
new 2026/3/19
公演レポ
自分はこの人のことが好きだ、とわかった瞬間を覚えているだろうか。
激しい胸の高鳴りがあったとき、あるいは穏やかにそこへ向かっていった道のり。
人が人を純粋に好きになり、その人を喜ばせたい、喜ぶ顔が見たい、そうして自分も幸せな気持ちになりたいと心の底から願う。そんな人として当たり前の自由な心に改めて気づかせてくれるのが、このNAPPOS PRODUCE舞台『oasis』だ。
2002年に公開されたイ・チャンドン監督の韓国映画『oasis』は、鮮烈で衝撃的な作品として数々の映画賞を受賞し、国内外で一躍好評を博した。公開から20年以上を経た現在も、多くのファンを惹きつけながら輝き続けている。30歳を目前に出所してきた社会になじめない青年と、生まれながら脳性麻痺を患い体が不自由な女性の純愛を核に、家族や近隣住人との切っても切り離せない濃い人間関係をも描く本作は、誰も長らく舞台化しようとしてこなかった。
そしてこの度、映像作品から舞台まで手掛ける□字ックの山田佳奈が、脚本・演出を担って初の舞台化を果たすことになった。主人公のジョンドゥを演じるのは、山田が信頼を寄せるSUPER EIGHTの丸山隆平。ジョンドゥと心を通わせるコンジュには、ダンサーとして世界的に活躍する菅原小春が挑む。
共に難役だが、完成した舞台では、それぞれが唯一無二の存在感を放ちながら魂を燃え上がらせていた。
東京での初日の模様をレポートする。
前科三犯のジョンドゥ(丸山)は、直近のひき逃げ事故の罪により2年6か月の服役を終えて出所。極寒の中、入所した際の夏服で放り出される。その足で戻った自宅には他人が住んでおり、家族は行方知らず。金もなく無銭飲食で連行された警察署に迎えに来たのは、弟のジョンセ(田中俊介)だった。
母、兄、義姉の家族はジョンドゥに冷たい。問題ばかり起こすジョンドゥを完全に持て余している。ところが、当のジョンドゥは、言動こそ衝動的で奇想天外だが、見ているこちらが代わりに言い訳してやりたくなるほど、多くを語らずずっと朗らかなのだ。やりたいと思えばやり、会いたいと思えば会いに行く。兄のジョンイル(深水元基)に「大人になれ」と何度言われても、理解できないのか、理解したくないのか、自分の思いに正直にどんどん動くのがジョンドゥだ。

ジョンドゥとコンジュの出会いも、ジョンドゥから訪ねたことにあった。コンジュはひき逃げ事故で亡くなった清掃員の娘で被害者遺族。一般常識的には、加害者のジョンドゥがニコニコと挨拶に行ける相手ではないが、出所翌日には「来たほうがいいと思って」と躊躇がない。コンジュの兄(水橋研二)や義姉(武藤晃子)、隣人夫婦(富山えり子、久保貫太郎)らに拒絶されても、それからもジョンドゥはコンジュの元へと通うようになる。
丸山がジョンドゥになってちょこまかとリズムを刻むように弾んでいる。姿のいい彼が愛嬌たっぷりに動き回るので、こちらもつい頬がゆるんでしまう。と、思えば、そこでそうくるか!?強引すぎないか!?と危なっかしくもあり、読めない言動にはハラハラの連続だ。
しかし、コンジュは、そんなジョンドゥに完全にペースを握られているわけではなかった。体は不自由かもしれないが、心は敏感な女性のおもむくまま。ダンサーとして鍛え上げられた菅原の肉体はなんの違和感もなく、その体に宿る感情も溢れるほどに、コンジュとして真正面からジョンドゥにぶつかっていく。
俳優として演じる上では、菅原の肉体的負担はただならぬもの。だが、そこは丸山がパートナーとして頼もしく寄り添う。それがそのまま、ジョンドゥとコンジュの結びつきに重なり、いま目の前で育まれていく純粋な愛を目撃することになった。
コンジュは、いつ、ジョンドゥを好きになったのだろう。
そしてジョンドゥは、いつ、コンジュをかけがえのない宝物だと知ったのだろう。
家族や隣人はコンジュを長年見守り、世話をしてきた。が、コンジュの本心や本音を一番理解するのは、会って間もないジョンドゥだった。2人の会話は微笑ましく、実にゆったりと客席にも聞こえ、通じ合っていることがよくわかった。それだけに、家族や隣人に2人の話が通じない場面では悔しさを覚える。もちろん、家族や隣人にしてみても、2人の気持ちがわからなくて悔しいに違いない。
丸山も菅原も実にのびのびと、人目をはばからず(!?)思いを素直に表していく。大胆なのか、臆病なのか、揺れ幅の大きなジョンドゥを丸山が演じるとかわいらしくもある。一方、菅原演じるコンジュは、ジョンドゥと触れ合うたびに女性としての魅力を増し、すこしばかりやんちゃなカップルが出来上がっていった。

人の中にある感情のひだを繊細に描こうとするとき、表情のアップなど映像的な効果が使える映画に対し、舞台の強みは生の人間がそこで躍動していることにある。本作でも、俳優全員の一致団結で素早く魅せる場面転換の妙技や、舞台空間を広く使った2人の距離感、コンジュが恐れる木の陰の迫力など、舞台らしい演出が随所で光った。映画『oasis』で印象的な、コンジュの部屋の「oasis」のタペストリーからインドの子どもや踊り子、小象が現れるシーンも、舞台ならではの楽しませ方で彩られている。
脚本・演出の山田は、自身が一番愛してやまない映画が『oasis』だと公言する。まさかと思った舞台化の念願を叶えただけに、映画へのリスペクトも散りばめられ、ぜひ映画ファンにも見届けてほしい。
初日を見終わり、再びあの疑問が頭をかすめた。
コンジュは、いつ、ジョンドゥを好きになったのだろう。
そしてジョンドゥは、いつ、コンジュをかけがえのない宝物だと知ったのだろう。
すこしだけ、自分と、自分の大切な人を思い浮かべて重ね、もう一度本作を見て確かめたいと思った。
ジョンドゥの愛し方は、コンジュにどう通じたんだろう。
コンジュからジョンドゥへの愛は、どんな羽を広げていたのだろう。
もう一度見てそれを確かめることで、自分の愛も大事にできるようになりたいと願う気持ちだ。


NAPPOS PRODUCE
舞台『oasis』
■原作
イ・チャンドン
■脚本・演出
山田佳奈
■出演
丸山隆平 菅原小春
田中俊介 深水元基 岩本えり 水橋研二 富山えり子
中原三千代 武藤晃子 久保貫太郎
池田遼 石森美咲 上ノ町優仁
▶▶オフィシャルサイト
|日時|2026/04/04(土)~2026/04/12(日)≪全11回≫
|会場|森ノ宮ピロティホール
チケット発売中!
▶▶公演詳細
|日時|2026/04/17(金)~2026/04/19(日)≪全4回≫
|会場|東海市芸術劇場 大ホール
チケット発売中!
▶▶公演詳細