2023/7/14
公演レポ
安田章大(関ジャニ∞)主演で、アンダーグラウンドの旗手といわれる唐十郎の戯曲「少女都市からの叫び声」が、東京の新劇場THEATER MILANO-Zaで開幕中だ。本作は、1969年初演の「少女都市」を改作し、1985年に劇団状況劇場が初演。その後、国内外でも上演され高い評価を受けている作品だ。
舞台に大きな地球が現れ、その下の手術台に安田演じる田口が横たわっている。やがて地球は胎児が眠る姿に変わる。田口のお腹からは長い髪の毛が出てきた。そして彼は、会ったことのない妹の雪子(咲妃みゆ)を探す夢の世界へ旅立つ。田口は雪子と会うが、彼女は右手の指を3本も失い、フィアンセであるフランケ醜態博士(三宅弘城)によって体をガラスに変える手術をされていた。
唐の作品に憧れていたという安田は、「主演できて嬉しい限りです。僕の表情を見たら伝わるかと思いますが、幸せですね。日本だけではなく世界に届けられるレベルで仕上がってきた。先輩たちから唐さんのエネルギーを受け継ぎ、次の世代につなぐという意味でも幸せだなと実感しています」と精悍な顔つきで語る。その情熱と信念が田口にも真っすぐに出ている。前回の主演舞台「閃光ばなし」でもシスコンの兄を好演していた安田だが、今回はさらに成長し、表現に力がみなぎっている。
咲妃はその透明感で、人形のように実体のないはかない雪子と、血の通った妹としてのリアルな雪子を多様に演じ分けた。咲妃は「課題がたくさんありましたが、先輩方がアドバイスをくださり、自分の中で雪子が肉付けされていきました」と話す。
劇団状況劇場出身で、自身が主宰する新宿梁山泊でも「少女都市からの叫び声」を上演し、この作品に約40年かかわってきた演出・出演の金守珍は、「唐ワールドはファンタジーの中にホラーがある。ファンタジックホラーとしてこれからの若い人たちが、次の世代に伝えてくれたら僕の役目は終わるのかな。あとは安田君に任せた」と信頼を寄せる。
満州で彷徨う亡霊の連隊長らを金とWキャストで演じる風間杜夫は、「唐作品は4回目ですが、一遍の詩みたいで抒情性がある。詩の世界を見事に現実化、可視化している」と作品を読み解く。安田も「唐さんの脳みその中をのぞいているわけですから、理解しきれない部分や、誤読している部分はもちろんあります」と言う。初めて唐作品に触れる観客は、無理に物語を理解しようとせず、ただ流れに身を任せてみるのもいい。金が「現代歌舞伎として楽しんでほしい。かぶくものたちが暴れますよ」と言う通り、安田や咲妃らによる歌のほか、キャストの掛け合いが風刺も交えて楽しめ、奇想天外な物語が吹雪のように展開していく。
田口はフランケ醜態博士の元から雪子を連れ出そうとするが、雪子は指を手に入れるまで逃げられないという。田口は自分の指を切り落とし雪子に渡す。雪子の真っ白な服が田口の血で染まっていく。「あたしは一生、あんたのガラスの女中さん」と雪子がいい、その肉体は、戦争で捕われた人々や、満州、シベリア、ウクライナの土地をも彷彿とさせる。亡霊の連隊長が「春になっても、夏になっても、俺たちは、帰れやしない。さびたサーベルの血だけが、俺たちの体を離れて、世界をさまよう」というセリフがこだまする。そのシーンは生き続け、あっと驚く幻想的なラストへとつながった。
金は「唐作品はアングラとして世の中に伝わっていますが、唐さんはアングラと名乗ったことはない。世間がアングラと揶揄していたところがある。作品は風俗として消えるものだと思われていたが、文化として残る。今回が出発点で、やっと答えが見つかった完成品」と言い切った。安田も「過去の大事なものを残しつつ、エンターテインメント性も含めて、進化しながら変化していく。文化は廃れないで今後も語り継がれる。僕たちの誠心誠意を受け止めてもらえればと思います」と力を込めていた。
分かりやすいものが瞬時に求められ、倍速で映画やドラマを見る人が増えた時代に、すぐには分からない作品はより魅力的だ。観劇後も唐ワールドを彷徨い続けるのが心地良かった。
取材・文=米満ゆう子
写真=細野晋司
COCOON PRODUCTION 2023
『少女都市からの呼び声』
■作
唐十郎
■演出
金守珍
■出演
安田章大、咲妃みゆ、三宅弘城、桑原裕子、小野ゆり子、細川岳
松田洋治、渡会久美子、藤田佳昭、出口稚子、板倉武志、米良まさひろ、宮澤寿、柴野航輝、荒澤守、山﨑真太、紅日毬子、染谷知里、諸治蘭、本間美彩、河西茉祐
金守珍、肥後克広、六平直政
|日時|2023/08/15(火)~2023/08/22(火)≪全10回≫
|会場|東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール
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