
new 2026/3/4
インタビュー
――久しぶりの主演舞台になりますが、なぜ今このタイミングで舞台を?
「元々舞台は嫌いじゃなくて、むしろ好きなんです。でも映像の仕事に対する熱量が高い時期が続いていたこともあり、少し期間が空いてしまいました。ファンの方たちから「舞台も観たい」という声をいただいていましたし、いい作品とご縁があればやりたいなと思っていたんです。そのタイミングが今だったという感じですね。」
――本作のオファーを受けた決め手は?
「お話をいただいた時点で、すごく心を動かされたんです。『赤坂檜町テキサスハウス』は、崔さんが亡くなる間際に、長年映画制作を共にしてきた鄭さんへ舞台化を依頼した作品。まずその経緯に胸が熱くなりました。それほど大事な作品を作る上で、僕に主演をオファーしてくださったことも嬉しかったです。作品の裏にも、作品そのものにも、熱いドラマがあると思います。」
――最初に『赤坂檜町テキサスハウス』というタイトルを聞いたとき、どんなイメージが湧きましたか?
「原作を知らなかったので、「アメリカの話?ステーキ屋さんかな?」みたいな(笑)。でも企画書を読ませていただく中で、戦後の日本の大変な時期に、メディアの仕事をする人たちが集まる特別な場所があったのだなと。みんなが暮らしていたアパートの通称が“テキサスハウス”なんですね。昭和の時代に漫画家の人たちが暮らしていたトキワ荘のようなイメージ。人の温もりが感じられるいい時代だったのだろうなという印象を受けました。クスッと笑えるエピソードもあると思いますし、いろんな喜怒哀楽を通して観た人の心が温かくなる作品になったらいいなと。」
――伊藤さんが演じる永六輔さんは、強い個性を放ち、カリスマ的存在感がある方です。
「実在の方や漫画原作のキャラクターを演じるとき、これまではあまりそのことを意識しないようにしてきました。でも今回は、永六輔という人物像を大事にした方がいいんじゃないかと考えています。もちろんモノマネをするわけではなく、僕のオリジナリティも残しながら演じるつもりです。でも、仕草や喋り方や声のトーンなどは研究して、なるべくご本人に近づけたいと思います。」
――そう思うのはなぜですか?
「勘ですね。10年前までご存命だった方ですし、みなさんの記憶の中に永六輔という人物像がしっかり残っていると思うんです。そのイメージからあまりにかけ離れていると、永さんとして見てもらえないんじゃないかなって。演出の鄭さんと話し合いながら、演じ方のいいバランスを探っていきたいです。客席から舞台を観たときに、「永六輔がそこにいる」と思ってもらえたらベストですね。」
――お稽古までにどんな準備をしたいですか?
「ありがたいことに永さんの映像資料がたくさんあるので、それらをとにかく見ようと思っています。そこにヒントがいっぱい隠れているんじゃないかなと。まるでアメリカのスタンダップ・コメディアンのように喋るんですよ。そんな永さんの話し方を、自然と表現できるようになるのが目標です。」
――舞台ならではの魅力はどんなところに感じますか?
「舞台の稽古は、とにかく繰り返す作業を通して動きやセリフを叩き込む時間だと思うんです。でもいざ本番になったとき、叩き込んできたものがガラッと変わってしまうこともあります。それは意図して変えるわけではなく、その日のお客さんの反応や公演する場所など、その場の空気感によって起こるポジティブな変化なんです。舞台は生モノとよく言いますが、いつ何が起こるかわからない独特の緊張感も魅力のひとつだと思います。
共演者やスタッフの方々との間に生まれるファミリー感も好きです。舞台では稽古と本番で合わせて約2ヶ月、家族よりも長い時間を共にします。でも本番が終われば、もしかしたら二度と会わない人もいるかもしれない。不思議ですよね。短い期間でギュッと凝縮してみんなで作品作りをする過程は、舞台ならでは。そこで生まれたカンパニーの関係性や温かさを、作品を通して伝えられたらいいなと思います。」
――今年29歳を迎えますが、20代最後の今、俳優の仕事とどう向き合っていらっしゃいますか?
「20代最後だから何かを変えようとは思っていません。でも、客観的に見ても30歳を超えてからの俳優の仕事は、20代と全然違う部分があると思います。演じる役柄も変わりますし、できることが少なくなっていくのと同時に、新たにできることも増えていくと思います。だから20代後半というのは、今しかできないことを積極的にやっていく期間であり、30代に向けての準備期間。とにかくインプットを重ねて蓄えていくことが大事なんじゃないかなと思います。」
――インプットとは、例えばどういうことでしょう?
「他の俳優さんとの違いを見て学ぶこともあるでしょうし、普段の生活スタイルの変化から得られるものもあると思います。例えば10代と20代で24時間の使い方は全然違いますよね。俳優という職業は、ありがたいことにどんなことでも仕事に繋げることができるんです。ただ街を歩いているだけでも、アンテナを立てていればインプットすることができます。20代半ばを過ぎてから、仕事のことを考える時間がどんどん増えてきているんです。こういうお芝居をしたいとか、次のお芝居はどうやろうかとか、今回で言うと永さんをどう体現しようかなとか。ここ数年で、お芝居に対する姿勢が変わってきていると感じます。」
――大阪での舞台出演は2019年の『春のめざめ』以来ですが、楽しみにしていることは?
「東京でウケたと思ったところが大阪では全然ウケないとか、箱が変わるとお客さんの反応が面白いくらい違うことがあるんです。客席の雰囲気も全然違うので、近鉄アート館ではどんな空間が広がっているのか楽しみですね。あと、美味しいものを食べたいです(笑)。僕、大阪の煙もくもく系の焼肉が好きなんですよ。東京とタレの味も違いますし、何よりあの雰囲気が好き。ベタですがタコ焼きも食べたいですね。久しぶりの大阪なので、いろいろ調べて行きたいなと思います。」
――この作品を終えたとき、どうなっていたいですか?
「舞台では一つひとつの表現や声の出し方など、映像のお芝居とは違うところがあります。久しぶりの舞台なので、この作品を通して舞台におけるお芝居でも成長できたらいいなと思います。何より、チケットを買って観にきてくださるお客様に120%の満足感を持って帰っていただきたいです。それが僕の今一番強い想いです。」
取材・文:松村蘭(らんねえ)

赤坂檜町テキサスハウス
■原作
永六輔(大竹省二・写真/朝日新聞出版「 赤坂檜町テキサスハウス」)
■脚本・演出
鄭義信
■出演
伊藤健太郎 / 大鶴佐助 / 福井晶一 / 酒井大成 / 小川菜摘 / みのすけ
▶▶オフィシャルサイト
|日時|2026/05/28(木)~2026/05/31(日)≪全6回≫
|会場|近鉄アート館
▶▶公演詳細