材レポ
1971年に演劇活動を始め、最近では、NHK朝の連続テレビ小説「スカーレット」での深野心仙先生役も話題になったイッセー尾形。「(『スカーレット』は)反響が大きかったですね。京都駅でお子さん連れのお母さんに『フカ先生だ!』と声を掛けられましたから(笑)。自分じゃない誰かをやるという意味での距離感は、舞台もテレビも変わらないと改めて思いましたね」。
そんな彼にとっても、大阪の近鉄アート館は特別な劇場である。「何十年も前ですけど、初めてギョッとした空間ですね。ちゃんと足の先まで作らないといけないと思えた空間です。僕の事をよく御存知の方もいるので、そんな見慣れたお客さんと新しいモノを作って、今年も楽しみたいですね。でも、アート館のお客さんは相変わらず厳しいですよ。そこは昔も今も変わらない。もちろん、それは嬉しいんですよ。ネタを育ててもらえる関係でもあるわけですから。面白くない時はシーンとするし、お客さんの『あっ、笑えない…』みたいな空気感を肌でつぶさに感じますから(笑)。そんな時はホテルの部屋に帰って、すぐ台本を作り直します。お客さんが色々と教えてくれるんですよ。本当に貴重な劇場なんで、大事にしたいですね」。
2015年、夏目漱石の作品を元にひとり芝居を作る事から始まった文豪シリーズ。最初に文豪を題材にひとり芝居を作ろうと思ったきっかけは何だったのだろうか。「30年ほど自分でネタを作ってきて、8年前に一緒にネタを作ってきた演出家と別れたんです。演出家との関係で生んできたものが、もう出来なくなって、やるだけの事やっちゃったんだなと思ったんです。で、自分だけの中には何があるだろうと考えた時に、たまたま夏目漱石の生誕記念とかで、ひとり芝居の話をもらったんですよ。自分から発信して作るというより、漱石から刺激を受けてネタを作る。無責任だけど、責任も取るという僕の好きなパターン。漱石の世界とも言えるし、僕の世界とも言えるし、何か二股をかけた感じというか。ひとりだけでネタを作ると自分だけが責任を取らないといけないけど、今は責任の半分は文豪さんにもあるので(笑)。まぁ、ほとんどの文豪さんは今いらっしゃらないしね(笑)。ネタを作る根拠が文豪さんにあるから、僕にとっては楽なんですよ、最初は。でも、作り始めると結局、今までのひとり芝居と同じなんです。『後は、こっちで作るから、ここからは(文豪さんは)黙っていて!』みたいなね。基本的に小説は読まなくて、ドキュメンタリー系を読む事が多かったですけど、いざネタ作りで名作を読んでみると、名作って、それだけで心動かすものがあるんです。だけど、名作から手を差し伸べられるというより、僕の方からも食指を伸ばすんですよ。そして、何とか自分の世界に引っ張り込んでいきますね」。
夏目漱石から始まり現代の世界まで描くのが、文豪シリーズのひとつの醍醐味。昔と現代で感じる変化については、「昔の小説は主人公以外の行き来も描かれているので、そのあたりがカバーしやすい。でも、現代の小説は主人公が魅力的なんだけど、他の登場人物は誰がいたんだろうってなる。より主人公だけを内向的に掘り下げる時代になったんですよ。昔は水平で、今は掘り下げるという意味で垂直に変化したイメージ。だから、現代の小説から作るのは難しいです、早い話。昔の水平な感じの小説の方が作りやすい」と分析する。
今回はサルトル、カフカ、川端康成といった小説家から、詩人のブローティガン、フォークグループの五つの赤い風船など幅広い題材が扱われる。「まだまだ現代の世界まで時間があると思ってたけど、やりたい時にやっちゃった方が良いかもと思って。例えば昔の話だとギリシャ悲劇もあるし、また昔の話に戻っていくかもだからね。歴史を順序立ててやるよりも、自由に遊びたいなと。だから、活字だったら何でもいいんですよ! 小説だけじゃなくて、詩でも、音楽でも、絵でも、彫刻でもいい。僕にとっての文豪は小説だけの世界にいるんじゃないなって。もしも文豪シリーズに飽きたら、前のひとり芝居でやったキャラクターをもう1回やろ(笑)。ただ若い時はキャラだけで満喫や充足が出来たけど、歳を取ってくると、中々、新しいキャラ作りも出来なくて。この歳になったからこその新しいキャラも作りたいんですね。これさえ出しとけば大丈夫みたいな。まぁ、今後をお楽しみに! 今回は、どっから手をつけていいかわからないけど、今、一生懸命書いてますよ!」
TEXT: 鈴木淳史
イッセー尾形の妄ソー劇場~文豪シリーズその3~
日替わりプラス1
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近鉄アート館
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