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【エドモン~『シラノ・ド・ベルジュラック』を書いた男~】東京公演開幕レポート

2025/4/17

公演レポ

パルコ・プロデュース2025 「エドモン ~『シラノ・ド・ベルジュラック』を書いた男~」

加藤シゲアキが主演する舞台「エドモン~『シラノ・ド・ベルジュラック』を書いた男~」が4月7日(月)に東京・PARCO劇場で開幕した。フランスの若手劇作家兼演出家アレクシス・ミシャリクによって2016年にパリで初演され大ヒット、2018年にはミシャリク自身の手によって映画化もされた作品(「シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!」2020年日本公開)。日本ではマキノノゾミの上演台本・演出で2023年に初演、テンポの良いドタバタコメディでありながら、フランス産らしいおしゃれさもある内容に評判の高かった作品が、加藤はじめ初演からのキャストが多数続投しての、待望の再演となる。

場所は1895年のパリ、木造の古い劇場。大女優サラ・ベルナールが時代がかったポエティックなセリフを朗々と口にしている。戯曲を書いたのは若き作家エドモン・ロスタン。サラ本人は気に入っているようだが、評判は散々。世紀も変わろうとする世の中で、美しい装飾的な言葉で綴られるエドモンの戯曲は時代遅れ、前世紀の遺物扱いだ。それから2年、スランプに陥りまったく書けないロスタンのもとにサラが現れ、喜劇王コクランのための作品を用意するよう言ってきた……2時間後までに! そこから、長い間まったく何も書けなかったエドモンが頭を打ち付けるように悩み、大女優や大根役者やスポンサーに振り回され右往左往しながらも、ミューズとの出会いと親友の恋、妻の支え、行きつけのカフェの店主の哲学などにひらめきを得て、200年後の現代まで残る傑作『シラノ・ド・ベルジュラック』を生み出すまでの混乱の過程が、賑やかに描かれていく――。

スピーディな舞台だ。エドモンの脳内のひらめきを表わすかのように次々とシーンは移り、俳優たちはめまぐるしく何役も演じ分けていく。その中で翻弄されるエドモン役の加藤がとても愛らしい。強引で勝手なキャラクター揃いの周囲の人々に押し切られ、常にあわあわと駆けずりまわる。借金の無心の手紙すら韻を踏んでしまうロスタンの“残念っぷり”などもユーモラスで、本来、堂々とした紳士の象徴たるカイゼル髭すら、なぜか情けなく見えてしまう。しかしながら、自分の愛する芸術への思いはぶれない。そのひたむきさは加藤自身の持つ人を惹きつける力とあいまって、話が進むにつれどんどんエドモンの魅力が増し、どんどんエドモンのことが好きになってしまう。

エドモンを取り巻く人々も個性豊か。喜劇王コクランを演じる村田雄浩は、エドモンに無茶をたきつけながらもその才能を信じている温かさ、愛情もしっかり表現。劇中劇の主演シラノ役を嬉しそうに演じている姿もお見逃しなく。“20代のヒロイン・ロクサーヌを演じる45歳の大女優”マリア・ルゴーは安蘭けい。我儘も多くみんなに煙たがられながらも、ロクサーヌを演じると一瞬で周囲を黙らせる説得力は、コミカルもシリアスもお手のものの安蘭の本領発揮だ。含蓄深い言葉の数々でエドモンに多くのヒントを与えるカフェ店主ムッシュ・オノレの堀部圭亮の静かで迫力ある存在感ほか、12名のキャスト全員がチャーミングだった。

もちろんフランス演劇界最高の栄誉モリエール賞で作品賞ほか5冠に輝いた戯曲の構造も面白く、エドモンの美文に心酔する衣裳係ジャンヌ(瀧七海)と、ジャンヌに恋するエドモンの親友レオ(細田善彦)のやりとりが、そのまま『シラノ~』でのシラノ、ロクサーヌ、クリスチャンの関係に重なっていくところは、作品誕生秘話、バックステージものとしてワクワクする。何よりも、演劇愛に満ちているのがいい。最初はスポンサーやプロデューサーの顔色を伺っていたエドモンが、筆が進むにつれどんどん周囲に惑わされず己を押し通していく姿は、彼に自信が宿ったというよりも、演劇という芸術に身を捧げる芸術家の本質が剥き出しになったよう。その純粋な芸術愛は尊くまぶしい。

勝手を押し通そうとする出資者や、どうしても立ち回りを入れたいコクラン、我儘ばかりのマリアら、ある種ステレオタイプな“問題児”たちも、次第にエドモンの戯曲、芸術の前に大人しくなっていく。彼らもまた、芸術を愛する者たちなのだ……。ドタバタコメディが行き着く先には、芸術讃歌が燦然と輝く。2時間ノンストップで奮闘するキャラクターたちの姿を無邪気に笑って楽しめる作品であるが、演劇好きな人ほど、胸に熱いものがこみ上げるに違いない。

東京公演は4月30日(水)まで。その後5月9日(金)・ 10日(土)に東大阪市文化創造館 Dream House 大ホールで、5月24日(土)には豊田市民文化会館 大ホール(愛知県)で上演される。

取材・文:平野祥恵
撮影:岡千里

 

パルコ・プロデュース2025
「エドモン
~『シラノ・ド・ベルジュラック』を書いた男~」


■出演
加藤シゲアキ
村田雄浩 瀧七海 細田善彦
福田転球 三上市朗 土屋佑壱
枝元萌 佐藤みゆき 阿岐之将一
堀部圭亮 安蘭けい

■作
アレクシス・ミシャリク
■上演台本・演出
マキノノゾミ

▶▶オフィシャルサイト




大阪公演

|日時|2025/05/09(金)~2025/05/10(土)≪全3回≫
|会場|東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール
▶▶公演詳細

愛知公演

|日時|2025/05/24(土)≪全2回≫
|会場|豊田市民文化会館 大ホール
▶▶公演詳細

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