2021/9/24
公演レポ
僕は負けられない。その顔をした男との契りにかけて―――!呪術を用い災いから国を守る“狐の子”、安倍晴明。ほとばしる血と汗と涙。沸き起こる怒りと悲しみ。そして、盟友への尽きせぬ愛が男を奮い立たせる。
9月17日(金)に開幕した2021年劇団☆新感線41周年興行秋公演、いのうえ歌舞伎『狐晴明九尾狩』は、コロナ禍の世に待ち望まれた生命力に満ちた一大エンターテインメント。豪華客演陣、劇団員、アクションクラブ、アンサンブルが一堂に会し、『偽義経冥界歌』東京公演以来、じつに一年半ぶりとなるフルスペック公演で、連日観客を興奮と感動の渦に巻き込んでいる。
時は平安。宮廷で異端視される陰陽師・安倍晴明(中村倫也)が、国を滅ぼす妖かし「九尾の妖狐」に立ち向かう様を描く伝奇アクション時代劇。
晴明の幼馴染、陰陽師宗家跡取りの賀茂利風(向井理)が「九尾の妖狐」に身体を乗っ取られたことから、思わぬ盟友との心理戦が展開する。結界や神剣、呪術など少年漫画ばりの夢とロマンが詰まったファンタジックな物語を得て、待ってましたとばかりに手腕を振るう職人たち。デザイン性と色彩に富んだ衣裳、静と動をつかさどる照明、心情を揺さぶる音楽が立体的に作品世界を立ち上げ、勧善懲悪な筋書きも起伏に富み、飽きさせない。伏線回収のカタルシスから歌舞伎ならではのあっと驚く大仕掛けまで、血沸き肉躍る約3時間だ。
晴明と利風。ふたりの絆が強ければ強いほど、その後の展開に深みとエモさが増すのだが、演じる中村倫也と向井理が凄かった。抜群の芝居心で前半のわずかな回想シーンでふたりの関係性を決定づける。
利風の前では無防備なほど自然体で愛らしく、中性的な魅力が際立つ晴明。そんな彼を優しく見守る利風。ふたりの声色からは言葉以上の想いが伝わり、互いへの尊敬の念と親密さを印象付けるのに成功している。
主演の中村倫也は平安貴族の装いも見目麗しく、平素は柔和な博愛主義者。しかし、ひとたび危険が迫れば全身から覇気を漲らせ覚醒する。二刀を操る流麗な太刀捌きに、呪文を唱える様も堂に入る圧倒的主役感。迷わずシリーズ化を所望したくなるほどの英雄ぶりが光る。
対する向井理は知的な悪役として君臨する。沈着冷静な利風から徐々に妖狐の本性が顕わとなるスリリングな役作りで、段階的に声色を変え、重く暗く悪魔的魅力を開花させていく。
劇団初登場の吉岡里帆は、仇討ちのため妖狐を追い大陸からやって来た狐の霊。愛くるしさ満開のモフモフ担当だが、いのうえ直伝の笑いや殺陣も抜かりなく多彩に魅力を振りまく。
浅利陽介は四角四面な面構えで、己の義を貫く役どころ。不器用だけど実直な男の優しさが胸を打つ。竜星涼は荒くれ者を束ねる野武士の親分。甘いルックスとは裏腹にしゃがれ声の無骨さが新鮮。ガハハと笑う太陽みたいな存在感で、作品を一段と明るく照らす。
早乙女友貴は吉岡里帆と姉弟役の狐の霊。腕は立つのに若さゆえの純真さが仇となり、物語をかき乱す。憎めないお騒がせ要員のひとり。そして、裏ボス的存在には千葉哲也。権力を嫌い、妖かしと共生するはぐれ陰陽師として晴明の力となる。強面らしからぬギャップも見せ場のひとつだ。
手練れの劇団員も適材適所の活躍が楽しい。欲深い貴族や役人、義理人情に厚い無頼漢、一芸に秀でた妖かし、晴明が使う式神まで。2次元的キャラクターに命を吹き込み、作品を面白おかしく盛り立てる。とりわけ宮廷勢力の高田聖子、粟根まこと、右近健一は前後半で印象に変化もあり、ひねりが効いている。
大所帯に比例して画面いっぱいに見せ場が満載。その上、晴明と利風が舞台の両端に立とうものなら、到底ひとつの目では追いきれない。リピートせずにはいられない心持ちにさせられる。東京、大阪と、早々に追加公演が決定したのも納得の最新作だ。
取材・文:石橋法子
撮影: 田中亜紀
2021年劇団☆新感線41周年興行 秋公演
いのうえ歌舞伎『狐晴明九尾狩』
作 :中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:
中村倫也 吉岡里帆 / 浅利陽介 竜星 涼 早乙女友貴 /
千葉哲也 高田聖子 粟根まこと / 向井 理
右近健一 河野まさと 逆木圭一郎 村木よし子 インディ高橋 山本カナコ
磯野慎吾 吉田メタル 中谷さとみ 保坂エマ 村木 仁 川原正嗣 武田浩二
藤家 剛 川島弘之 菊地雄人 あきつ来野良 藤田修平 北川裕貴 紀國谷亮輔 下島一成
鈴木智久 武市悠資 山﨑翔太 岩岡修輝 小板奈央美 後藤祐香 鈴木奈苗 森 加織
日時:2021/10/27(水)~2021/11/11(木)≪全17回≫
会場:オリックス劇場
公演詳細