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【柳家三三】「笑いが少ない」とされる演目に隠された笑いの要素を引き出す

2025/5/13

インタビュー

柳家三三独演会 ~笑いあり、涙あり 三三の落語玉手箱~

落語家の柳家三三が6月14日、ナレッジシアター(大阪)にて『柳家三三 独演会 笑いあり、涙あり 三三の落語玉手箱』を開催する。『平成27年度(第66回)芸術選奨 大衆芸能部門「文部科学大臣新人賞」』など数々の賞を受賞し、国分太一主演映画『しゃべれども しゃべれども』(2007年)では落語指導、漫画『どうらく息子』(小学館)では落語監修を担当。さらに、2024年のさだまさしの年越しライブ『さだまさし カウントダウン in 国技館 特設サイト』にゲスト出演し、立川談春とともに「芝浜」を披露。さまざまな活動を通し、幅広いファン層を持つ三三。今回の独演会では、生で聞く機会が少ない貴重な演目も披露予定。そんな同公演について、話を訊いた。

――今回の『落語玉手箱』というタイトルにはどのような気持ちが込められているのでしょうか。

「落語とは笑いがメインに据えられているもの。しかし実際に聞いてもらうと、もちろんそれだけではありません。喜怒哀楽などいろんなタイプが揃っていて、ひとつの噺の中でも、笑う部分もあれば、グッとくるところもあります。独演会ではいつも彩りを考えて演目を組みますが、今回はよりバラエティに富んだ内容になっています。ネタ選びも、それぞれができるだけ遠い位置にあるものにしました」


――「お直し」(12時開演回)、「髪結新三」(16時開演回)が演目として事前に告知されています。両演目とも、なかなか生で聞くことができないものですね。

「いつも大阪で落語会をやるときは、大阪の方に馴染みのないものを意識して演目に入れています。でも今回は東京でもあまり聞かない噺をやろうかなって」


――なぜ「お直し」、「髪結新三」は大阪だけではなく、東京でもあまり聞くことができない噺なのでしょうか。

「笑える回数や量が少ないとされていて、『わざわざこの噺をやらなくてもいいんじゃないか』と思われるところがあるんです。だけど私は『みんなは演目として選ばないかもしれないけど、実はこういうおもしろさがある』というのを感じているんです。笑いの量もそうだし、物語としても『興味深い』という意味でおもしろいんです」

――初めて聞くお客さまはきっと、発見や驚きが多いかもしれませんね。

「出あったことがない噺を前にするとワクワクしますよね。今は、調べたらネタの内容は知ることができます。でも生で初めて聞く瞬間の高揚感は、そこでしか味わえない。きっと興味深く聞いていただけるのではないでしょうか」


――ただ、笑える回数や量が少ないとされている演目をやる怖さはありませんか。

「怖さはそこまでないんです、一般的には『笑いが少ない』とされていますが、実際にやってみるときちんと笑いの要素を含んだやり取りが隠れています。そこをちゃんと見つけ出して味付けを施すと、おもしろい部分が引き立つんです」


――「お直し」は江戸時代の吉原遊廓を舞台にした噺。しかし今は「時代にそぐわない」と敬遠されがちな噺だと言われています。

「登場人物たちの置かれている状況が悲惨ですし、吉原の女郎屋の中でも特に底辺の噺とされていますから。そこまでの題材を扱っている落語はあまりないので、確かに特殊な話です。登場人物たちは最底辺の中で最低な目に遭います。しかしそういう状況の中『不幸な人はずっと深刻な顔をしていなきゃいけないのか』というと、決してそうではありませんよね。そんな人たちでも笑える瞬間はある。そして真剣に生きているからこそ、滑稽さやおかしみも生まれます」

――「お直し」は「難しい演目」ともされています。どういうところが難しいのでしょうか。

「一番大きいのは、技術的な面。うまくいけば笑いを生むであろうところも、それがなかなか表せない。つまり、落語家にとって普通にやるにはちょっと面倒くさいところがあるネタ。いろいろ工夫しないといけませんから。でも噺をしっかり読み解いて演じてみると、ちゃんとおもしろいんです」


――「髪結新三」も、誰もが手を出せる演目ではないとされています。

「『髪結新三』は長い噺であること、そして構成として滑稽話とは全然違うことが、そう言われているのだと思います。滑稽話の手法だけ持っていても、演じるのは難しい。では人情噺かというと、必ずしもそうではないですが、昔の区分けで行くとこれは人情噺になっています。しかしほかの人情噺とは異なり、『髪結新三』は会話の噛み合わせ方や妙味で興味深くさせていく。つまり、コメディ、ファニーではなく、インタレスティングな話なんです」


――なるほど。

「『髪結新三』は落語的な会話主体の噺でやってみようとしても、なかなかうまくいかない。ほかの人情噺とはちょっと違う筋肉が必要になります。短距離走と長距離走ほどは違わないけど、100メートル走と400メートル走のちょっとした筋肉の違いみたいなもの。でもそういう違いが、誰でもできる噺ではない理由なんです」

――ちなみに三三さんは『髪結新三』を何度かやっていらっしゃいますよね。

「初めてやったのは20代後半。それからコンスタントにやるのではなく、一度やったらそれから当分放っておくんです。そして何年後かにやってみると、前と見える景色が変わっている。同じ言葉を発しても、以前とは感情が違っています。そういう意味でこの噺は死ぬまで楽しめます」


――何年か放っておくと「『髪結新三』を久しぶりにやってみたいな」という気分になるのでしょうか。

「そうなんです。『そういえば、やっていないな』と、サイクルのように巡ってきます。あと落語をやっていると、日常生活のふとした瞬間、『この出来事って、落語のあの場面と同じじゃないか』ということが時々あるんです。そうすると、たとえば今まで興味がなかった場面や噺が急におもしろいものとして立体的になる。『髪結新三』もやはりそうやってふとしたときに思い出し、『やってみようかな』となります」


――振り幅が大きな演目をご用意されているということで、お客様もいろんな楽しみ方ができる独演会になりそうですね。

「『笑いあり、涙あり 三三の落語玉手箱』のタイトル通り、バラエティに富んだ演目をやりますが、それはこちらの思惑なだけですし、どのように聞いてくださっても構いません。うんと明るい話なのに、泣けてしまうかもしれませんから。笑うか、泣くかはお客様次第。当日、私の落語を聞いてどんな感情が起きるのか。楽しみにいらしてください」

取材・文:田辺ユウキ

 

柳家三三独演会
~笑いあり、涙あり 三三の落語玉手箱~



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大阪公演

|日時|2025/06/14(土) 12:00 / 16:00

【12:00公演】
演目「お直し」他

【16:00公演】
演目「髪結新三」他

|会場|ナレッジシアター

▶▶公演詳細

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