＜神戸公演に際してのお願い＞

年甲斐もなく、とはこういう事を指すのでしょうが、公演日は、あくまでホール側と我々のスケジュールを擦り合わせた上での物で、聖ヴァレンタインズ・デイ近く狙い。といった笑、書いていても腰が砕けるような事実は全くありません笑。というより、古参である大向こうの皆様ならご存知の通り、私はいかなる記念日だとも、オーディエンスの方からお持たせを頂くことは（それが皆様の喜びである事も重々承知の上で）、個人的なポリシーとして善しと致しませんでしたので、丁重にお断りして参りました。様々な料金、そして演奏への反応だけで私は本当に、充分です。

新宿歌舞伎町に住み、まだ歌舞伎町が（オリンピック誘致による、石原都政による）「浄化」される前などは、ダンボールハウスに居住する方々がマンションのエントランスや出口周辺に１０名ぐらいはいらして、ご近所付き合いをしていたものですから（出かける時はみなさんと挨拶を交わし、時折飲み会などもしていました。今はもう新宿にいなくなってしまった路上生活者の皆さんは、病院に搬送されて命を落とす方もおり、コンビニが生鮮食品の廃棄に関して制限を強めてからは、降雪する真冬に売り切れのアイスクリームで糖質を摂る方さえいらっしゃいました。そういう時代が本当にあったのです）、「食べきれない場合は、慢性的に栄養が必要である、ご近所の方々に差し入れます。それでもよろしければ」というエクスキューズをアナウンスしても（住所バレしていたので）、マンションの郵便受けにパンパンにショコラの箱が詰め込まれて、引き抜くのに難儀したほどです。

それから幾星霜、どういう風の吹き回しか今回「当日、ショコラを差し上げたく、どうしたらよろしいでしょう」というお声を多数頂戴しまして、困惑するほどなのですが、年寄りが困惑していても仕方がありませんので、会場受付にお預け下されば必ず拝受させて頂き、私、現在ダイエット中、並びに審美歯科にて長期診療中ですので、一箱につき一粒ずつ頂戴し、あとは大儀見と早川が残らず平らげますが笑、それでも構わない、という方のみ、有り難く頂戴させて頂きます。

また、私事になりますが、先日、私の最愛の女性である育母が天寿を全うし、喪中にてステージに上がる事に相成りましたけれども、どうかそちらもお気遣いなきよう。彼女の魂は、むしろ肉体を失ったことで、更に私の側にあります。

それでは、神戸でお会いできることを楽しみにしております。関西地区でのライブは、遺憾ながら年内はこの日だけになる公算が高く、一つ前のポストにあります通り、ボックスセット「天使乃恥部」をお買い上げの方を対象に、急遽サイン会を行わせて頂く事に致しましたし、何よりも楽団一同、今年最初の演奏＝２度目のリリース・パーティーに向け、大いに士気を高めております故、残席僅少ではありますが、まだご予約まだ間に合いますし、当日券もーー高い確率でーー発券させて頂きますので、変わりゆく世界の中、何せ一度ご経験して頂きたく。

菊地成孔